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    穹丹
    🍁がウェディングドレスのモデルになる話

    「というわけでさぁ、よろしく頼むよ」
    「いや、頼むって言われても……丹恒、どう思う?」
    「……少し考えさせてくれ」
     そう言って頭痛を堪えるように頭を抱えた丹恒を見て、穹は苦笑いを浮かべる。丹恒が即答できずに悩むのも無理はなく、アベンチュリンから言い渡された依頼は二つ返事で了承するにはハードルが高かった。

    ──半システム時間前──
     ウェディングドレスを着てモデルになってほしい──煌びやかな衣装に身を包んだギャンブラーは、にこやかな笑顔を貼り付けて丹恒の肩を叩いた。常に平常心を崩さない丹恒も、これには「は?」と素で声が漏れ出てしまったようだ。横で見ていた穹にいたっては、アベンチュリンと丹恒を首が振り切れんばかりの勢いで交互に見遣っている。
    「えっ、なんで丹恒⁉︎ そりゃ丹恒はめちゃくちゃかっこいいし可愛いし、モデルにしたくなる気持ちはわかるけど……でもなんで⁉︎」
    「ははは。その反応を見るに、君たちは本当に仲が良いんだねぇ」
    「え、やっぱりわかる? わかっちゃう? 滲み出ちゃってるのかなぁ!」
    「穹、静かに」
     薄ら頬を赤く染めた丹恒は、これ以上はいけないと暴走しかけた穹の袖を引っ張って穹を制止し、アベンチュリンに話を続けるよう目配せした。
    「実は、カンパニーでウェディング事業を立ち上げることになってね。カタログに掲載する写真の撮影をしなきゃならないんだ。モデルには何人か採用する予定なんだけど、ちょうど背丈が同じくらいのカップルを探していたところ、君たちを思い出したってわけさ」
    「だが、俺は男で……ドレスが映えるような体型でもない」
    「こんな時代だから、多様性は大事にしてるんだ。それに、ビジネスには先行投資が必要不可欠だろ?」
     さすが戦略投資部の幹部といったところか、上手い具合に言いくるめられて反論の余地がない。それでもやはり自分がモデルになるのには違和感しかなく、丹恒は口を一文字に結んでしまった。アベンチュリンは丹恒の無言の抵抗に苦笑し、言葉を続ける。
    「ごめんごめん、君を困らせる気はなかったんだ。軽い気持ちで考えてもらって構わないし、返事は後日で大丈夫だから。もし受けてくれる気になったら穹を通して連絡をしてくれ。じゃあ、良い返事を待っているよ」
     穹に軽く手を振って、砂金石は去っていった。掴みどころのない男だが、頼り甲斐のある背中をしているのが不思議でならない。残された穹と丹恒はしばらく二人で「うーん」と唸っていたが、先に口を開いたのは意外にも丹恒だった。
    「穹、お前はどう思う。はっきり教えてほしい」
    「え、俺? そうだなぁ……可愛い丹恒は見たいし、着てほしい気持ちはあるけど……丹恒が嫌なら断っていいと思うよ。好きな人が無理する姿は見たくないしさ」
     こういうところ、こういうところなのだ。常日頃、奇行と言っても過言ではない行動をとるくせに。純粋故に真っ直ぐと、包み隠さず人の心に寄り添って絆してしまう〝たらし〟めいたところが穹にはあった。例外なく、丹恒もその優しさに魅了された一人であり、今回も穹が自分を第一に考えてくれていることが嬉しいような、恥ずかしいような、とにかく胸の辺りがムズムズして仕方がない。
     どう返事をするのが正解かわからず、丹恒が口をもごつかせていると、穹は丹恒を安心させるように頭を軽く撫でた。
    「いつものままの丹恒が俺は一番好きだし。アベンチュリンにはごめんって連絡入れとくね」
    「だが……」
    「大丈夫だって。アベンチュリンも、これで怒ったりはしないよ」
     早速断りの連絡を入れるために端末で文字を打ち始める穹に対し、丹恒はぐるぐると聡明な頭脳をフル回転させていた。
     ──穹はこんなに自分のことを思ってくれているのに。俺は何か彼に与えてあげられているのだろうか。自分のくだらないプライドのせいで、穹は本心を隠してしまっているのではないだろうか。彼の優しさに甘えるだけでは駄目だ、俺にできることをすべきなんじゃないのか──
     がしり、と丹恒の手が端末を操作する穹の手首を掴んだ。
    「え、どうしたの丹恒、あと送信ボタン押すだけなんだけど……」
    「……る」
    「ん? た、丹恒?」
     顔を上げた丹恒の眼差しは、気迫すら感じるほど鋭いものだった。それはもう、絶対に引き下げるわけにはいかない絶体絶命の戦士のような──揺るぎない覚悟を持っている。
    「やはり、この依頼を引き受ける」
    「⁉︎ 本当に、本当に無理してない? 一ミリも?」
    「大丈夫だ、心配しないでくれ。覚悟はできている……穹には俺がウェディングドレスを着用するところを見ていてほしい。頼めるか?」
    「喜んで同行させていただきます、丹恒先生」
     かくして、カンパニーによる丹恒のハッピーウェディング計画は実行に移されることになった。
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