女装させたい「お前たちか」
ゆらりと、まるで生ぬるい風のように向けられた顔に表情はなく、感情を読み取ることは難しい。魈に会ったのは数か月ぶりだが、以前よりも肌の色は青く、疲れているように見えた。昔見た人形のようで不安が増す。
「どうしたんだ、魈? 何だか顔色が悪いぞ」
普段から「魈は何を考えているか分からない」と言っているパイモンでさえ気づいたようだ。魈はなんでもないとそっぽを向くが、やましいことがなければ顔を背けないはずだ。空が問いただそうと口を開くが、魈はいささか固い口調でそれ遮った。
「ところでお前たちは、何をしにここへ来たんだ。新しい任務か?」
「おう、女将からの依頼で望舒旅館まで行くつもりだ」
魈に女将から依頼された内容を説明した。と言っても、説明することなど大して無いのだが、魈は一つ頷いてから少し考えるように顎に手をやった。
「そういえば、魈はどうしてここに?」
「この付近に妖魔の気配があったからだ。無論すでに退治はしてあるが、念のためここいら一帯を見て回っていた」
「そうなんだ……」
どんなに疲れた色を浮かべても、魈のやることは変わらない。彼はきっと血まみれで身体が言うことを聞かなくても、自ら課した指名を果たすだろう。魈と出会ってそう日は経っていないが、彼の手元にはいつも槍があり儺面があった。なぜそうまでして戦い続けるのか、空は詳しく知らない。だが聞けるような仲でもないし、魈自身の重い決意が感じられる姿にとやかく言うことは憚られた。きっと彼の辛さに寄り添えるのは過去の血で血を洗う歴史を知るものだけだろうと思うと、胸の奥が軋むように痛んだ。