異世界から真木晶という新しい賢者が召喚された年の、年に一度の厄災の日。月が一番ひとの世界に近づく夜。魔法使いたちは、それぞれ手傷を負いはしたものの、一人の死者も出すことなく、月を迎撃することに成功した。
めでたしめでたし。
とはいかないのが、ネロとブラッドリーであった。
二人とも深刻な怪我はなかったが、疲れ切り、ほうほうのていで魔法者の前庭の地べたに座り込んでいる。折れた箒はそこらへんにほうっている。ついさっきまでネロの腕の中で庇われていたリケは、ミチルの呼ぶ声に応えて駆け出した。遠くでファウストがこどもたちを叱っている声がするが、それにも安堵の色が濃い。ネロの隣にはブラッドリーがあぐらをかいていた。胸ポケットから葉巻を取り出して魔法で火をつける。ネロにも差し出してくれる。ネロが素直に受け取って口にくわえると、ブラッドリーが火をつける。ゆっくりと遠ざかる月を見送りながら、ネロは煙を吐き出して、出し抜けに、
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