雪鳴り 細雪のしんしんと降る夜は、山になにひとつの音もない。
生き物たちがたてる微かな物音もみな雪に呑まれ、風鳴りがやめばあとは静寂があるばかり。山中のこの粗末な炭焼き小屋でも囲炉裏に灰をかぶせたところであったので、いまは暗がりの中に小屋の主である男の静かな呼吸が聴こえるばかりだった。
この炭焼きの男は、名を炭治郎といった。数えで二十になったばかりの、まだ歳若い男だった。
山深い里に暮らす者が多くそうであるように、炭治郎もまた春から秋は里にある小さな田を耕して暮らし、稲刈りが終われば山に入って炭を焼いた。
だが炭治郎は他の里人がそうするように里と山を行き来することはせず、冬になれば山にこもり切りになった。かれには一昨年町に嫁いだ妹の他に家族がなかったので、誰もいない家に都度帰ることをしなくなったのだ。
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