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    星乃夢見

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    星乃夢見

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    放蛍。ちらっとね

    愛してるを教えて愛してるを教えて 放浪者×蛍


     紛い物。作り物。どう足掻いたって人にはなれない欠陥品。
     感情のどこかが欠落していて、誰も愛せない空虚なもの。
     ……それが僕だった。

    ○ ○ ○

    「『愛』っていうのは何なんだ」
    「……へ?」
    「君は知ってるんだろう」
     早く答えろ、と言わんばかりに睨み付けられ、ぽろ、と口端からパンくずが落ちた。慌てて口を閉じて咀嚼し、お茶で流し込んで息を吐く。目の前の人の真意がどうにもわからない。彼にしては珍しくあやふやな質問であるし、はっきりとした答えがある問いでも無いように思う。まぁ、そもそも彼が私の、一個人としての意見を聞いてくること事態が珍しいけれども。
    「……放浪者は、愛も罪の一種だって言ってたよね。いわゆる代償行動ってやつなのかもね、って。そういうことじゃないの?」
    「僕が言っていたことのおうむ返しなんて求めてないよ」
    「じゃあ何が知りたいの。はっきり言ってくれなきゃわからないよ」
     とても重要なこと……そういう質問を私にするに至った過程を、私は何一つ聞いていないのだから。その辺りも含めて、はっきりと言ってくれなくちゃわからない。
    「ナヒーダに何か言われた?」
    「は?」
    「あ、図星なんだ。なに、私は貴方を愛しているわよ、とか言われたの? それなら家族愛ってやつじゃない?」
    「違うけど。勝手に予想を立てて盛り上がらないでくれるかな」
    「でも、ナヒーダに何か言われたのは本当でしょ」
     明らかに図星だって顔をしてたし。それに他の、赤の他人に言われた言葉なら聞き流しているだろうから。ナヒーダは自分のことを放浪者の保護者みたいな立ち位置だって言っていたけど、この辺りは本当に親子みたいだ。思春期の息子って面倒くさそうだなぁ、なんて。
    「……」
    「教えてくれなきゃわからないよ」
    「……あなたは彼女のことを愛しているのね、って言われただけさ」
     さっと目を逸らされる。特に何もない、レースカーテンの引かれた窓の方角に視線をぐるぐる彷徨わせて、絶対にこっちを見るもんかという気迫が感じられた。まぁ、そんなの無視してちょっといじめてみようかななんて思うんだけど。
    「彼女って?」
    「そこまで言わなきゃいけないほど君は馬鹿だったかな」
    「でも、勝手に予想したらそれはそれで怒るでしょ」
    「~もう! 君のことだよ! これでいいだろ!」
     ばん、と机に手を叩きつけながら立ち上がる。食器もあるんだしやめてほしい。スープとかお茶とかこぼれたらどうするつもりだろう。絶対に自分じゃ片付けないでしょ。
    「放浪者が私を愛してるって? ナヒーダが?」
    「次は君が答える番だろ」
    「というか、そこまではっきり言わなくても、恋愛としての愛は何なんだって感じで聞けばよかったのに」
    「……君ねぇ?」
    「冗談だってば。聞き出したの私だし……って顔怖」
     あからさまに『怒ってます』って顔をするのはどうなんだろうか。質問してる側のくせに偉そうなのは……まぁ、今に始まったことじゃないけど。
     ごめんごめん、とひらひら手を振って椅子に戻らせる。色々言ったのはいいけど、私にも恋愛だの愛情だのはよくわからなかった。ライクとラブの違いとか、文字の羅列として意味はわかっても、理解できるかと言えばそんなことはない。ましてやそれを人に説明するだなんて。
    「……愛ってなんなんだろうね?」
    「僕がそれを聞いてるんだよ」
    「私もよくわからないなぁって思ってさ。愛するって誰かを好きになるっていうことの、もっともっと上のものでしょ? 知らないうちに貰ってて、知らないうちに返してるものだと思うんだよ」
     意識してする物事じゃなくて、無意識のうちにしていること……分かりやすく言えば呼吸みたいな、してるなぁって思わなくてもできるもの。やり方を教わったわけじゃないけど、生まれた時から知っていること。ロマンチックなのはがらじゃないけど、愛だの何だのがそうでなかった試しを見たことがないから許してほしい。曖昧なのも、ちょっとは大目に見てもらって。
    「はっきり言ってくれないかな」
    「はっきり言うと、そんなに気にすること無いんじゃない? かな」
    「気になるから聞いてるんだってわからないのかい」
    「でも、わからなくっても、ナヒーダから見たら放浪者は私のことを愛してるように見えたんでしょ? それならいいじゃん。わからなくってもできるんならそれで」
    「それが見間違いだったらどうするんだ」
    「ナヒーダに限ってそんなことはないよ」
     よく見てる人だから。それに最終手段、人の心を読むことだってできるんだし。
    「まぁ、よく言われてることをそのままでいいなら、誰かを大切に思ったりすることが愛なんだと思うよ」

    ○ ○ ○

     どうにも煮え切らなかった。
     求めていた答えとはまるで違って、聞くだけ時間の無駄だったとがっかりもした。言ったら面倒なことになるから、言いはしなかったが。
     ──元より彼女に期待なんてしていなかったが、どこか心の端っこで、納得のいく答えをくれるんじゃないかと思っていたのかもしれない。
    「あら、珍しいわね」
    「僕がどこにいようが勝手だろう」
    「いいえ? あなたが何かについて悩んでいることに対して言ったのよ。私は力になれそうかしら?」
    「……悩んでいる原因がよく言うよ」
     ふん、と顔を逸らして立ち上がれば、あら、と驚いたような声が返ってくる。自覚など無かったらしい。何気なく言った一言でこんなにも悩まされているのかと思うとまたイライラする。わざとらしく足音を立てて席を変わった。図書館では静かにしなさい、なんて、母親みたいなことを。
    「まだいるのか」
    「えぇ、あなたが話してくれるまではね」
    「話すも何も、胸に手を当ててみればいいじゃないか。自分が言ったことくらい覚えているだろう」
    「覚えてはいるけれど、心当たりが多すぎるわ。もっと他の生徒と接しなさいって言ったことかしら。それとも、周りには優しくなさいって言ったこと? あとは……あぁ、蛍に関することもあるわね」
    「……ふぅん」
     思わず肩が跳ねた。図星みたいね、と頬杖をつきながら目の前で笑われる。いつの間に移動していたんだか。
    「僕は何も言っていない」
    「でも合っているでしょう? 彼女のことなら、そうねぇ、喧嘩でもしたのかしら」
    「してない」
     邪推しないでくれ。というかそもそも、こんなに人がいるところで話す内容でもないだろう。周囲の学生は本や議論に夢中になっていて聞いていないかもしれないが、ふらっと訪れた一般人やらに聞かれても困る。彼女との関係を隠しているわけではないとはいえ。
    「それなら、あなたが彼女のことを愛してるっていう話かしら? でも、あれは私のひとり言だと思って聞き流してくれてもよかったのよ?」
    「それなら僕に聞こえるように言わないでくれ」
    「伝わらなければ、それこそ本当にただのひとり言になってしまうわ」
    「ひとり言じゃなかったのか」
     ひとり言だと思って聞き流してくれてもよかった、とはどういう意味だったんだ。聞いてほしいならすれ違いざまにぼそっと言うのを止めてくれ。面と向かって会話をすればきちんと聞くじゃないか。
     視線を滑らせていただけの書籍を閉じ、はぁ、とため息をついて立ち上がる。あら、と驚いたような声。これ以上ここで会話する気にはならない。会話を続けるなら場所を移せ、と言おうとしたのを察したのか、床につかない足をぶらぶらと遊ばせるのを止めて椅子から降りた。とてとてと後をついてくる。
    「いつの間にか素直になったのね?」
    「素直という言葉の意味を辞書で調べて出直してくれ」

    ○ ○ ○

    「ふぅん。じゃあ、結局答えはわかったの?」
    「逸らされて終わったさ」
    「ナヒーダらしいなぁ……まぁ、ナヒーダは人じゃなくて神様だから、答えを教えてもらったところでそれが放浪者にとって納得がいくものとは限らないけど」
    「君まで回りくどい言い方をするようになったのか」
     そんなに回りくどい言い方したっけ、と首を傾げていると、大きなため息と共にベッドが沈んだ。がこん、とスプリングの音。端の方に追いやられていた毛布が落ちていく。
    「さっきの私の言葉が回りくどいんだったら、放浪者はいつももっと面倒な話し方するよね」
    「君の頭が足りないだけだろ」
     はぁ、と大きなため息。言い返したい言葉はいくつもあったが、面倒なことになりそうなので口をつぐんだ。はいはい、と適当な返事をして、二人で乗るには小さいシングルベッドの端で仰向けになる。
    「……感情って、自分である程度制御はできるけど、どういう感じなのかって聞かれても答えにくいものでしょ」
    「は?」
    「愛とか恋とかも同じなんじゃないかな。ナヒーダが話を逸らして終わったのも、概念として説明はできるけど、実際にどんなものかって聞かれたらわからなかったのかも、って思って」
     まぁ、推測だけどね、なんて。曖昧にはぐらかして。
     それが気に食わなかったらしく、また不機嫌な顔になったのだけど。
    「じゃあもし、僕が君を殺したとしても、それが愛だからだって言えば許せるのかい?」
    「死んじゃったら許すも何もないよ」
    「じゃあ、殺さない程度に傷つけたとしたら?」
    「時と場合によるかな」
     わからないよ。だって、そんなことされたことないし……うん、この人がまだ『スカラマシュ』だった頃のことを考えなければ、だけど。
     まだ不機嫌そうにしているのは見ないふりをして、頭まで毛布を被ってしまった。こういうときはさっさと寝てしまうに限る。変に相手をすると長引くし、面倒だし。
    「はぐらかすなよ」
    「はぐらかしてないよ」
    「そういうところが嫌いなんだ」
    「全部好きなくせに」
     ──なぁんちゃって。
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