水辺のふたり 年頃の娘ばかりが立て続けに消えているという、運河に囲まれた街。鬼の気配と悲鳴に押し入った商家の奥、娘の部屋には衣紋掛けに目映い白無垢がかかっていた。恐怖に声を失う娘の姿に義勇の脳裏をよぎったのは、知り得たはずのない恐怖に青褪めた姉の姿だった。
刹那、沸騰するような感情に呑まれて、気がつけば鬼の頚がごろりと転がっていた。
たった一体、呆気なく終わった鬼狩りなのに、心臓は未だ早鐘のように鳴り続けてその場を離れられない。
「冨岡さん」
澄んだ声がして、刀を握る義勇の拳にしのぶの指先が遠慮がちに触れた。
鬼を屠ってなお、強く握りしめたままの拳を義勇はようやく自覚した。
「……冨岡さん」
呼ぶ声が、かすかに哀しい色を帯びて耳に届く。
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