七海とクリスマスマーケットに行く話「冷えてしまいましたね。どうぞ、これを」
首をすくめたのを見かねて、七海が片手に持っていたストールを差し出した。
「そんな、気にしないでください。歩いていれば、あったかくなるはずですし」
「いいから、今使ってませんし」
固辞しようとする灯織の首にストールがふわりと掛けられる。そこまでされては、灯織も厚意を無下にはできない。頭一つ分抜きん出た身長をかがめ、七海はストールを丁寧に巻いていく。上質な肌触りのストールがプレゼントのリボンのように丁重に扱われるのを肌で感じ取り、気恥ずかしくて直視することは憚られた。彼の視線を感じながらも、下を向くことしかできなかった。
「はい、できましたよ」
ラッピングを終えたかのように、七海の言葉に反射的に顔を上げると――柔らかく、ほんのりと熱が唇に触れた。
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