【紅蓮ノ暁】外伝『未来への約束』―――――ここ最近、童磨はほとんど寝たきりなっていた・・・痣を克服して七年近く経つが、どうやら猛毒の後遺症は今も彼を蝕んでいるようだった。
「久しぶりだね、梅ちゃんと二人きりでお話できるの。」
体を起こす童磨の傍には、先日一時帰宅してきた梅がいた。役者として日々忙しく過ごしている彼女が親代わりの童磨と二人きりで話せるのもこれが最後かもしれない・・・認めたくはないが、それを薄々感じたのだろう。梅はこんなことを言った。
「あのね、童磨さん・・・前にお兄ちゃんと約束したんだ。『何度生まれ変わっても兄妹でいよう』って・・・」
「そうか。君たちは本当に仲良しだなぁ・・・」
お喋り好きな童磨だが、明らかに昔と比べて元気がない。そんな彼を気遣うかのように、梅はあえて楽し気に話す。
「うん!アタシたち二人で最強の兄妹だもん!それでね童磨さん、一個お願いがあるんだけど・・・本当にその時が来たら、童磨さんとこの子になってもいい?」
唐突な言葉に童磨はキョトンとする・・・梅はキリっとした眼差しでこう続けた。
「お兄ちゃんと一緒にいるのは当然として、そこに童磨さんも一緒にいてくれたら超嬉しいっていうか・・・別に、血の繋がりとかあっても無くても良いの。もう一度家族になってくれるだけでも嬉しいんだ・・・良いかな?」
「梅ちゃん・・・」
継子にして〝愛娘〟である彼女のお願いに、童磨は頷いた。
「うん、良いよ。また君たちが家族になってくれたら、さぞ楽しいだろうな・・・」
童磨に承諾された梅は満面の笑みを浮かべた。その一方で、笑みを返す童磨は心の中で呟く・・・。
(梅ちゃん・・・俺も生まれ変わった先で、もう一度君たちに会えたらなって思うよ。だけど、俺と君たちは「会わない」方が幸せな気がするんだよね。だって・・・)
次に俺と君たちが会う時は、君たちが〝最高にツイてない〟時だと思うから・・・。
君たちは幸せに生きるべきだと思うから・・・だから、ツイてない時なんて来ない方が良いんだ。
大丈夫さ、俺に会わなくても君たちはきっと幸せに暮らせるさ。必ず・・・。
―約百年後―
「今更ではあるが、本当に大丈夫か?俺の知り合いとはいえ、お前にとっては赤の他人だ・・・」
夫の勝美に言われるも、ドーラは全く気にしていない様子で笑いかけた。
「全然ヘーキだって!だって勝美さんの可愛がってる子たちなんだもの、良い子に決まってるよ!」
この日、勝美の弟の親友・・・の、双子の弟妹が継国家へ下見にやってくることになっている。
どうも兄妹の両親が転勤で遠くへ行くことになったものの兄妹は転校はしたくない、しかしこんな中途半端な時期に寮や下宿先が簡単に見つかるはずがなく、双子たちの兄である桑島岳斗が何度も頭を下げて頼み込んできたのである。
インターフォンが鳴り、夫婦は一緒に出迎える・・・扉の向こうから双子の兄妹である桑島柳太郎と由梅がやってきた。
「お邪魔します。初めまして、桑島柳太郎です。」
「桑島由梅です!」
「二人ともようこそ、我が家へ!継国ドーラです♪二人とも、住むとこが無くて困ってるんだって?」
そうなのよ~!と、挨拶して早々に由梅は馴れ馴れしい様子でドーラにこう告げた。
「ホント困っちゃってて!ドーラさん、アタシたち今〝最高にツイてない〟の!」
「っ」
・・・その瞬間、ドーラはどこか懐かしい感覚を覚えた。その数秒後、夫と双子は彼女を見てギョッとする。
「どうした、ドーラ・・・!」
「だ、大丈夫すか!?」
「ドーラさん?どっか痛いの?」
とめどなく涙を零すドーラ・・・戸惑う三人に、彼女は首を振った。
「ごめん、何でもない・・・ちょっとね・・・っあはは、何でもないよ。こんな赤の他人のオバチャンに頼ってくれて、嬉しくなっただけw」
ドーラは涙を拭い、これから〝家族〟のような存在となる二人に笑顔を見せた。
「これからよろしくね、二人とも♡」
おわり。