出られない部屋 【口移しで一個の飴を溶かし終わるまで出られない部屋】
継ぎ目の無い白壁が四方を囲む6畳ほどの部屋。真ん中に色とりどりの飴玉が入ったガラスのキャンディポットとそれを挟んで座るへし切長谷部と大倶利伽羅。白壁に浮かび上がる文字は目を擦ってみても三度四度瞬きしても消えない。壁を睨みつけたまま長い沈黙が響く。
顕現したのが遅くまだ特もついていない長谷部は高練度の大倶利伽羅と同じ部隊になることがない。だから大倶利伽羅が長谷部の教育係である燭台切と一緒にいる時にたまに言葉を交わすだけの関係だ。長谷部は無愛想だが適度な距離で優しくて凛々しいこの刀に憧れていた。たまに目が合う、一言二言話す、それだけでよかったのにこんな部屋に放り込まれるなんて。
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