お前は自由になっていい「……なに、そう言ったの? あんたが、オスカーに?」
貸切状態の静かなバーにフェイスの声が響く。驚きと、僅かな軽蔑の込められた言葉は、常には感じない鋭さがあった。
「ああ」
そう返しながら、ブラッドは寸でのところで溜め息を飲み込む。己への呆れと情けなさを認めるためだ。他人の言動に良くも悪くも興味がなく寛容なフェイスにまでそのような反応をされるのだから、己の発言が如何に愚かだったのか推して知るべきというところだろう。問題は、表面上ではわかっていながら、一体どこが悪かったのかわからないことである。
「サイテーじゃん」
フェイスは呆れたという様子を隠さず、手元のジプシーを一気に呷った。空いたグラスをカウンターに戻し、マスターへギムレットを二人分追加するのは、カクテルに詳しくなくても伝わるであろう皮肉のためだ。
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