星廻る焔の物語【仮題】1
下げた頭に怒号と共に与えられるのはばしゃりという水の音。
髪の合間から冷たい物が頭皮に触れ、濃いアルコールと葡萄の香りに鼻腔が犯される。ざわざわと周囲がざわめくのを感じながら気取られないように小さく溜息を零す。
同時に、心が冷え切るのを感じた。
相手は曲がりなりにも婚約者として内定してから数年、それ以前に幼馴染として生まれた頃からの付き合いだった筈の男だ。されどここ最近、内定している婚約者であるリオンドール・ヴァン・ラッツェル……俺に対する態度はすこぶる悪い。
無視は当たり前、口を開けば俺を見下して嫌味ばかり、歩けば俺の悪い噂の喧伝、当たれば気分によっては暴力、とやりたい放題だった。まあ、こんな光景を見て、また普段から彼等の言動や行動を見てそんな噂を信じる人なんていないだろうけど。
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