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    黄金⭐︎まくわうり

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    POIPOI 42

    History4 呈仁CP
    台湾ワンドロ お題・嫉妬

    嫉妬 最近、リーチェンがうざい。いや、リーチェンがうざったいのは、今更始まったことではない。
     リーチェンが常に恋人といたいと思う人間であることは以前からも知っていたし、付き合い初めの頃はそれも嬉しいと思っていた。ただ、そんな状態がずっと続くと、好きな相手でも少しは疲れると言うものだ。
     例えば、ムーレンが休日に出掛けようとすると、行き先は必ず聞いてくるし、可能であれば付いて行きたがる。彼自身が出かける場合も、必ずムーレンも一緒に連れて行こうとする。平日はいつも昼食を一緒に取る予定にしているのだが、職場の付き合いで一緒に取れなかったりすると、ヤキモチを焼いてムーレンを困らせる。リーチェンは常に、恋人と一緒にいたいのだ。ムーレンとて、恋人と一緒にいる事は幸せだと思うし、出来れば離れたくないとは思う。ただ、リーチェンとはその度合いが違うのだ。そもそも、ムーレンは群れるのが好きではない。どちらかと言えば自分一人の時間が少しでも欲しいタイプなので、ただでさえ職場も家も同じ二人だ、いくら自分の恋人とは言え、始終一緒にいる事に若干の苦痛を感じてしまう。
     いい加減にしてくれ、と思わず口をついて出たのは、リーチェンが自分の枕を持ってムーレンの寝室に現れた時だった。ムーレンが唯一一人になれるのは、就寝前の寝室でだけだ。リーチェンとは寝室が別の為、たまにリーチェンがこうやってムーレンの寝室を訪れることがある。通常は二分の一の確率で受け入れるのだが、今日は色々溜まっていた思いの限界値を超えてしまった。ムーレンの言葉の真意を見出せずにいるリーチェンに、あのさ、とため息混じりにムーレンが言う。
    「決してお前が嫌いになった訳じゃないし、お前の事はちゃんと好きだ。でも、始終一緒にいるのは疲れるんだ」
     だから暫くそっとしておいてくれないか、と額を押さえる。本当はこんな事は言いたくは無い。リーチェンが落ち込むのは火を見るよりも明らかだからだ。彼のことを思うと、もう少し優しく言った方がいいのは分かっている。でも、今のムーレンにはそんな余裕はなかった。
    「俺とずっと一緒にいることが苦痛……ってこと?」
     リーチェンの問いに、額を押さえながら頷く。リーチェンが枕を抱き抱え直したのだろう、かさり、と音がした。
    「そっか……トントンは一人でいる事が好きだったりするもんな、俺も知ってたはずなのに」
     なんかごめんな、と言うリーチェンは、予想に反して落ちんでいる風でもなく、少し困ったように微笑んでいるだけだった。その表情を見て、ムーレンは少しだけ安心した。ムーレンの言葉を聞いて、また一騒ぎあるのではないかと懸念していたのだ。しかし、リーチェンはちゃんとムーレンの言葉の意図を理解してくれたようだ。おやすみ、と言ってムーレンの寝室を後にする。パタン、とドアが閉まると、ムーレンはベッドに大の字になった。これで暫く自分の時間が作れるだろう。ムーレンは溜息と共に瞼を閉じた。

     次の日から、リーチェンはムーレンに煩く付き纏うことを止めたようだ。友人だった頃のように、付かず離れずの距離感を保ってくれている。べったりくっ付かれることに辟易としていたムーレンにとっては、物凄く居心地の良い距離感だ。ムーレンが誰といようと煩く詮索することもないし、ヤキモチを焼いて困らせるような事もない。ムーレンも、特にリーチェンの行動について詮索することもない。
     つい先日などは、他部署の女の子たちに食事に連れて行って欲しいとせがまれていたようで、一応、行っていいかとお伺いがあったが、いいよ、と即答した。リーチェンには自分と言う恋人がいるし、それは社内の周知の事実だ。あれだけムーレンに執着しているリーチェンが浮気なんてする訳がない。リーチェンも自分とだけの世界を作るより、他の人間との関わりを持った方がいい。そう言うスタンスのムーレンに、リーチェンは特に何も言うこともなく、合わせてくれている。恋人とは言え、適度な距離は必要だったな、とムーレンは改めて思った。

     「リーチェン、今度の週末、久々に出かけないか?」
     会社からの帰り道、ムーレンが何気なく誘う。以前は休日は必ず一緒に過ごしていたのだが、最近はめっきり少なくなっていたので、たまには休日を一緒に過ごすのもいいだろう。リーチェンは携帯を取り出して画面を見ると、あー、と言った。
    「ごめん、今週末は取引先の人達とキャンプなんだ、来週の日曜の夕方からなら空いてるよ、外で夕食でも食べる?」
     リーチェンの言葉に、何となく違和感を感じ、あ、うん、としか返事ができなかった。刹那、リーチェンの携帯が鳴り、彼は何かを話すと、周りを見回し始めた。
    「トントンごめん、友達に呼び出されちゃってさ、ちょっと今から行ってくる」
     帰りは多分遅くなるから先に寝てて、とムーレンの頬にキスをすると、片手を上げてタクシーを止め、そのまま行ってしまった。一人取り残されたムーレンは小さくなっていくタクシーを呆然と見つめる。……なんだこれは。小さな違和感が少しずつ大きくなって行く。いくらなんでも蔑ろにし過ぎではないか。リーチェンには男女問わず友人が多い事は知っている。だからと言って、デートではないにしろ恋人と一緒にいる時に、恋人を置いて友人の所に行くなんてどうかしている。沸々と湧き上がってくる怒りに拳を震わせ、リーチェンが帰ってくるまで意地でも起きて文句でも言ってやろうと思って歩き出したとたん、何かに気づき、ふとムーレンは足を止めた。
     ……これは、自分が望んだ付き合い方なのではなかったか。自分はリーチェンに何と言った? リーチェンはムーレンが要求した通り、適度な距離を置いてくれている。それに満足していたのではなかったか。お互い一緒に過ごす時間が少なくなった分、個人の時間が増えるのは当たり前だ。友人との付き合いも増えるだろう。いつまでも自分優先で待っていてくれる筈なんてない。ムーレンはあの時の、リーチェンの困ったような笑みを思い出した。
     ああ、あれはもしかして、諦めだったのではないだろうか。
     ムーレンは暫くその場から動くことができなかった。

     なあ、と至って普段通りにリーチェンに話しかける。久々にお互いに早く退社した夜、ムーレンとリーチェンは自宅でゆっくりと夕飯を食べていた。リーチェンに置き去りにされた日以来、ムーレンの中の不安の種はどんどんと大きくなるばかりだ。とは言え、喧嘩をする訳でもないし、リーチェンは最低限の愛情表現はしてくれている。表面上は穏やかな関係に見える。けれど、一度芽生えた不安は、ムーレンの心を大きく蝕んでいた。
    「最近うちの課に入社した女の子いるだろ? その子がどうも僕の事気に入ってるみたいでさ、何かに付けて食事に誘ってくるんだ」
     困ったよ全く、とチラリとリーチェンを見るが、リーチェンは単なる世間話を聞いているかのように、へぇ、とそれだけ言うと食事を口へ運ぶ。以前の彼なら、ムーレンの言葉が終わらぬうちに大騒ぎしていた。ムーレンの胸がずきりと痛む。
    「新人を無下にする訳にもいかないし、一回だけ、食事に行っても良いかな?」
     そう問われたリーチェンは、少し手を止めると、仕事だもんな、いいよ、と言った。
    「……なあ、仕事の一環とは言え僕の事を気に入ってる女の子と二人だぞ? ヤキモチ……とか焼かないのか?」
    「焼かないよ、俺はトントンを信用してるし」
     少し考える素振りをして、リーチェンが言った。信用、便利な言葉だ。きっとリーチェンの信用と言う言葉は諦めと等しい。ぎゅう、と胸が締め付けられて、ムーレンは息ができなくなる。思わず己が胸に手をやり、シャツを掴んだ。
    「お前の中で、僕の存在はヤキモチを焼く価値すら無いって事か」
     シャツを掴む手が震える。自分のあの一言で、ここまでリーチェンの気持ちが離れてしまったのか。あの時、そんなつもりで言った訳ではないと言いたいのに、思いは言葉になってくれない。暫くして、だって疲れるんだろ? とリーチェンが困ったように言った。
    「一人の時間が欲しいって言ったのはお前だ。だから俺は適度に距離を置いた、お前が好きだから。ほんとは辛くて死にそうなのに」
     リーチェンの表情が、何かを堪えるように歪む。
    「なあ、分かるか? お前の周りに嫉妬しない、お前の側にも居れない、その寂しさや嫉妬心を見ないふりする為に、他の事で気を紛らわせた。俺の中はトントンで一杯だったはずなのに、他のものが沢山入ってきて、だんだんお前が減ってくんだよ、お前が大好きだから、お前で一杯にしたいのに、どんどん減ってく」
     リーチェンは一瞬言葉を詰まらせると、両手で顔を覆った。ムーレンは堪らずリーチェンに駆け寄ると、震える背中を抱いた。
    「リーチェン……嫌だ、お前の中から僕が無くなるなんて絶対嫌だ、許さない」
     距離を取ってくれと言ったのは自分で、リーチェンに辛い思いをさせのも自分だ。虫の良いことを言っているのは理解している。だが、言わずにはいれなかった。リーチェンを失うなんて考えられないし、絶対に失いたくない。それだけ愛しているのに、どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと後悔する。同じ内容でも、もっと傷つけない言い方があったはずだ。結局、リーチェンの愛情に胡座をかいて、自分勝手に振る舞っていたのは自分の方だった。彼が自分から離れる事なんてない、と高を括っていたのだ。
    「リーチェン、まだお前の中に僕は残ってる?ねぇ、お願いだ……もう一度お前の中を僕で一杯にしてよ」
     お願いだから、と震える声で訴える。リーチェンを抱く腕に力を込めた。嫌だ嫌だ嫌だ、この温もりを失うなんて絶対嫌だ。ねぇ、お願い、と言う言葉が涙で消えた。嫌だ、と涙ながらに呟いて抱きしめるムーレンの腕にリーチェンの指が触れる。
    「……トントンがうざいって言ってもやめないし、始終一緒に居たいって言うよ? 俺」
     くぐもった声でリーチェンが言った。ムーレンは鼻を啜りながら頷く。
    「俺、嫉妬深いから、お前の周りに沢山嫉妬するよ?」
     うん、とまたムーレンが頷く。……それって結局前のまんまって事だよな、と言うと、微かにリーチェンが微笑むのが分かった。
    「いいよ、それがお前の愛し方だもんな。お前に愛してもらえるなら、なんだっていいよ」
     居なくなる方が嫌だ、と言うムーレンの言葉に振り返ったリーチェンの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。きっと自分の顔もそうだろう。想像すると笑えてきて少し笑うと、リーチェンもぎこちなく笑った。そして、どちらからともなく唇を合わせる。互いの涙の味を舐め取るかのように深く口付けては、熱くなった吐息を漏らす。熱い音となった吐息は耳から入り込み、思考を麻痺させた。そして、愛しいと言う思いしか残らなくなる。その思いは互いの体から漏れ出し、一つになろうとゆっくりと絡まって行く。
    「トントン……どうしようもないくらい愛してるよ、俺の中をお前で一杯にしたい。だから、お前の全部を頂戴」
     今すぐ、と思いの丈をぶつける様なキスに、ムーレンの思考が一気に飛んでしまう。
     ……いいよ、お前が側に居て、愛してくれるなら僕の全部をあげる。

     髪を撫ぜる指で目を覚ましたムーレンは、リーチェンを確認するとそのまま抱きしめる。どうした? と言うリーチェンに、何でもない、と返す。リーチェンとこうやって過ごす時間が本当に大切で、幸せなものだと感じると共に、リーチェンを愛する気持ちがさらに増したように思う。
     いつも以上に抱きしめて離さないムーレンに、リーチェンは少し戸惑うような手付きで抱きしめ返した。
    「……寝室、一緒にする?」
     ムーレンの突然の申し出に、リーチェンは面くらっているようだ。それもそうだろう、リーチェンから何度も提案していたのに、却下していたのはムーレンだったからだ。
     その言葉、撤回させないからな、とリーチェンは嬉しそうに微笑み、ムーレンの額にキスをする。
    「今度は僕の方が、お前から片時も離れたくないんだ」
     愛してるよ、とリーチェンの胸に顔を埋めた。そして、久々のデートは家具屋だな、とぼんやりと思うのだった。
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