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    うちのこ達が話してるだけ エオルゼア歴1ヶ月とかそこらへんの記録

    キース家にて 挙げた手のひらは開戦の合図。
     それを視界に入れるや否や持っていた物から両手を離して、近づく人間の間合いに入り込み、下から顎を目掛けて拳を突き上げた。
    「ーーッ!!!ーーーーー!!」
     一瞬の隙さえ与えない。怯んだ表情を横目に、続け様に急所へもう一発お見舞いしてやる。
     何かを叫んでいるが、そんなモンは知ったことか。このタイミングを好機と取った相手の判断が悪い。労働が退屈で暴れたかったこの衝動を、発散させてくれた感謝を込めてもう一発。構えたところで、背後からの衝撃で瞬く間に身体が地面に叩き付けられた。
    「何をやっとるかーーーッ!」
     甲高い声ながらも怒号が含まれたそれはかろうじて聞き取れた。このイエの家主であり俺を救出した人間、キースのものである。
    「って、ーーーブ!?ゴォンーーッデーそ!」
    「ーー、……ーーーー」
     聞き取れない言葉の叫び声と瀕死の人間の声がした。それを尻目に埋められた土から身体を起こすと、背中に鋭い痛みが走った。幾度か身を持って体感しているから分かる。アイツの斧に斬られた感覚である。
     つい先ほどまで戦士だったキースは即座に杖を構えて、戦闘を仕掛けてきた相手に対して回復の処置をし始めた。一度も相手を傷つけられずに戦闘不能になるとは何とも無様だ。
    「ーーーー、ーー……」
    「ーでーーかッ!」
     ふたりの会話が終わるや否や、ふたたび戦士に着替えたアイツが飛び掛かってくる。時間差で仕掛けてくるとは非道である。
     重い身体で転がり一回転。跳び膝蹴りはかろうじて避けた。身体を起こすとよろけたが、間合いを取ればまだ戦える。体勢を整え、相手の呼吸を乱すよう握り拳を繰り出すと、それは斧の柄で塞がれた。
     キースとの闘いは実力差が顕著な分、勝ち筋は上手く仕掛けられるかどうかに掛かっている。
     野蛮な家主は気持ちが昂ると大技を繰り広げる傾向にあり、大技のうちのひとつである原初の解放を上手く引き出せればーー確かに強いが斧をぶん回していて隙だらけなのでーーこちらのもの。ジリジリと睨み合い、相手の怒りを逆撫でするように舐めた態度で催促。隙を狙って懐に潜り込んできた女の頭を力ずくで掴んだ。
    「ってェ……!」
    「そんな甘っちょろい挑発に乗るとでも思った?」
     ーーが、握力で捻り潰す前に脛を蹴られて再び地に帰還。そう言えばロウブロウとかいう技もあった。全身に麻痺のような痺れた感覚がじわじわと広がっていく。身動きを取れなくする卑怯な手だ。
    「…あ、でも原初の解放も気に入ってたよね?今お見舞いしてやるわ」
     おまけに使い手も相当根の嫌な奴だった。ついこの間覚えたシタイゲリ、という言葉がこの状況なのだとすぐに理解できた。

     目が覚めるとそこは薄暗い寝床だった。暗闇の中で無造作に転がったランプが辺りを照らし、傍らに佇む人間の影が視界に広がっている。見慣れた光景。
     戦闘服を脱いでセーターと呼ばれる服を身をまとっている丸い背中は、オフモードというものらしい。その意味を問うと、シゼンタイというよく分からない言葉でまた説明されたのが記憶に新しい。
     ぼやけた視界が明瞭になり、寝返りを打つと全身のあちこちに擦傷の鈍い痛みが広がった。口端から情けない声が漏れる。それに反応したかのように、隣の女はホンを閉じてこちらに振り返ったようだった。
    「目が覚めた?アンタよくその状態でグースカ寝てたわね」
    「オメェがやっといてその言い様かよ……」
     キースと殴り合いしたのは今朝の話。普段光が射して眩しいこの部屋も闇に溶けているから、今はもう日が沈んだのだと見て取れた。全身が悲鳴を上げるぐらい傷付けた本人が何を今更。
    「ちょっと灸を据えるつもりが本気出しちゃったのは申し訳なかったけど、あれは全面的にアンタが悪いから反省して」
    「ハッ、喧嘩吹っかけてきておいて殴ったら何でこっちが悪者になるんだよ。仕掛けてきたアイツのジコセキニンってやつだろ?」
     耳ダコになった言葉は覚えやすい。キースによく言われる言葉のひとつだが、何で俺にぴったりなのかは未だによく分からない。
    「っはぁ〜〜……………」
     そして神妙な面持ちで溜息を吐く意図も不明。両手で頭を押さえているが、これは何かのポーズだった気がする。内容は忘れたが。
    「アンタ……今日渡した本は見た?」
    「アァ?今まで寝てて見れるわけねェだろ」
    「……。あれは挨拶よ。手を挙げるのは『おはよう』とか『調子どう?』とか友好的なポーズで、決して決闘の申込なんかじゃないのよッ!」
     今朝の出来事を脳裏に浮かべるが、そういや相手の動作しか見えていなかった。表情は分からないが普段から殺気立っている印象である。その旨を説いたが住んでいる国が違うと一蹴された。
    「とはいえ、俺の生まれでは殴り合いが挨拶だ。それで相手の実力も地位も普段の行いも見えてくる。手を挙げた奴に殴りかかっても悪かねェだろ」
    「だから文化が違うんだってば。ここではそんな殺伐としてないし、大体PvPじゃないんだから住宅地で使用人に殴り掛かる馬鹿が一体どこに…」
    「ピーブイ…?」
     聴き慣れない単語を復唱。するとキースは顔を青くして慌てた様子で話題を変えた。
    「…まぁ、生まれはどうあれ現在他の国のマナーに合わせないと信頼関係は築けないわよ。今まで言語の文化をろくに持たなかった人間にいきなりエオルゼア共通語を話せとは言わないから、まずは会話の入口である挨拶のポーズから覚えていこう?」
     そう言うや否や、コイツは寝床の側で先ほどまで読んでいたらしいホンを目の前に広げた。よく見るとその表紙には見覚えがあった。今朝床に落としたものと同じものだ。
     パラパラとページを送った先には複数の手のひらのようなものが描かれていた。
    「…さっきも教えたけど、これは挨拶。手のひらを相手に見せるように立てたら『こんにちは』、これは最初に声を掛ける時によく使う」
    「さっき言ってた『オハヨウ』と何が違うんだ」
    「どれも同じだけど、声を掛ける時間帯によって変わるの。朝と昼と夜の三種類。夜は『こんばんは』だけど、覚えるのが面倒くさかったらそういうものと認識したらいい」
     次のページを捲るとまた手のひらが描かれているけれど、今度は角度が違った。これはアゲルもしくはチョウダイ。逆さまにして曲げるとオイデ、もしくはオチツイテ。同じポーズでも使い方によって意味は変わり、同じポーズでも事情は色々あるのだと説明を聞き流した。使用頻度はあまり高くなさそうだった。
    「で、手のひらを縦にして相手に向けると……」
    「…と?」
     キースを真似て立てた右手に彼女のものが重なる。
    「こうすることで『よろしく』」
    「ンで、意味は?」
    「んー……そう聞かれると難しいんだけど、貴方と友好関係を築きたいですとか、貴方と今後も仲良くしたいです、とか?」
     尋ねてみたがこれも使用頻度は高くなさそうだ。習う意味をあまり見出せないが、この女の言い出したことは最後まで聞かないと終わらない。さっさと終えようと続きのページを催促すると、キースは見透かしたように嘆息した。
    「悪いけどアンタが思っている以上にこの世界は広いのよ。いくら世界中を飛び回っていようと私が教えられるのは地理と簡単な歴史ぐらい。それ以上のことは先住民の方がよっぽど詳しい。アンタがこれからどんな人生を歩むかは知らないけど、世界を知ることは豊かな未来にも繋がるのよ」
    「フン…」
    「貴方とお話したいです、貴方に教わりたいです。これは何にでも応用が効く。こうされて嫌な人間はいないからね」
     これでもかと念押し。仕方がないから先ほど習ったばかりの手の甲を上にして上下させるオチツイテをやると、彼女の表情が一変した後に話が次の話題に切り替わった。

     結局キースのポーズ教室は朝方まで続いた。
     丸一日寝ていたとはいえ、疲労困憊の身体には朝日が染みる。もう一眠りしようかと寝床に背中を預けると、退出し掛けた彼女が慌ててヨロシクは必ず右手でやること、左手はタブーだからとか何とか叫び始めた。
     きっとこのままだと夢の中でも叱咤されながらポーズの練習をさせられるのだろう。束の間の休息さえも取らせてくれないのか、と余計なことを忘れるために耳を塞いで布団に潜り込んだ。
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