パーティは小さくてもいい「お、おなか、すいたぁ……」
「……あ、ルー君。お疲れ様。」
「ブラック、遅かったな。」
第一食堂にふらふらと入り込むル・ブラック。入口前にいると、先に席にいたデリラとキッチンから座席へ移動していたイザベル。キッチンにはオーウェンが立ってパタパタと動き回っている。
して、エルロコ支部には、食堂が四か所有る。第一と第三食堂は自炊する人向けの小さめな食堂で、第二と第四食堂が大人数向けの場所をなっており、第一食堂は尚且つ立地が悪い為、余程の物好きじゃない限り立ち入ることがない。その為、そこに在住しているオフィサーや料理担当者はいない。基本的古参カルテットと管理人に呼ばれている四人しか居ないのだ。
「……いぶぅ……なにか、ない?」
「ワガママさんなルー君は、甘いものを食べる気分かな?」
「後輩たちに、クッキー貰った!けど、食いたい!!!」
「クッキー……僕も可愛い後輩達にクッキー貰えたなぁ。」
と、くすくすと笑っていればデリラは苦笑いしながら二人の頭を撫でながら、机にクッキーを置く。そして、やれやれといったため息をついた。
「『これからもよろしくお願いいたします、お父さん』って言われたからな?父じゃないし、子も居ないんだが……」
「オーウェンさんは?貰ったの〜?」
話を振られると思わず目を丸くした後、視線を机にぽつんと緑色のリボンで装飾された袋へ向けて、調理中の鍋へと戻す。
「……後輩から、カップケーキとマロングラッセを渡された。」
「「きゃー!いいじゃないか!」」
と、巫山戯ている上層部チーフ達に対し、下層部に異動したばかりの二人は顔を見合わせから頭を押えた。心当たりがありすぎると、イザベルは若干視線を迷わせてから少しだけ頭を下げた。
「……オーウェンさん、僕の後輩たちがご迷惑かけました。」
「……いいよ、俺はこの分、食えない。……相手の気持ちは汲み取れない。」
「……なら、僕のお菓子と交換致しましょう。それに、僕とオーウェン先輩で、ドーナッツ作成してますし。深い意味に捉えず、食べましょう。美味しいものは、大切に食べるべきです。……ルー君は、純粋に貰えてないだけですから。」
「イブ!?貰えた、貰えたよ!!?俺、貰えました!!」
「あはっ、冗談だよ。」
微笑んでイザベルはカウンターから飲み物を受け取り運び始める。のを、頬を膨らませてから床からやっと立ち上がり、イザベルにズカズカと近寄る。デリラは、あぁいつものか、といった様子に珈琲を受け取って、貰ったクッキーを食べ始めた。
「トーンが淡々としすぎなの!!!イブって、表情固めだから、ね?…………あ、ほっぺた柔らかけぇ、あったけぇ……。」
「デリラさん、あの、このお疲れさんを、ちょっ、ルー君!!コップ落ちる落ちる落ちる。」
「ブラック、ご飯を食うか、イザベルから離れるか、どっちかにしろ。どちらもの選択肢はない。嗚呼、それを選んだ暁には……ジャスティティアが飛ぶと思え。」
カウンターにノックを数回。やれやれとため息をついてから、ブラックに手招きをしたオーウェン。年齢的には上のはずなのにと、デリラはそっと目をそらす。そんなことを言ったら、自分が1番上の自覚がある故に。
「オーウェンさん、何かくれるの?」
「出来たてドーナッツ。チョコを付けたいなら、湯煎したばかりなのがあるぞ。気を付けて、付けたいならつけろ。」
「ブラックを甘やかすなよ、オーウェン。」
ル・ブラックをイザベルから引き外し、軽くチョップをする。頭を抑えてから、へこたれた顔でオーウェンのもとへと行った。
「甘やかしてないって……チョコくらい付けてくれるだろ?自慢の後輩なら。」
「ハイハイハイ!やります、やります!イブより綺麗に付けてみせます!」
「……ルー君、僕だって出来る。」
むっ……と、頬をふくらませ、オーウェンの元へ行こうとするイザベルを抑えて、こっちに来いとデリラがやれやれとする。またひっつき虫が来るぞ。という眼差しを交えて。
「ベル、お前はクッキーの仕分け手伝ってくれ。皿に移し替えるぞ。袋からいちいち出すの面倒だからな。」
「……デリラさん、貴方皿洗いするの僕らですよ。」
「油を使ってる時点で、洗い物の面倒さは変わらないだろ?……しれに、ゴミを先にまとめて出す方が効率がいい。」
「そういえば……オーウェンさんのミルクアレンジ美味しいですよね。あれ……って、あれ?今日はホットチョコですか?」
コップの中にある飲み物を軽く口に含んだイザベルが、首を傾げてオーウェンを見る。オーウェンは、目を軽く細めて微笑む。
「ホワイトデーは、あんた達が作ってくれるんだろ?」
「あ、ルー君とデリラさんが作ります。」
勢いよくイザベルが2人へと視線を向け、その2人は顔を見合せてから大きな声が出た。
「「はっ!!!!????」」
なんやかんやとテーブルに料理を揃え、飲み物を掲げ、全員で乾杯の音頭をとった。コップの音を鳴らし、暖かい飲み物を。これからの生命の軌跡を願って。