嫉妬 右手だけで生活をするというのは存外不便らしい。
新世界プログラムで平穏な日々を過ごしたアバターを上書きされた結果、絶望の残党であった時の記憶はすっかり失われてしまったものだから、この忌々しい左腕をつけた時の自分がどのように生活をしていたのかはわからない。けれど、毎日不思議に思う。その時の自分はどうやって着替えや食事、入浴を済ませていたのだろうと。徹底的に破壊されてしまった世界ではそれらの健康的な生活を送ることはできなかったかもしれないが、目覚めて向き合った自分の肉体は特段痩せ細っていたわけでも不潔なわけでもなかった。そこから推察するにある程度の水準の生活は取っていたはずなのだ。シャワーを上から被るだけならまだしも、食事ということになれば、犬死にするわけにはいかないからと、地に這いつくばって犬食いでもしていたのだろうか。そんな無様な自分の姿を想像すれば、思わず微かな笑い声が漏れた。
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