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    miikedobon

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    前回書けたら書くと言ってたやつです。包典で落ち着きました。
    良本丸大包平×訳あり大典太光世の設定は前回の投稿をご覧になってください。

    #包典
    bagDeng

    この手は君の為に ある日主に全員が呼び出され、他本丸の大典太光世を受け入れるといった報告があった。そして前の主が原因で…記憶、感情共に失なっているという事も伝えられた。その時の皆のざわめきは今でも忘れられない。俺たちの様子を伺いながらも主は口を開いた。

    「この大典太は主を救うために怪異に呑み込まれた、そして霊力を失ったことを理由に前の主に酷く捨てられた。」

     主は大典太を受け入れる前に俺たちにそう説明した。さらに補足として…

    「酷く幻想を抱いた為に天下五剣として相応しく在るべく、大典太にだけ過剰な迄に成果を求められた…上手く行かなければなんらかの酷い懲罰も行われていた可能性が高い。」

     …と、声を震わせながら言った。そして、あくまでこれは推測…そう最後に主は付け加えた……なぜなら証拠が全く無いからだ。そう話す主の表情は悲しみに溢れ、悔しそうな表情を隠しもしていなかった。それでも尚、主は言葉を続けた。俺たちは一言一句聞き逃さぬよう、真剣に耳を傾けていた。

    「証拠は霊力を失なったあの日、大典太の旧本丸を包み込んだ怪異によって全て呑まれ失なわれてしまった。酷く捨てられたあの日、元主である審神者にも調査が入れば何か分かったのかもしれない…でも、政府からの評判が良くて実力もあったから一時の気の迷いとして処理をされお咎めなしになった。」
    「あの日…たまたま居合わせ、大典太を救った私の担当政府職員から聞いた話……これが今、私が知る全てです。」

     動揺し言葉の出ないもの、前の主への怒りを隠さず口にするもの、霊力を荒ぶらせるもの…反応は様々だった。俺はただこの事実を受け入れるだけで精一杯だった。隣にいた鶯丸の表情は普段よりも険しく、両の手から血が出るのではないのか…と思えるほど力強く握っていた。

     俺たちが落ち着いた頃合いを見計らい、主は深呼吸をし、力強い声でこう告げた。

    「皆、私に力を貸して下さい。」

     俺たちに断る理由は存在しなかった。 そうして俺たちの本丸に大典太がやってきた。整った顔であるがゆえに、無表情さがより際立つ…主の部屋に飾ってあるリアルな人形のようだった。

     それから一ヶ月、審神者や他の仲間たちは様々な方法で関わりを持ち続けていた。内番以外では厨でお菓子作りをしたり、酒盛りに誘ったり、御茶会を楽しんだり…と、まぁ自らの得意分野で人の身を得たことは悪いことばかりではないということを伝えようとしていた。もう一つの目的は仲間であるということを理解してもらう…ということだ。
     初めの方は無表情で野良猫の如く警戒心を見せていた、そんなあいつに皆根気よく向き合った。皆の努力もあり、この一ヶ月でかなり大典太の状態は良くなったように思える。警戒心は無くなり、僅かだが表情に変化も出てきている。それに、少しずつだが皆と関わろうとしている様子は見られた。
     しかし、どうも無理をしているように俺には見えてしまう。どうしたものか…と縁側で一人で考えていると、元々本丸にいた方の大典太の方から珍しく俺に声を掛けてきた。

    「…おい」
    「…っ、気配を消しながら近づくんじゃない。」
    「すまなかったな、隣…座らせて貰うぞ。」

     本当に珍しいことで、俺は一瞬狼狽えてしまった。そんなことはお構い無しに大典太は俺の隣に腰を下ろし、口を開いた。

    「大包平、お前はどう思う。」
    「主語を話せ、言いたい事が全く伝わらん。」
    「…どうせ俺は、他刃に自分の意思すら伝えられないそんな刀だよ。」
    「キツく言って悪かった、ゆっくりでいい…何があったか話してくれ。」

     落ち込む大典太を宥め、こいつが言わんとしていることを話すように促した。以前だったらそこまでしなかった、きっと最近来たこいつの同位体と関わるようになったからだろう。今までは天下五剣として誇るべき力を持っているのに、なぜ黴臭いと卑下をするんだ…と苛立ちしか覚えなかった。しかし、新しくこの本丸に所属する大典太との関係を築くために過去の来歴を知るにつれて認識は変わっていった。
     大典太は蔵に長い間大切に仕舞われ、刀の本分を果たせずにいた…きっと主に使われたかっただろう。俺も代々池田家に大切に仕舞われてきた、だから大典太の気持ちは分からない訳ではない。しかも、大典太は俺には無い霊刀として強い霊力を持っていた…その力を使う機会に恵まれないのであれば、自分を卑下するような言動を取るようになってしまうのも仕方の無いことかもしれない。そうなれば、他の刀たちと上手く付き合う事も難しくなる…そこまで理解するのに、数年もかかった自分が情けなくなったのは記憶に新しい。
     少しして大典太は落ち着いたのか、ぽつりぽつり…と話し始めた。

    「…もう1人の俺を見て思うことがあれば教えて欲しい。」
    「あいつのことか…そうだな、無理をしていると思う。」
    「やはりそうか…」
    「…上手くやらなければならない、俺にはその事に囚われているように見える。」

     大典太から話しかけられた時点で何となく察する事ができた。大典太は刃付き合いが苦手ながらも誰よりも関わるように努めている。それに…同じ大典太光世だ、俺が気付いていることはとうに気付いているだろう。俺の発した言葉に対して、少し考え込み口を開いた。

    「…本来大典太光世というのはそこまで器用ではない、現に俺はあんたと違って不器用だ。」
    「あぁ…そうだな。」
    「性格、日常生活、霊力の扱い方…あいつがあそこまで優れているのは血が滲む程の努力の賜物、だ。」

     思い当たる節はいくつもあった。目の前にいる大典太は不器用で…力加減を間違え、よく失敗している。それに引き換え、もう一振の大典太は完璧だった。努力をしてきたのだろう…悔しいが、天下五剣として相応しい振る舞いだ。

    「あいつは特に霊力のコントロール能力が高い…それも兄弟より精度が数段上だ。」
    「つまり、それだけの努力をし続けてきた…ということか。」
    「……前の審神者の為にな。」

     俺にはよく分からないが、大典太曰くソハヤの霊力のコントロール能力は高いらしい。
     元々持っていた高い霊力に、努力して身に付けたコントロール能力…その努力を認めず冷遇し手放した前の審神者を俺は許せなかった。刀は主を選べないとは言うが…これは酷すぎる。
     怒りにうち震えていると、言い方は遠慮がちだが意思の強い声で大典太は俺に語り掛けてきた。 

    「…あいつは大包平、お前と関わる時には必ずといっていいほど霊力を乱している。これは俺と兄弟が共に見ているから間違いない。」
    「…俺の存在がカギ、であるということか。」
    「そうだ、あんたの頑張り次第であいつの無理な行動も改善するかもしれない。」
    「…できる限りの事はしよう。」
    「これが良い選択肢かどうかは分からない、それでも可能性があるのなら俺はそれに賭けたい。頼む…あの大典太光世を、救ってくれ。」

     こいつは病や怪異を斬る癒しの刀…高い霊力を持つ霊剣、その力に関しては絶対的な自信を持っている。そんなこいつが俺に頭を下げて頼み込んでいる、誰よりも己の手で救いたいはずなのに…。他のモノが救えるのならば、それでもいい…それほど大切な存在なのだろう。
     
     俺には癒しの力を持つ、優しい刀の切なる願いを聞き入れないという選択肢はない。“任された”…そう一言大典太に告げた。


     
     大典太とのやり取りから数日、俺は自室へあの大典太光世を呼んだ。我ながら俺らしくないとは思う…が、俺にはこれしか思い浮かばなかった。

    「…大包平、急にどうしたんだ。」
    「珍しい茶葉を手に入れた、一緒にどうだ?」
    「本当に俺で良いのか、鶯丸と…「俺はお前と飲みたい、だから誘った。」

     昨日に大典太が言っていた霊力の揺らぎを感じとることは出来ない…しかし、心なしか嬉しそうな表情をしているように見えた。今考えれば、こいつと初めて会話をした日の表情も、嬉しそうな顔をしていたな。俺としては、この本丸で今まで失ってきたものを取り戻していく姿に喜ばしいものだ。

     俺がそんなことを考えている間に、大典太は迷いながらも俺の前に座った。

    「俺が…」
    「俺から誘ったんだ、俺が淹れるのが礼儀だろ。」
    「……」

     俺が茶を淹れる準備をすると大典太は立ち上がり、手伝おうとしたが制止させそのまま座してもらった。本人は落ち着きなく、ソワソワしながら俺の方を見ている。この様子から、前の本丸では他のモノのためには何かをすることは当然のことだったのだろう。おそらく、何かをしてもらうという行為自体したことがないのかもしれない。
     そうした仕草や行動のひとつに現れる、以前の本丸での扱いに腹が立って仕方がない。しかし、そんなことばかり考えていては目の前の大典太光世を救うことなんて出来ない。俺は少しでも俺の前で落ち着いて過ごせるように努めるだけだ。
     戸惑いながらも、大典太は俺の淹れた茶を『…美味しい』と穏やかな表情をしながら飲んでいた。その表情を見せる相手はおそらくあの本丸に一人しかいない、それが理由で俺は今ここにいるわけだが…なぜか少しだけ胸が苦しくなった。

    「…いいのか、あんたに全てやらせてしまって。」
    「俺がやりたいからやっているだけだ、気にするな。」
    「でも、甘えてばかりでは…」
    「ただ側にいるだけでいい、俺はそれだけで満足だ。」

     今まで誰かの為に尽くす側だったんだ、急に誰かを頼れといわれても無理な話だろう。それに、尽くさねば捨てられる…そういう思考にさせられていた。なにもしなくとも見捨てない…それを伝えなければいけない。ならば、ただ側に居るだけでいい、それだけでいい、必要とされているんだ…そう伝えよう。
     俺は…いや、大包平はあの大典太光世にとって記憶を失っても霊力が揺らぐ程の存在。同位体の俺ならば…今のあいつにも俺の気持ちは届くはずだ。
     
    「……っ…」
    「…大典太?」
    「こういう…ときは、どう…っ、した、ら…いいんだっ…、教え…て……く、れ…大包平…ぁ…っ…」

      大典太光世を俺たちの本丸で受け入れて一ヶ月、あいつが初めて大きな感情の揺らぎを…涙を見せたのは俺の前だった。俺は大典太の隣に移動し、自然と指で涙を拭いていた。不覚にも感情を露にした泣き顔が綺麗だと思ってしまった。この時、俺は先ほど胸が苦しくなった原因に気付いてしまった。 
     俺は前の本丸にいた大包平に嫉妬していたんだ…。認めてしまえば早いもので、俺の覚悟はすぐに決まった。俺は大典太と向き合い、俺の思いの丈を伝えた。

    「…涙が止まるまで泣けばいい、胸なら幾らでも貸してやる。」
    「俺は…誰かを…っ、頼っ…ても、良いの…か…っ、弱音、を…言って、も…っ、良、い…っ、の…か…」
    「その為に主や俺たちがいるんだ、皆お前の力になりたいと思っている。」
    「うっ…っ…ん…」

     俺がそう言うと、大典太の目から堰が壊れたように涙が溢れた。そして、遠慮がちに俺の胸に顔を寄せた。
     俺は震える大典太の背を撫でながら、こいつは俺が守らなければ…そう心に誓った。涙が止まるまで、俺の手は止まらなかった。
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    この手は君の為に ある日主に全員が呼び出され、他本丸の大典太光世を受け入れるといった報告があった。そして前の主が原因で…記憶、感情共に失なっているという事も伝えられた。その時の皆のざわめきは今でも忘れられない。俺たちの様子を伺いながらも主は口を開いた。

    「この大典太は主を救うために怪異に呑み込まれた、そして霊力を失ったことを理由に前の主に酷く捨てられた。」

     主は大典太を受け入れる前に俺たちにそう説明した。さらに補足として…

    「酷く幻想を抱いた為に天下五剣として相応しく在るべく、大典太にだけ過剰な迄に成果を求められた…上手く行かなければなんらかの酷い懲罰も行われていた可能性が高い。」

     …と、声を震わせながら言った。そして、あくまでこれは推測…そう最後に主は付け加えた……なぜなら証拠が全く無いからだ。そう話す主の表情は悲しみに溢れ、悔しそうな表情を隠しもしていなかった。それでも尚、主は言葉を続けた。俺たちは一言一句聞き逃さぬよう、真剣に耳を傾けていた。
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    「この大典太は主を救うために怪異に呑み込まれた、そして霊力を失ったことを理由に前の主に酷く捨てられた。」

     主は大典太を受け入れる前に俺たちにそう説明した。さらに補足として…

    「酷く幻想を抱いた為に天下五剣として相応しく在るべく、大典太にだけ過剰な迄に成果を求められた…上手く行かなければなんらかの酷い懲罰も行われていた可能性が高い。」

     …と、声を震わせながら言った。そして、あくまでこれは推測…そう最後に主は付け加えた……なぜなら証拠が全く無いからだ。そう話す主の表情は悲しみに溢れ、悔しそうな表情を隠しもしていなかった。それでも尚、主は言葉を続けた。俺たちは一言一句聞き逃さぬよう、真剣に耳を傾けていた。
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    DONE前回書けたら書くと言ってたやつです。包典で落ち着きました。
    良本丸大包平×訳あり大典太光世の設定は前回の投稿をご覧になってください。
    この手は君の為に ある日主に全員が呼び出され、他本丸の大典太光世を受け入れるといった報告があった。そして前の主が原因で…記憶、感情共に失なっているという事も伝えられた。その時の皆のざわめきは今でも忘れられない。俺たちの様子を伺いながらも主は口を開いた。

    「この大典太は主を救うために怪異に呑み込まれた、そして霊力を失ったことを理由に前の主に酷く捨てられた。」

     主は大典太を受け入れる前に俺たちにそう説明した。さらに補足として…

    「酷く幻想を抱いた為に天下五剣として相応しく在るべく、大典太にだけ過剰な迄に成果を求められた…上手く行かなければなんらかの酷い懲罰も行われていた可能性が高い。」

     …と、声を震わせながら言った。そして、あくまでこれは推測…そう最後に主は付け加えた……なぜなら証拠が全く無いからだ。そう話す主の表情は悲しみに溢れ、悔しそうな表情を隠しもしていなかった。それでも尚、主は言葉を続けた。俺たちは一言一句聞き逃さぬよう、真剣に耳を傾けていた。
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