中国語教室でばったり遭遇する話 駅から徒歩3分を謳う宣伝文句も虚しく、湿気と熱気で汗だくになりながら伊角は教室にたどり着いた。ひんやりと冷房が効いた室内に安心し、思わずため息をつく。受付を済ませて部屋に向かうと、前のレッスンの生徒が出てきたところだった。
「あ」
思わず間の抜けた声が漏れる。
「こんにちは。伊角さんもこちらに通われてるんですね」
「塔矢もここ通ってたんだ」
「昨年の秋ごろから来ているんです。まだまだ発音が難しくて」
「全然わからないよね、文字ならわかる気もするけど」
「そうですよね。あぁ、そろそろレッスンの時間ですよね。すみません、では失礼します」
律儀に会釈をして去る塔矢を見て、後ろめたさのようなものを覚える。彼がこうやって語学教室に通っているのはおそらく北斗杯をはじめとする国際大会を見据えてのことだろう。
410