ごはんを食べよう23イライがきゅ、とイソップの胸元を握る。
皺になったシャツが、イライの中の衝撃を表しているようだった。
「そう、ですから、泣かないでいいんです。僕はここにこられて、あなたといられて、本当に幸せになれたんですから」
「なにそれ……」
「それより、イライです。あなた、婚約者のことはいいんですか」
イライはイソップの言葉にぐっと唇を噛んだ。
未練があるのかと一瞬疑ってしまったが、イライはイソップがそれを口にする前に自分の口を開いた。
「彼女が、幸せになるのを視たんだ」
「……それは、天眼で?」
「うん。……荘園にいた頃、私以外の相手と結ばれる彼女を視て。……最初は悲しかったし、苦しかった。でも、彼女の立場上、最初から決まっていたことでもあった」
イソップは、穏やかにそれを話すイライを意外な気持ちで見つめた。
そんなイソップを腕の中から見上げて、ふ、とイライは笑って見せた。
「納得できたのは、君がいたからなんだ、イソップくん」
「僕?」
「そう、荘園で、私を頼ったり、頼らせてくれたり……一緒に食事をしたり……そうやって過ごすうちに、私の気持ちはきっと君に少し傾いていた。その気持ちは彼女に感じたものとよく似ていて……だから、ああ、私は君が好きなんだと思った」
何もきっかけがなくても、見えないほど小さなきっかけだとしても、恋をすることはあるんだね。
そう言ってイライが笑うから、イソップの目頭が熱くなった。
「イライ、それなら、もう一度告白してもいいですか」
「え……」
「未練がないなら、僕を未練にしてください。ここにいてください。僕の隣に、永遠に」
イソップはイライと真っ直ぐに目を合わせた。群青の目がゆらゆら揺れて、綺麗だ。
「あなたが好きです、イライ」
「……プロポーズ、みたいだね」
「プロポーズなら、指輪を買いに行きますか?」
「気が早いよ。……うん、でも、そうだね」
イライは目を細めた。それは、世界中の幸せが全部詰まったような笑顔だった。
「私も、君が好きだよ」
見つめ合った目に、互いが映っている。
少しずつ大きくなる顔に、近づいているのだとわかって、ああ、そっかと。
無意識に顔を寄せ、触れ合わせた唇は甘かった。
それこそ、どんな甘い飴玉よりも、きっと。