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    xxxazaleaxxx

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    たつみこです!

    #建尊
    jianzun

    たつみこSS「………お、おはようございます」
    「…おう、おはよ尊」
    「………」
     
     この人がこんなに元気がないのは初めて見る気がする。尊は思わず建の顔をまじまじと見た。今日は少し遠くの得意先へ向かうためかなり早めに出勤したので、まだ部署内には自分と建しかいない。
     こういう時にじっと見つめると、「熱烈だなぁ」とかなんとか言って、ご機嫌な時は不意打ちでキスまでしてくるというのに。いや、それは会社でしなくていいのだけど。家でなら怒らないのだけど。
    「…あの、何かあったんですか?」
     流石にバドミントン関係の事ではないだろうと踏んで問いかける。仕事のことなら少しは手伝えるかもしれない。そう思っていた尊に返ってきたのは、意外な一言だった。
    「うーん…。実は今日の会議、関西の支社からちょっと苦手な人が来るんだよ」
    「にがて」
     思わず復唱した尊に、建は小さく苦笑いする。そんな人いるんですか? って思ってるだろ、と見事に当てられたので素直に肯定して続きを促した。
    「俺が新人の時の先輩でな~…直接指導してもらった訳じゃねーんだけど。久しぶりに会うから当時の事思い出してたら、今思えば八つ当たりされてたり、結構イヤミ言われてたなぁって」
    「……そんな人、いるんですね」
    「今の営業一課は気のいい奴ばっかりだから、ちょっと想像つかないかもな」
    「……」
     それは多分、アンタが後輩に対して偉そうにしないからではないだろうか。恥ずかしそうにしながら頭をかく建に、尊はぼんやりと考えを巡らせる。建はいい先輩で、いい上司だ。これだけ周囲の人間に慕われていても、指導と横暴を履き違えたりしない。それは結構すごいことだ。役員会議に乗り込んで理不尽さを直接目の当たりにしたからこそ余計にそう思う。もちろん直してほしい点は幾つかあるけれど、何でも出来て頼りっぱなしの関係よりずっといい。
     尊は建に近づくと、デスクの影になるところで、くいくい、と小さくジャケットの端を引っ張った。
    「ん?」
    「…夕飯、作っておきましょう、か」
     会議が長丁場になるのも、その後きっと付き合いで飲みに行くことになるのもわかっている。加えて、自分が知らないだけで片付けないといけない仕事があるかもしれない。今日中には食べてもらえない可能性の方が高いだろう。それでもよかった。なんでもいいから建の助けになりたい。
     勢いのまま言ってしまったが余計なお世話だっただろうか。何も言ってこない建にだんだんと不安になってきた尊は、そろ、と静かに様子を伺った。
    「…あっか」
    「うるせ」
     利き手で赤らんだ頬を隠そうとする建に、思わずぽかんとしてしまう。小さく悪態をつかれたと思った途端、ジャケットを引っ張った手に指が絡められた。〝係長〟ではなく〝恋人〟の顔をした建が微笑む。
     
     
    「美味しいの頼んだぞ」
    「任せてください」
     
     
    「…――って自分で言ったのに!」
     
     ああもう! 焦げて崩れたブツを取り皿に下ろして、尊はもう一度卵を手に取った。ボウルにみっつ割って入れ、橙也に教えてもらった通りの分量で調味料を加えてかき混ぜる。
     ここまではいい。ケチャップライスも上手くできた。なのに、なぜかいつも最後で失敗してしまう。
     オムライスがこんなに難しいなんて思わなかったと後悔しても後の祭り。作り終えて、失敗した分だけ持って、建の帰宅を待たずに自宅へ戻らなければ。なぜなら。
     
    (…あの人の顔見たら…あの人の口から〝ただいま〟って聞いたら、…絶対、帰りたくなくなる)
     
     徒歩五分なのに。徒歩五分でも。朝のやり取りからずっと浮ついている自覚があるので、なんとしても帰らないといけない。例えどうしようもなく酔っ払っていても、呂律が怪しかったとしても、自分が来たことに気付かないまま寝落ちしたとしても、だ。
     改めて目標を確認した事で冷静さを取り戻した尊は、はた、と既視感を覚えた。まだサンビに来て間もない頃に、確か。
    (前に連れてってもらった店のオムライス…、)
     母が作ってくれていたものも、橙也が作り方を教えてくれたのも、ケチャップライスを卵で包んでいるものだ。だから他に種類があるなんて考えもしなかったのだが。
     尊は急いでスマホを取り出した。建と竹田と三人で入った洋食屋で、竹田が食べていたもの。記憶を辿って似たようなものを探すと、目的のものは思ったよりも早く見つかった。
    「…そうか、上から被せるだけでもいいのか」
     これなら。尊はよし、と気合を入れると、プライパンへと向き直った。
     
     ***
     
    (つっ…かれた…!)
     
     楽しくない酒の席なんて両手両足以上に経験しているというのに、今日の疲労感はなんなんだ。建は重い両足を引きずってマンションの扉を開いた。二日酔いのまま練習参加した時よりも疲れた気がするのは多分、あの先輩が以前とさほど変わっていなかったからだろう。
     大人になればなるほど、変わることは容易ではなくなる。それまで積み上げてきたものを否定されるような、時間を浪費しただけのような見方をされてしまう。働いている以上、結果が出なければ当然の事だ。
     その結果が出るのが遅かった。変わらず嫌味を言われたのはつまり、そう判断されただけのこと。悲しくないわけではないけれど、仕方ないなという気持ちの方が強い。
     普段接しているバド部の面々が如何に柔軟性に富んでいるか、同じ社内の人達がどれだけ協力的かを痛感しながら、その中でも一際大きく変わった自分のこいびとを思い浮かべる。流石にもう寮へ帰って眠っているだろう。本音を言えば家で待ってて欲しかったのだけど、明日も仕事だ。そんなかわいいことをされては、いよいよ我慢できるか怪しい。
    「ただいまー…」
     とりあえず玄関の電気をつけてリビングへと進む。微かに残るいい匂いに、自然と気分が上がっていく。
    (尊、何作ってくれたんだ?)
     テーブルの上には何もないので、冷蔵庫だろうとアタリをつけて扉を開ける。朝にはなかったコンビニのカップサラダと、綺麗な黄色いドーム状のそれは間違いなく。
     
    「オムライス…てか、このケチャップ…」
     
     ラップにひっついて潰れているが、この妙に横長の楕円形は、もしかして。
    「………。…いやいや」
     思っていた以上に疲れてんなぁと独りごちて扉を閉める。さっさと風呂を済ませて、それからゆっくり食べよう。淡い期待を疲れと共に洗い流すべく、建は浴室へと向かった。
     
     実は建の考えていた通り、尊はケチャップでハートマークを書いていたのだが。
     恥ずかしすぎて慌てて形を崩し、誤魔化せたと踏んで、翌朝建からのLINEを確認して、綺麗に完食してくれた写真をこっそり保存して、それで終わりだと区切りをつけていたのだが。
     
    「なぁ尊、またオムライス作ってくれよ」
     
     それから半月後。
     練習後、建の部屋に遊びに来ていた尊は、家主からの突然のリクエストにしばし動きを止めた。実はバレてたのだろうか。そう思ったが、この前すげー美味しかったからさ、と嬉しそうな建の顔に、どうやら大丈夫そうだと判断を下す。こんなに嬉しそうにしてくれるなら苦労した甲斐があったというものだ。
    「……いいですよ」
    「やり! あ、そんでハートマーク書い「ッ!? あ、アンタやっぱりわかっ…」
    「へ?」
    「あ…」
     
     〝書いてもいいか〟と尋ねるつもりだった建の言葉を遮り、自分からボロを出してしまった尊は、己の頬が急激に熱くなるのを感じた。焦る尊と対称的に、全てを察した建が瞬時に尊を腕の中へと捕える。
    「…やっぱそっちは後で、な」
     耳元で囁かれた言葉が意味するものは、ただ一つ。尊は白旗をあげる代わりに建のシャツを握った。与えられる口付けに思考がぼんやりと蕩けていく。恥ずかしかったけど、いいか。緊張と喜び、そして期待で早鐘を鳴らす心臓に従って、尊は静かに瞳を閉じた。
     
    (了)
     
     *アニメ『小林さん家のメイドラゴン』一期のオムライスの話が好きでそこからインスピレーションを得て書きました。(全然シチュエーション違うけど元ネタ、と言う方が正しいかも)
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