⚠︎注意
・恋仲前提のタル魈。好感度10オーバー
・捏造てんこ盛り
・往生堂の内装はわからない
「公子ー!!大変だ!!!」
北国銀行、璃月支店。表向きはスネージナヤのメガバンクの支店だが、実態はファデュイの拠点であるこの場所へ、大騒ぎしながら飛び込んできた人影が二つ。
その声に、部下と話し込んでいたタルタリヤは肩越しに振り返り、片手を上げて爽やかに微笑んた。
「やぁ、相棒におチビちゃん。今日も元気いっぱいだね。元気が有り余ってるなら、ひとつ手合わせでもどう?」
「ばかばか!!今は冗談言ってる場合じゃないんだ!」
「別に冗談ではないんだけどなぁ」
手足を大きくバタつかせながら全身で憤りを顕わにするパイモンと、隣で顔面蒼白で同意するように頷く蛍。
二人のただならぬ様子に首を傾げながら、部下へと打ち合わせの終わりを手短に告げると、タルタリヤは二人を連れ、銀行の外へと誘う。
あんなに慌ててやってきた二人がすぐに本題に入らないということは、恐らくそういうことだ。
「君たち、そんなに騒いでどうしたの」
「魈が…!魈が大変なんだ!!とにかく今すぐ一緒に来てくれ!」
「…!」
言うが早いか、駆け出していく二人。
タルタリヤはその言葉にさっと顔色を変えると、自らも後を追って駆け出したのだった。
三人の行き付いた先は、璃月港の一角にある葬儀屋、往生堂。
無遠慮に入口を開け、中へと飛び込んで行く蛍とパイモンを追って、タルタリヤも後に続く。
途中擦れ違った見知った従業員が驚いた顔をしていたが、今日ばかりは行儀よく挨拶などしていられない。今度、非礼を詫びに菓子折りでも持って謝りにくるか、などと考えながら長い廊下を小走りに駆け抜け辿り着いたのは、案の定あの男の書斎だった。
「鍾離!公子連れてきたぞ!」
「ああ、助かった。旅人、パイモン」
窓の外を静かに眺めていた鍾離が、ゆるりと振り返り二人を労う。
タルタリヤはその間、辺りを忙しなく見回すも、目当ての人物の姿はそこにはなかった。
何が何やらわからないまま、僅かに上がった息を整えるべく大きく深呼吸を繰り返しながらタルタリヤが問う。
「先生、魈は…?一体何が…」
「忙しいところすまない、公子殿」
焦り、狼狽えていた旅人やパイモンとは逆に、いつも通りの淡々とした様子でのんびりと挨拶をする鍾離の様子に、タルタリヤは焦れた様子で「そんなのいいから早く」と先を促す。
一刻も早く現状を把握したかった。彼に何かあったのであれば、尚更。
鍾離はああ、そうだなと一呼吸置いた後、やはり急ぐでも慌てるでもなく、淡々とした様子で事の経緯を語り始めた。
「先刻、未開拓の秘境を見つけたと旅人から連絡を受け、彼と共に探索に出向いたのだが…そこで少々厄介な事になってな」
「厄介な事…?」
かつて璃月では謎の奇病が流行ったことがあった、と鍾離は語り始めた。
つい昨日まで元気だった人間が、突如全身の筋肉が弛緩して死に至るという謎の病。
長らく原因が掴めず、人々は怯えながら暮らすしかなかったのだとか。
原因が魔人の怨嗟で突然変異した蜘蛛の毒によるものであると判明したころには、璃月の人口は三分の二ほどまで減ってしまっていたそうだ。
「その時の毒蜘蛛が、その秘境の中でまだ生きていた。あの時、一掃したと思っていたのだが…」
苦々しげに呟く鍾離の話を横で聞いていたパイモンが、とうとう待ちきれずに口を開く。
「その秘境を探索してる最中、オイラがその毒蜘蛛に襲われて…。庇ってくれた魈が代わりに噛まれたんだ…!」
服の胸元をぎゅっと握り、今にも泣きそうな顔で半分叫ぶように言葉を発するパイモンの背中を、蛍が慰めるように擦っている。
そんな様子を見ながら、ああなるほど、彼らしいなとようやく冷えてきた頭で納得したタルタリヤは、再び鍾離を見、静かに尋ねた。
「それで、今は」
「昏睡状態から目を覚まさない」
一先ずまだ生きているらしい事に若干安堵するも、様子が分からない以上、まだ安心は出来なかった。
「目を覚まさせる方法はあるの」
「ある。その為に公子殿には急ぎ来てもらった」
「俺…?」
医学の心得がある訳でもない自分が何か出来る事があるのだろうか。タルタリヤが疑問に思っていると、分っていると言わんばかりに頷きを返してくる鍾離。
「彼の受けた毒は、傷口から体内へ入り、凡人であれば血液の循環と共に全身の筋肉を弱らせ、やがて死に至らしめるものだ。だが、仙人の身体というのは、こと異物の侵入に対して、仙力による自己治癒力と自浄作用が強く働くようにできている。そうすることで肉体を劣化から守り、寿命を格段に伸ばす事が可能になる」
「わかるような…わからないような…」
どうすれば魈が助かるのかと、タルタリヤの横で前のめりに話を聞いていたパイモンが、眉を顰めながら首を傾げる。
「少し難しかったか。有体に言えば、仙人は生命力が強くて体が丈夫、ということだ。心臓を一突きされたり、首が飛んだりすればまた別だが、毒の類で死ぬことはほぼない」
「そ、そうなのか…!?」
「このまま放っておいても彼は自らの自浄作用で毒を無効化し、いずれ目を覚ますだろう。だが、いつになるかわからない上、万が一がないとも限らない。加えて、今回は解毒の方法も確立されているため、であれば早急に対処をした方がいいと俺が判断したんだ」
なるほど。それでこの男は焦る訳でもなく淡々としていたのかとようやく合点がいく。
「それで?呼ばれた俺には何が手伝えるの?水元素が必要、とか?」
寧ろそれ以外に何かあるだろうか。今度はタルタリヤが首を傾げる番だった。
資金援助と戦闘においてはどんな人間より役に立ってみせる自信があるが、今はそういった類のものが必要な訳ではないだろう。
しかし、続く言葉はそんな自らの想像を超えたのもだった。
「公子殿は、彼と恋仲だっただろう」
「へ?…え…えぇ、…と……?」
突然何を言い出すんだこの男は。
というか、どこから知れた?少なくともタルタリヤ自身はどこへも何も言っていない。
そう、相棒と呼び慕う目の前の友人達にすら、何も告げていないのだ。
当然、目を零さんばかりに見開いた蛍とパイモンが、タルタリヤの顔を見ながらあんぐりと口を開けている。
うん、そうだね。そうなるよね。
「え…お前たち…そうだったのか…」
「いや、まぁ……。…ていうか、そういうの勝手にバラすのよくないよ、先生」
極度の動揺の末、行き場を失った腹立たしさを涼し気な顔で佇む長身へとぶつければ、ああ、そうかと納得げに頷かれる。
「以後、留意しよう」
「安心しろ、公子。オイラ達誰にも言わないぞ!」
「いや、俺というか…。まぁでもうん、ありがとね…」
今までありとあらゆる出来事に遭遇してきた二人は、思った以上に順応が早かった。パイモンの言葉に力強く頷く蛍。感心する程の精神強度である。
「まぁ今はとりあえずいいや…。で、先生。具体的に何すればいいの」
タルタリヤは諦めたように溜息を一つ零すと、続けて鍾離へと尋ねた。そう、今はそれどころではない。
しかし、更に続く言葉は再びタルタリヤの想像の斜め上を超えていく。
「ああ。公子殿には、彼と交合し吐精を促して貰いたい」
「………はい?」
とんでもない単語が耳に飛び込んできた気がする。
険しい表情でこめかみを押さえるタルタリヤを尻目に、鍾離は相も変わらず淡々と言葉を紡いでいく。
「仙人の体内に入った異物は、分泌物や老廃物となって体外へ排出されるようにできている。方法は何でもいいのだが、血流の流れを良くし、精液と共に排出させるのが浄化効果も高く、早くて確実だ。故に、性行為が最も有効な手段となる」
「ヒェ……」
いたいけな少女達が引いている。当然である。
どうするべきかとタルタリヤが答えあぐねていると、またも耳を疑う言葉が聞こえてきた。
「公子殿の気が進まないのであれば、俺がやってもいいが」
「いい訳ないだろ!」
思わず声を荒げてから、あーもう、と諦め半分に頭を掻く。
「わかった。やるよ、俺がやる。魈はどこ」
「俺が作った即席の洞天に」
言いながら、鍾離は掌に岩でできた小さな邸宅を出現させると、ここに、と示してみせた。
中へと吸い込まれていく感覚に身を委ねながら横目でちらりと少女達を見れば、二人は今まで見たこともない神妙な表情を浮かべていたのだった。