白浸の兆候▽大罪喰い3体倒した辺り
「……流石に誤魔化しようがなくなってきたわね」
鏡の前に立って、自身の髪を摘まみ眺める。黒に近い濃紺の髪に混じる薄灰の毛色にそっと溜め息を吐く。これはイメチェンとかで済む問題だろうか。――済ませてもらえないような気がする。
「見えてない人たちはいいけど、シュトラには気付かれてんのよね……」
スリザーバウを旅立つ前、彼女の自室で告げられた言葉を思い出して、もう一度溜め息を吐く。何となく、自分が容れ物になっているだけなのは勘づいていたけれど、まさかこうも外に、目に見えるところに影響が出るとは思っていなかった。自分の見積もりの甘さに舌打ちをかましたくなる気持ちをぐっと堪えて、寝台に大の字に寝そべる。
「いま思えば、祈りのこもった水で感じた痛みも多分これのせいなのよね」
肌を刺すわずかな痛みを今でも覚えている。――あの時に感じた、自分が異物になってしまったような感覚も。
実際、自分は異物である。この世界で生まれ育ったわけでもない、水晶公に希われ召喚された闇の戦士と呼ばれる英雄という像。全く、終わりかけている世界に希望をもたらす存在だなんて、ちっとも柄ではない。
「――それでも、一度やると決めた以上は、ちゃんとやりきってやんないとね」
器がいっぱいになったその先のことをいま考えたところで、答えなんて出るはずもない。ただ、前を向いてまっすぐに走り続ける。――その果てに何が待っていようとも。