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    hamo_2dsi

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    hamo_2dsi

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    ゲ謎履修記念。
    水父です。なんか映画後水木は記憶も無くさず父も健在なふわっとした世界です。

    ##水父

    【水父】幽霊族は男色が嗜みってどういうことだよ!?「なんで初めてじゃねぇんだよ!?」

     水木は激怒していた。親友と初めて寝た夜である。
    「ほへ」
     裸のまま水木のタバコを拝借して優雅に紫煙を吐き出していたゲゲ郎は、一瞬動きを止めた。
     考え込むように、ゆっくりと煙草を吸う。
     そしてそのまま場末の娼婦のように水木のしかめ面に煙を吐き出した。
    「なんで、と言われてもなぁ」
     嗅ぎ慣れたヤニ臭さが、ゲゲ郎の口から出た吐息と混ざって水木の肺を黒く染めた。煙が目に沁みて、じわりと涙目になる。
     その余裕ぶった仕草に、水木はイライラした。
     ゲゲ郎の顔は先程水木が散々泣かせたせいで少し目元が赤くなっていた。

     水木とゲゲ郎は、親友である。
     過ごした時間は短いが、あの村で濃密な時間を分かち合った。極限状態で友情が愛情に移行するのは容易く、一緒に過ごすうちに性欲を掻き立てられるのは当然に思われた。
     ゲゲ郎のことを一人の人間として……いや、妖怪として好ましいと思ったからだ。
     ゲゲ郎は美しかった。
     ぞっとするほど白い肌に、雪のように白い髪。血のように赤い虹彩。
     人ならざる者だけが持つ禍々しい美しさに魅せられた水木は、相手が妻帯者だということも、妖怪变化のたぐいだということもを分かった上で抱いた。
     ゲゲ郎は触れた手を拒まなかった。
     口を合わせた時も、帯を解いた時も、なぜかずっと嬉しそうに笑っていた。
    『ああ、水木、いいぞ。もっと、つよく』
     ゲゲ郎は丈夫だった。
     水木がいくら手荒く抱いても、少しも堪えた様子は無かった。
     自ら水木の腰に足を絡めて来さえした。
     その慣れた様子に、いくらなんでも水木は気付いた。
     あ、コイツ男とヤるの初めてじゃねぇな、と。
     そして冒頭の台詞である。

    「お前嫁さんに会うまで山の中でひとりだったって言ってなかったか!?」
    「言ったのお」
    「じゃあなんで……ッ」
     そんな手慣れているんだ。
     そう言いたいのを水木はぐっと堪えた。水木は知っていた。
     男ばかりの戦場では、意に染まない性行為がまかり通る。上官から一般兵へ。先輩から後輩へのイジメのような形で。戦場という地獄の中で、それらはいとも容易く行われた。
     ゲゲ郎だって、望んでしたとは限らないじゃないか。
     むしろ、無理やりであってほしいと思った。
     しかし水木は続くゲゲ郎の話に言葉を失うことになった。
    「まぁ、幽霊族にとって男色は嗜みみたいな物じゃったからのぅ」
    「は……?」
    「いや、じゃから、幽霊族は普段地下に引き篭もっておったじゃろう? 地下には娯楽も無いし、することといえば歌ったり踊ったり、女を抱いたりするくらいしかすることだけじゃ。でも女の数は少ないし、食べ物が無いので子が生まれても食べさせてやれない。だから暇な男同士はお互いで発散させとった」
     水木は頭がクラクラした。なんだそれは。
     おばけは墓場で運動会でもしていれば良いものを、なぜそんなに性欲を持て余しているんだ。
     妖怪の一部は人間の女をさらって嫁にしたりするので、おばけだからといって性欲が無いと決めつけるのは良くない。
     実際ゲゲ郎には鬼太郎という息子がいる。
     それにしても、幽霊族というのはなんともお気楽である。
     住む場所も無く、食べ物も無い状況でやることが歌や踊りと性交とは。
    「まぁそれは昔の話で、儂が生まれた頃には幽霊族はほとんど絶滅しかかっていてのう。若い者がおらなんだので、ご先祖様たちもそれはもう熱心に儂に一族の歴史や伝統を教えこんでくれて、ついでに男同士のやり方も覚えたのよ」
    「どんなご先祖様だよ……」
    「霊毛には多少の記憶も宿るからなぁ」
    「おい、待て。ってことは、教わっただけで実際やったことは無いってことか?」
     水木はそうであって欲しいと思った。
     水木は、ゲゲ郎の一番になりたいと思ったことは無い。彼の一番と二番は妻と息子で、水木はその下で良い。
     でも、彼を抱いたのは自分が初めてであって欲しいと思った。
     しかしゲゲ郎の返事はつれない。
    「さぁ、どうじゃろうなぁ?」
     ゲゲ郎はそう言って、持っていたタバコを灰皿で潰した。煙みたいな男である。飄々として、掴みどころがない。
    「儂の体に問うてみるか?」
     もう一度、と促されて水木はごくりと唾を飲んだ。
     有耶無耶にしようとするな。
     こんなの、女が大事な話を誤魔化す時の常套手段だ。
     男を煙に巻き、話の着地点を曖昧する、うんと悪い女の手口。
     しかし大抵の男は、この甘い罠にはまるのが好きだ。
     何しろ、二回目のおねだりは可愛いので。
    「そう、良い子じゃな。水木」
    「ガキ扱いするんじゃねぇ」
    「ハハ。それはすまん」
    「撫でるな」
    「ハハ! ……ん」

     しかし長命の幽霊族にとって、人の子は皆弱く儚い存在だ。
     弱いくせに強欲で、愚かなくせに夢見がちで。
     みんな歌でも歌って仲良く暮らせば良いものを、争いを好み、時にとんでもなく残酷なことをする。
     それでもゲゲ郎の妻は人の弱さや愚かさを愛した。
     そんな妻の気持ちが、今ならば分かる。

    (痛いと言ったらやめてしまうと思って悦さそうな演技をしてしまったのは失敗じゃったなぁ)
     今更お前が初めてだなどと、言えるわけがない。適当な嘘でご先祖様の評判も落としてしまった。
    (まぁどうせ幽霊族は死んだらみんな地獄へ帰るのじゃ)

     それまでのほんの一時、この男と土の中の土竜のように身を寄せ合い、抱き合うのも悪くない。
     妻と同じように、ゲゲ郎も人を愛してしまったので。


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