聖夜の月光は、獣人達に祝福を「ルガー、いつまで起きている?」
思わず聞いて見た。ルガーは怪訝な顔をして、お前に言う必要はない、と一言。早く寝てくれないと、とても困る。ずっと、頑張ってルクを貯めて、やっと買ったんだ。
クリスマスイブ。ピンズタウンのみんなも楽しそう。ハニカムさんが、楽しそうな格好をして忙しそうにしてた。アンジェラが新しい衣装を着て嬉しそうだ。ポポイがトナカイの服を来て走り回っている。いいな。オイラも、何かしたい。幼い頃、母さんが言ってた。サンタがやってくる。良い子にプレゼントを渡すんだって。ずっと、記憶から消えてたけど、みんなを見ていて思い出した。母さんと見たプレゼント、とても嬉しかった。母さんも、優しく笑ってた。覚えているのは、その一回。母さんが…になってからは、一度も。
ピンズタウンで、サンタは「誰でもなれる」というのが分かった。その人の「願い」を叶えられるのは、サンタと同じ心をもった、人。サンタの手伝いをする。そう決めたのは、この世界にはルガーがいるからだ。オイラはずっと、ルガーと仲良くなりたかった、だって、ルガーは誇り高い獣人だ。でも、ルガーとは決して分かり合えなかった。この世界に来ても、ずっと、オイラに冷たかった。いじわるも言ってきた。それでも…ここに来て、ルガーが少し、変わってきたんだ。キルテ達と話をしたり、一緒に戦ったりして、「人間」を見る目が、ほんの少し、丸くなった。オイラはそれが、嬉しかった。
それでも、やっぱり、オイラに冷たくないか?
同じ属性を二つも持つため、一緒に組むことも多い。それでも、他のみんなみたいにしゃべってくれない。さすがに、オイラも傷つく。でも、今日はクリスマスイブ、ルガーにプレゼントを渡す。サンタになるんだ。サンタからプレゼントをもらったら、きっと、ルガーも嬉しい。嬉しいルガーなら、少しはおしゃべり、できるかな?
この世界では、まんまるドロップも5000ルクする。高すぎる。それでも、キルテ達とレベル上げに行けば、なんとかなる。でも、オイラが欲しいのは、こっち。
『はちみつドリンク 20000ルク』
これなら、ルガーもびっくりするはず。喜んでくれる。作戦はこうだ。夜、ピンズタウンの外れでいつも寝ている、ルガーの側にはちみつドリンクを置いていく。朝、それを見つけたルガーは嬉しい。機嫌がいいルガー、オイラが話しかけても、きっと、返事を返してくれる…。
サンタさん、オイラに力を貸してください。
だけど…、ルガーは寝なかった。ずっと、修練している。知ってるよ。ルガー、いつもいつも、もう十分強いのに、修行しているのは。でも…
「もう寝た方が、いいぞ?」
そう言うのも、何回目?ルガーが修練するそばで、足を抱えて座る。ルガーももう、息も切れている。上がり始めた月も、すでに真上だ。この世界の時間に慣れてきたオイラも、さすがに、眠くなってきた。眠い目を擦る。
「…甘ったれは、さっさと寝ろ」
突然、ルガー声かけてきた。眠気がどこかにとんだ。
「…眠くない、ルガーこそ、早く寝…」
「じっと見られて気が散る。邪魔をするなら、とっとと町に戻って寝ろ」
邪魔をするつもりなんて、これっぽっちもない。でも、睨まれたオイラ、邪魔になるのはよくない。
…サンタに、なれない。
「分かった…、ルガーの気が散る、よくない…、ごめん…」
隠し持っていたはちみつドリンク、ギュッとして、せめて修練して身体中傷だらけで疲れているであろうルガーに渡していけないか、一瞬ためらっていたら、
「…待て。オマエごときで気が散るのは、オレの鍛錬がまだ足りない証拠だ。少し付き合え。」
…?
ぽかーんとしたオイラの顔を見たルガー、ますます険しい顔になった。
「…眠いならいい、さっさと帰…」
「やる!」
ルガーの言葉をさえぎって答えた。まだ修行するルガーはすごい、と同時に、チャンスだ。ルガー疲れて寝れば、プレゼント、渡せる!
「本気でいくぞ!」
「無論だ、眠気を理由に手を抜いたら、容赦はしない」
真上にある月の光の下、一瞬で火花が散った。サンタを待って、寝静まるみんな、ごめんなさい。
…手加減できない
「…ケヴィンはどこだ?」
ダンジョンから戻ると、ケヴィンの姿が見えなかった。別に探しているわけじゃないが、だいたいこいつらの側にいるのに、姿が見えないのが気になった。この三日間ほど、アイツとは組んでいない。それでも、ずっとアイツはダンジョンに篭りっきりだ。
…気に入らない
「あー、ケヴィンなら、買い物に行ったぜ?」
剣士が応えたが、買い物…新しい装備か?
「気になるなら、キミも見てくるといい。」
シーフが言うが、別にケヴィンの買い物などどうでもいい。ただでさえ今日はやたらと人間が多く出入りしている中に入る気は全くない。
「何言ってんだホークアイ、ダメだろ?!ケヴィンはコイツの…!」
…オレの?
「…何だ?」
後ろでシーフが呆れた顔を剣士に向けている。
「…何でもねぇよ!!じゃ、オレも用事があるから行くぜ!じゃあな!」
脱兎の如く走る剣士を追って、シーフも行ってしまった。途中振り返り、「周りを見れば、キミなら勘付くんじゃないか?」と意味ありげな言葉を残して。
他の者に自分の願望を願う気持ちが理解できん。欲しいものは、自らの手で手に入れるべきだ。少なくとも、ビーストキングダムではそう考えるものがほとんどだ。人間の甘ったれた空想の産物だ。…それに乗っかって忙しくしているケヴィンの様子に苛立っていた。姿を見せないと思っていたが…。
どれほどの時間が経ったか。ほぼお互い同時に地べたに座り込んだ。目が霞む。息が切れて、血の味がする。全身の痛みは、ヤツとの手合わせの本気を感じさせた。
「…ルガー、先に修行…していたのに…やっぱり、強い…」
「…」
「…ルガー…、…」
そのまま、ケヴィンは地べたに転がり、動かなくなった。何かを呟いていたが、風の音がケヴィンの声をかき消した。体が上下し、息をしているが不規則な動きから、体のダメージを伺うことができた。
「…」
ケヴィンの目、動き、息遣い、オーラ…全てが自分に向けられた、聖夜の手合わせ。悪くはなかった。むしろ、自分の中の奥が、熱く、それはとても心地が良いものだった。自分の体のダメージと相まって、とても眠れそうにない。ケヴィンの方にもう一度目をやると、小瓶を持っていることに気づく。
「…これか。」
体と、興奮した心を鎮めるためには、貰っておくとする。ケヴィンから奪い取って体に流し込む。甘ったるいその味は、コイツの甘さと同じだ。睨みつけると、ケヴィンが苦しそうな息遣いとともに小さく呻いた。しばらく意識は戻らない。当たり前だ、それだけの手合わせをした。
「明日は、ギンガムドリルに挑むと言っていたな…」
残っていたはちみつドリンクを口に含み、ケヴィンにそれを流し込んだ。闇属性として一緒に組むのだ、足手纏いになったら許さん。それだけの理由だった。
月明かりに、空を横切る影とわずかに聴こえる鈴の音があったが、ルガーには興味のないことだった。
Fin