Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    HANSUKE_8

    @HANSUKE_8

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    HANSUKE_8

    ☆quiet follow

    🍠の小説っス!!!かけねぇっス!!!!!

    十色な正義「お前は私の恥だ、朧に溶ける奸賊め。」

    突如として降りかかった息苦しさと冷えに少年は不機嫌をあらわにする。
    薄ぼんやりと滲む視界に映る世界は白と異質な黒だけだった。

    「起きたか」
    聞き馴染みのある、傷に染み渡る深い声。少年はテンプレート化したこの言葉に何度も起こされてきた。
    「そりゃあ……起きるっスよ。こんな事されれば」
    少年の面前に仁王立ちする長身、黒尽くめの男は軽くなったポリバケツを放り投げ、軽く肩を上下させた。そしてキャップの影から覗く丸い目は少年を捉えてじわりと半月に変貌する。
    「おはようアンタクティカ。通算52回目の気絶じゃぞ」

    少年の名はアンタクティカ。
    正義の為にと手に入れた力を上手く扱えぬばかりか悲劇を引き起こす。しかしそれが故に

    闇の正義の名の下に嘱望されし、純真な巨悪。

      ——— ——— ——— ——— ———

    「お前は俺の恥だ。朧に溶ける奸賊め。」

    空で誰かが何か言った、聞き取る余裕は無かった。

    それでも人間、命の危機に瀕すると案外冷静になれるもんなのね

    僕は押し寄せる粘ついたものになす術もなく口端からどぷり、と生暖かい錆を溢した。
    口内を酷い味に支配された僕はたまらなく不快であり、穴の空いた右脇腹からは痙攣するように止まること無く流れ続ける鮮血。
    どう足掻いても待ち構えるのは先の見えない死。
    僕は脂汗の浮いた眉をしかめるしかなかった。
    「……」
    眼鏡、そうだ眼鏡はどこに行ったんだろう
    僕は体力の無い喘息持ちで、ついでに視力も悪い。
    今も僕の腹に穴を開けた人物の顔すら見えない。地面に叩きつけられて、そのままうつ伏せだから本当何も見えない。視界は砂利と自分の血と後は男の真っ黒い革靴だけ。
    それでも僕は一人の市民を救えたんだ、この死は名誉あることだろう
    そんなことを考えていると赤に染まった拳がゆっくりと僕の耳側へ降ろされた。

    「人殺しめ。」

    ……今、なんて?

    「お前は誰だ、何処の何だ、今のは何だ、何故アイツを逃した、内通者か」
    何を言っているのか分からない。理解が出来ない。
    僕が人殺し?
    「お前の存在が露呈してみろ。俺はターゲットを始末出来なかった挙句部外者を殺した不良品。今お前は俺を殺した」
    「……僕は、人助けを、したんス
    「殺されそうな、しみんを
    「僕の。せいぎのた、めに」
    一言話す度に意識がどこかへ飛びかける。だけども僕はこの男に主張したかった。
    僕の『これ』は正義であったと。

    「正義!良い言葉を知っているじゃないか。俺も本来ならば正義を執行するところだったんだ。」
    男は僕の言葉に笑ったようだった。じわりと被さる男の長い髪で視界が隠され、その端正な顔だけがハッキリと見えた。
    笑っていた。

    「正義など幾らでも詭弁が効き、盾にもなれば矛にもなる。お前の行動は正義だったのだな、だが俺にとっては邪魔でしかない。」
    「……ぼくは、正しいっス」
    あの日から僕は正しさを求めて生きてきた
    実を食べたあの日から、ずっと。

    「黙れ。それとお前は恐らく能力者……でなければ俺の拳がズレる訳がない。」
    何か琴線に触れたのか、男はぐいと強引に髪を引く。豊満な腕の筋肉が軋む音がする、表面は黄色く変色し黒い斑点の出来た異色の腕から。
    「言え。」
    「……パタパタの、実、僕はあんたの、心に触れた」
    僕が咽せて飛ばした血は男の顔に散る。しかし男は瞼一つ動かさなかった。
    僕を貫いたこの男は何者なんだ、刻々と死が迫っているというのに殺される恐怖もオマケといってついてくる。

    「ほう……だが使いこなせてはいないようだな。お前には勿体ない、殺しておくか。」
    早まる命の燃焼、僕の灯火はあとどれほど残っているのだろう。
    「言い残すことは?」
    男は僕の空虚な腹をそっと撫でて囁いた。今まで何人がこうして殺されてきたのか、考えるだけでも恐ろしい。
    でも僕はここまできて死にたくないと強く願ってしまった。
    人間って、訪れる死が自分の望んだ物だとしても最後の最後で

    「……ッ僕の実は、あんたが、僕を消した証として、どこかに姿を表すっス

    足掻きたくなるんだなぁ

    「残念っスね、人殺し。」

    ここで僕の記憶は一度途切れることになる。
    男の歪みきった顔と逆立った黒い髪の毛、勢いよく振り下ろされた既に紅く濡れる拳。
    鈍い音と共に僕は意識を手放した。

    そして閉じたまま二度と開かないと思っていた目は意外にもすんなりと光を見た。

    真っ先に目に入ったのは大量の管と点滴。それら全ては僕に収束されていて、どれほどの怪我を負ったのかが一目瞭然だった。
    医師は目を覚ました僕を確認すると大慌てで誰かの声を捲し立て病室から走り去る。まだボーッとする頭で今の状態を理解しようとしていると

    「起きたか。」
    聞き覚えのある嫌な声だった。僕の枕元にあったらしいヒビの入った眼鏡を律儀にも僕にかけ、わざとらしく顔を近付ける例の男。
    「ロブ・ルッチ。覚えろ、そしてお前は今日から俺の管轄下だ。六式を使えるようになれ。能力を使いこなせ。強くなれ。」
    あの身長あの顔面から放たれる威圧に萎縮した僕だったが、それよりもルッチと名乗る男の整った顔に僕は目を奪われた。
    「……殺さなかったんスか」
    「殺さなかったんじゃない。その力、散々使い古してボロ雑巾のようになってから殺してやろうと思っただけだ。」
    勘違いするな、ルッチはピクリとも動かないその顔で吐き捨てこの場を去った。
    足音も立たせずに、残り香も残さずに元から居なかったかのように。
    「……こっわ」

    この後僕は完璧に傷が癒えるまでリハビリを繰り返しつつ、CP9と名乗る組織のメンバーである数人から知識を得たりとまあ忙しかった。
    そして僕は晴れて彼らCP9のメンバー……ではなく、それの監視下に置かれている要注意人物のような扱いになった。皆曰く『能力者の癖に道力3など有り得ないにも程がある。』らしい。

    だから、今に至る。

    「起きたか」
    「……今何が起きたんスか」
    「嵐脚『白雷』、起き抜けのお前があまりにも油断しておったから軽めのジャブじゃ。」
    「ああ……だから今たてないんスね僕……顎痛ってぇ……」

    滲む視界に白と黒、この世には善と悪しかないらしい。
    この組織が善ならば僕も善となり、悪ならば僕は悪となる。
    彼らは正義を盾に殺しを行う事もある。しかしそれは『正義』のため。
    『お前は私の恥だ、朧に溶ける奸賊め。』
    腹に穴が空いた際に放たれた言葉。
    僕はまだ弱くて曖昧だから。

    いつか自分が黒だと気付かされるその日まで。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works