天命 来るもの拒まず去るもの逃さず。人々の理想をこね合わせて焼き固められた仙界は魔皇にして邪帝、賢者にして強者であるマオタイによって治められていた。
皇は慈悲深い。「現世に疲れた。楽しい生を謳歌したい」「死ぬのが怖い。死にたくない」などの民草による数えきれない願いを知っては何も言わずに実現した。
皇は冷徹だ。だが何事であれ甘い汁だけを啜ることはできないのだ。永遠の生を得た、と故郷へ戻った人々は仙界に吸われ尽くした故郷の荒廃に気がつくと目の色を変えて懇願した。
「こんなはずではなかったのです! 私どもが生き延びようと、故郷の山は生きていけない」
魔皇の御前、煌びやかな石畳に男は、何度も繰り返し頭を擦り付けては塩辛い水たまりを作っていた。所々に赤い刺繍の入った着物には見覚えがある。大方城門の傍で薄汚い露天商が売っていたものだろう。自然と眉間に力が篭る。下民め、誰が掃除すると思っているのか。
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