永遠に紡ぐ夏休みは稼ぎ時だ。長期休暇はバイトに明け暮れていたが今年はそうもいかない。成績は悪くないがそろそろ受験対策もしなければならない。無料の夏期講習に申し込んでみればと母親に提案された。無料と謳っているがどうせ夏期講習が終われば塾への勧誘が待っているだろうと乗り気ではなかったがバイトばかりと心配され渋々申し込む事にした。
教室で夏期講習の日程を確認していると女子達がザワつき始める。『かっこいい』『イケメン』、そんな声が聞こえ顔を上げるとそこにはあの男がいた。
「冨岡っ…!」
「……すまない。何処かで会った事があるだろうか?」
「…え?」
思わず駆け寄り手を掴んで声を掛けてしまったのを後悔する。
俺には前世の記憶があった。何も奪われない平和な世の中になるようにと命を掛けて使命を果たした。失ったものは計り知れない。決して長い人生でもなかった。それでも最期は穏やかに過ごした。この目の前の男、冨岡と。
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