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    furoku_26

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    キバカブ

    ##キバカブ

    2021.2.14(バレンタイン) オレはナックルシティのバトルカフェで、カブさんとまったりデートをしてい た。平日の午前、窓際のテーブル席は貸切のような静けさだ。
     季節は冬で、仕事はぼちぼちな2月の始め。ここ連日のナックルシティは気温一桁を更新し続け、ついには雪まで降りだした。キンキンに冷えた窓ガラスの向こうでは、シックな建物に白い雪がうっすらと積み重なっている。隙間から見える空は真っ白だ。
     冬はマジで嫌いだったはずなんだけど、最近はそうでもなくなってきた。冬服はコーデのしがいもあるし、雪景色も幻想的で悪くない。さらに愛しの恋人と一緒に暖かく過ごせれば最高だよな。寒いからこそ、対比するように暖かさを感じられるのだ。暖かさ=幸せ、なんて超簡単な方程式を、燃え続ける誰かさんのおかげでオレは発見したのである。
     それに2月といえば、だ。あんたはそれだけでもうわかるよな? 冬の寒空の下だけど、街は赤やピンクのデコレーションでいっぱいだ。カフェのショーケー スもそんな雰囲気。きのみをハートにくり抜いたサラダに、赤いフルーツを盛ったパフェ、でろでろに甘いホットチョコ、粉雪が積もったみたいなチョコレートケーキ。ついでにレジではご親切に赤いバラまで売っている。そうだ、誰がどう見たってわかるよな。超ニブチンのカタブツ頑固オヤジでも、絶対わかる。わかるよな...…? 頼むからわかっていてください。なんてオレは少しソワソワしながらも、正面に座っているカブさんに尋ねる。
    「カブさん、14日の予定って空いてます?」 「14日?」
     カブさんは少し首を傾げて、ホットコーヒーに口付けた。オレも釣られてミルクティーをそっとひと口。ミルクの甘い香りが鼻を抜けた。
    「あぁ、バレンタインか。たしか空いていたと思うけれど」
     甘い雰囲気を堪能しながら、オレはよしよし、と心の中で頷いた。ちゃんとわかってくれているようだ。
    「それじゃ、14日。オレとデートしてください」
     オレたちはラブラブな恋人で、その日の予定も空いていて、ダメ押しに直球なお誘いまでして、……となれば答えは決まっている。
     カブさんは雪や粉砂糖みたいにふわっと白く微笑んで、ホットチョコレートみたいに甘くとろける声で答えを言う。
    「嫌」
     あれ? とオレは固まった。なんたって視覚と聴覚が真逆の情報を伝えてきたのだ。カブさ んは極上の笑顔を浮かべて、嫌って言った。いやおかしいだろ、なんでだよ。今そういう雰囲気じゃなかったじゃん。
    「え、なんで?」
    「だってその日は、きみとナックルジムが特段忙しい日だろう?」
     カブさんは飄々としてそう言った。なにバカなことを言っているの? とでも言いたげだ。
    「そうですけど、夜なら時間とれるんで。ディナーにでも行きましょうよ」
    「行ったとしたら、パパラッチの格好の餌食だね。バレンタインにぼくなんかとのデートを撮られたら、きみのファンたちが可哀想だよ」
     カブさんはまたコーヒーをひと口飲んで、窓の外に目をやった。オレも窓の外をぼんやり見てみた。厚着で身体を縮こまらせて、足早に歩く人がちらほら見えた。現実は寒くて冷たすぎる。
    「カブさんはオレと過ごしたくないの?」
     諦めきれずに窺うように尋ねると、カブさんはゆっくりと首を横に振る。
    「そういうことではないよ。ただ仕事は仕事として、ね」
     相変わらず氷のように超絶クールだ。ついでに窓ガラスより冷たい無表情。だが、よくよく考えたら、オレの予定とファンのことを考えてくれているらしい。 仕事バカのカブさんらしい優しさだ。
    「オレはカブさんとなら、全然撮られてもいいんですけど。むしろ自慢してやりたいくらい」
     オレは頬ずえをついて、わざとらしく拗ねてみた。だって年に一度のバレンタインだぜ? 愛を伝え合う日なんだぜ? せっかく大好きな恋人がいるんだから、それに乗らないテはないだろう。カブさんが本気で嫌ならやめるけど、オレの予定とパパラッチだけが問題なら、強引にでも押すしかない。いくらキバナさまが人気者でも、オレはその日をカブさんと一緒に過ごしたいのだ。
     カブさんは口を尖らせるオレを見て、やがて諦めたようなため息をついた。
    「仕方がないなぁ」
     オレはニヤリとバレないようにほくそ笑む。オレは本能的に知っていたのだ。カブさんはなんだかんだで、最終的にはオレに対して甘いことを。
    「そこまで言うなら、13日か、15日に行こうか。都合はつけられそう?」
     よっしゃ! とオレは勢いよく返事を返す。
    「もっちろん! なんなら両方空けますよ。13日はデートして、15日は家で過ごしましょ!」
     オレの嬉々とした提案に、カブさんはうん、と照れくさそうに頷いた。すばらしく画期的で天才的な妥協案。だってオレは一兎を追って、二兎を得たんだからな。
     オレたちはその場で、さっそくプランを考え始めた。ディナーはどこに行こうかとか、プレゼントはなにがいいかとか、家では何をして過ごそうか、とか。こういうのって、考えてる時もたまらなく楽しいもんだよな。
     だいたいのプランをまとめ終えると、コーヒーと紅茶のおかわりをした。そして満足感とワクワク感に浸りながら、ほっとひと息ついた時。カブさんはまた、ふわりと暖かく微笑ん だ。
    「ねぇ、キバナくん」
    「なんです」
    「14日のドラゴンストームはファンたちみんなのものだけれど……、それ以外のキバナくんは、ぼくに独り占めさせてね」
     へ、とオレはマヌケ顔でガン見した。カブさんは時々、不意打ちでドキッとするほど熱烈なことを言ってくる。マジで心臓にくるやつだ。さっきまで、嫌って全否定していたくせに、これはちょいワルが過ぎるよな。
     言った本人は顔を赤くして俯いてしまった。オレが固まったままガン見していたせいなのか、急に恥ずかしくなったのかはわからないけど、ちょっと、その仕草もズルすぎる。
     あまりの可愛さに頬がニヤけて、オレはダラしない顔を隠すつもりで紅茶のカップを手に取った。甘い香りとほっとするような暖かさは、やっぱり=幸せだ。
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