ノウノウ
知らなければ良かったと、思うことがある。
手汗ですべりかけた拳銃を、しっかりと握り直す。同じように銃を突きつけてくる、目の前の女を睨みつけた。世界で一番、愛していたのに。願うように呟く。
「……おまえに俺は、殺せない」
躊躇なく、彼女は引き金を引いた。弾は俺の髪を掠め、後ろの壁に穴を開けた。言葉より雄弁な否定に、唇を噛み締める。
「もう一回言ってみれば?」
冷たく微笑んだ妻は、銃を握り、俺の脳に照準を合わせた。
***
冒頭より、15時間前。
「ハニー、起きろって」
カインはいつものように、なかなか起きようとしないオーエンを揺さぶっていた。
「ハニー!」
「ぅあ……」
「よだれ垂れてるぞ!起きろ!」
「たれてな……ねむ」
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