【注意】
俺モブの倫理観がおかしいです。
ブラネロ匂わせですが、特にエロはないです
※※※
署長とネロさんの観察日記
【☓☓月 ☓☓日 15:30】
離れた席で何人かは事務作業をしているが、同僚たちはほとんど出払っていて署内に人影はまばらだ。
こういう時はこそこそ隠すよりむしろ、堂々としていた方が気にされない。案外バレないのだ。
でも念のため、周囲に人がいないことをしっかり確認してノートを開いた。ここ数日は特に目立った動きもない。朝イチの通報で出動したきり、署長もネロさんもまだ戻ってきていない。今日は特に記入することはなさそうだ。ぺらぺらとページをめくる。
子供の頃からデータ収集が趣味で、近頃は趣味と実益を兼ねて、日常生活でも気になったことはデータを取るようになった。
最近、特に気になっているのは、署長とここの実質ナンバー2であるネロさんの関係だ。
そう。最近気がついたことがあるのだが、署長がいるところにはネロさんがいるし、ネロさんがいるところには署長がいる。確かに、署長室に行ったらネロさんがいたり、ロッカールームから署長とネロさんが一緒に出てきたり。
一度そのことに気がついてしまうと、すごく気になってきた。署長がネロさんと四六時中一緒にいるものだから、実は二人は同棲していて付き合っているんじゃないか、なんて噂を聞いてしまったせいもある。
実際のところどうなのだろうか。だがしかし、本人たちに同棲してるんですか、なんて聞けるわけもなかった。
そもそも、他人の生活を記録するなんて決して推奨される行為ではない。けれど気になる。気になりすぎて夜も眠れない。このままでは生活に支障が出てしまうし、誰にも見せないから、なんて言い訳を自分にしながら日記をつけるようになったのだ。
ネロさんは皆から一目置かれているけれど、本人は偉そうにするでもなく、それどころか入ったばかりで半人前の俺のことを何かと気にかけてくれているのだ。俺だけじゃない、他の署員のことも本当によく見ている。寝不足な奴を見つけたら仮眠室に連れていくし、ご飯が食べれていない奴には差し入れを渡したり。
コーヒーばかり飲んでいる俺に「あんたはブラック好きだと思うけど、飲み過ぎは体に良くないと思うぜ」そう言ってココアを入れてくれたことがあった。今まで俺の体の心配する奴なんて誰もいなかったし、ましてやココアまで入れてくれるなんて。
ネロさんの少し困ったような笑顔に男の俺でもドキドキしてしまった。俺が女だったら絶対惚れてる。
おっと話が逸れてしまった。
そんな訳で日記をつけるようになったのだが、いくら厳重にパスワードを管理していても、オンラインではいつどうなるかわからない。万が一にもデータ流出なんてことになったら、想像するだけで胃が痛くなった。
物理的な日記帳──アナログの鍵が閉めれるタイプのものだ──を持っているやつは他にいない。万が一、盗難されたり紛失したりしても鍵がなければ中身は見られないし、無理やりこじ開けようとしたら仕込んであるインクで中身は真っ黒に汚れるようにしている。そこまでしなくても……と思われそうだが、これが現時点での最適解なのだ。
「いや〜アナログ管理しておけば心配ないもんな〜俺って天才」
「誰が天才だって?」
「それは、お……って署長⁉」
肩にずしりと重みがのってきて、慌てて背筋を伸ばす。にやりと笑ってこちらを覗き込んでくる署長の登場に、背中はじっとり湿っていた。いつの間に戻ってきたんだろうか。
「あ? なんだそれ。アナログの……日記か?」
「え、いやあの、えっと」
まずい。手に持っている日記帳を見られてしまった。まさか署長とネロさんの観察日記をつけているんです、なんて言えるわけがない。
日記を隠すように両腕でぎゅっと抱きしめる。中身を見られたら終わりだ、俺の人生が終わる。
今ここで署長に見せろと言われたら断りきれる自信はない。どうしよう。ネロさん助けて。
「ボス、そのへんにしといてやれば」
「ネロさん!」
署長の背後から姿を現したのはまさに今助けを求めたネロ・ターナーその人だった。
これ以上詮索されてはボロが出そうだったので、というか絶対に出てしまうから、ネロさんが止めてくれたことにほっと胸をなでおろした。ボスに意見できる奴なんて、このフォルモーントシティポリスにはネロさん以外に存在しないだろう。
「新人いじめはやめたらどうですか」
「いじめてねえって。親交を深めてんじゃねえか、なあ?」
「うぐっ、はい! ありがとうございます!」
「はぁ……あんたも、ありがとうって言うところじゃねえって……」
署長にばしばし背中を叩かれて、むせそうになりながら慌てて大声で返事をした。呆れるネロさんとは反対に、満足そうに笑った署長がネロさんの肩に腕を回して耳元に顔を寄せた。
いくら同性といえど、署長のこの格好良い顔で迫られたらドキッとするだろう。ネロさんはもう慣れっこなのか平然としているけれど、見ているこちらの方が緊張してしまう。
「そういや、例のあれだけどよ。てめえどう思う?」
「あー、あれ………まぁ……悪くはなさそうですが、俺はちょっと……」
「バカ、ああいうのがいいんだろ。適材適所って言ってな────」
二人で会話をしながら歩いて行くその背中を見送る。角を曲がって姿が見えなくなったところでようやく緊張がとけた。
「はぁ……助かった……」
【☓☓月 ☓☓日 12:35】
今日は二人の機嫌が悪い日だ。二人ともだ。
どちらか一人の機嫌が悪い日、主に署長だが──はあるものの今日はネロさんまで不機嫌オーラがすごい。声をかけれそうな雰囲気じゃない。なのに、なぜかこんな時に限って昼の休憩時間が重なってしまった。二人きりだ。誰か来ても良さそうなのに足音ひとつしない。
黙々と弁当を食べていたら、真剣な顔をしたネロさんにじっと見つめられた。俺の方から何か話しかけた方が良いのかな……と悩んでいたら、ネロさんから話しかけられた。
「なあ、あんたどう思う」
「えっと、何がですか……?」
ネロさんの真剣な表情に、弁当を食べていた手が止まる。背筋を伸ばした。
ネロさんの話はこうだ。
栄養バランスを考えて一生懸命作った料理を食べて貰えなかった。どうにかして野菜を食べて貰えるように工夫しているけれど、なかなか食べてくれない。
「生野菜だって食わねえと。肉ばっかじゃ体によくねえのに、なんのために俺が真剣に考えて……俺の話なんか聞きやしねぇ」
ぶつぶつと文句を言うネロさんにそうなんですね大変ですね、と相槌を打ちながら、俺の脳裏にはある人物の姿がちらちらと浮かんでいた。
相手が誰かネロさんは言わなかったし、俺も聞かなかったけれど、きっと同じ人物を思い浮かべているだろう。
そんなこんなで昼休みを終えて、俺は午後はデスクワークだ。ネロさんは外回りらしい。
何事もなく時間は過ぎていく。そろそろ片付けて帰る用意をするか、と思ったところで大事なことを思い出した。今日が提出期限の書類があったのだ。しかも署長に直接手渡さなければならないものが。
「やべ、忘れてた!」
急いで書類を作成して署長室に持っていく。本来の退勤時刻を大幅に過ぎてしまったが、まだ日付が変わってないし、セーフだということにしてくれないだろうか。
恐る恐る扉をノックして中に入る。不機嫌な顔をしながらも署長はいつも通りバリバリ仕事をこなしていた。こんな時間に持ってきて怒られないだろうかとビクビクしていたが、不備もなく無事に受け取って貰えた。なんとか今日中に帰れそうだ。
「では、お先に失礼します」
「……なあ」
「はいっなんでしょうか!」
ほっと息を吐いていると、不意に署長に呼び止められて体が固まった。じとりと睨むように見つめられて、充電の切れたアシストロイドみたいに動けなくなる。
やっぱり書類作り直せ、とか言わないよな……なんて思いながら署長の言葉を待っていると、不意に出てきた名前に困惑してしまう。
「おまえ、昼間にネロと話してたよな」
「あ、はい」
「…………あいつ、怒ってたか?」
「………ネロさんが、ですか?」
なんで今、ネロさんのことを聞かれるのだろうか。首を傾げながらも昼間のネロさんの様子を思い出す。
「そうですね……結構、怒ってましたけど、どっちかっていうと、悲しいって感じで……」
「……………ふーん。そうか、わかった」
「えっと、じゃあ、俺はこれで、失礼します」
なにやら嬉しそうな様子の署長を尻目にそそくさと部屋を後にする。
やっぱりさっきの話は署長のことだったんだ。野菜が嫌いとか、署長もこどもっぽくて可愛いとこあるなぁなんて、本人には絶対に言えないけど。
【☓☓月 ☓☓日 23:20】
(やべえ、まじか……………)
大変なものを目撃してしまった。いや、直接見た訳ではないのだが。全身が心臓になったかと思うほど、ばくばくと大きな音を立てている。あそこで物音を立てなかった自分を褒め称えたい。
仮眠室で仮眠を取ろうと思ったら先客がいた。
それ自体はまぁ、時々あることなのだ。諦めて自分のデスクで寝るかと肩を落としたところで、足が止まる。
(……まさか、この声)
どうにも壁が薄い仮眠室は、中で喋っていれば外に音が漏れ聞こえてくる。仮眠室で音楽を聞きながら寝ている奴もいるくらいだし、中から声がしても誰かいるな、くらいで余計な詮索はしない連中ばかりだ。
だから最初は特に気にもとめなかったけれど、中から聞こえてきた声に思わず息を止めた。
聞き覚えのあるそれは、やはり署長とネロさんのものだった。
『んだよ……………ろ?』
『………だし。仮眠室なん……大人し………寝ろって。疲れ………ろ……ッド』
(二人きりの時は敬語じゃないんだ……!)
止めた方がいいとわかっているのだが、好奇心に負けて扉に耳をくっつけた。万が一にも盗み聞きしていた、なんてバレたら大変なことになる。これなら中の会話がはっきり聞こえるだろう。
『っせえな……だから、てめえが体調管理してくれるんだろ?』
『そりゃ、言ったけど……でもここじゃ』
『問題あるのか?』
『あるだろ! 他の奴らもここ使うし、こんなとこ、見られたら、っ、ん……ぅ……』
『だったら、誰かが来ないうちにさっさとしろよ』
『ったく……この、わがまま……』
会話はそこで途切れてしまった。微かに衣擦れの音がして、これはもしや、と思ったところで後ろから肩を叩かれた。悲鳴を上げなかった自分は本当にすごいと思う。
「何やってんだ?」
「カ、カイン……」
「仮眠室? 誰か使ってるのか?」
「あーうん、そうみたいだから、静かにしよ……ね?」
しぃ、と声を抑えるジェスチャーをして、カインの腕を引っ張って廊下を歩き出した。
外回りに出るというカインと別れて、署内の別の階に向かった。周囲に人がいないことを確認してトイレの個室に入ると、そっと日記帳を開く。
(やっぱりあれ、そうだったんだ! 絶対、この日からだよな……)
ページをめくる指先がわずかに震えている。
すごい発見をしてしまった。
先週、珍しく二人そろってオフの日があった。どちらかはオフィスに出勤していることが多かったし、休日でも呼び出されることなんてしょっちゅうだったから、完全オフなんて珍しいななんて思ったことを覚えている。
その次の日、出勤してきたネロさんが、なんと署長のおでこを触ったのだ。しかも流れる水の如く当然のような仕草で、署長の額にネロさんが自分の額をくっつけた。
大昔の文献でしか見たことのないような熱の計り方だ。アシストロイドじゃあるまいし、本当にそんな方法で熱なんてわかるのだろうか、と思ったからよく覚えている。
今までは署長がネロさんの肩を触ったり頭を撫でたりは日常茶飯事だったが、ネロさんから署長への接触はほぼないに等しかったのに。それが、この日から目に見えて増えたのだ。オフィスでネロさんに構われている署長は、いつもより雰囲気が柔らかくなっている、ような気がした。
「んー、今日は普通だ……ですね」
「いつも普通だっつうの」
一瞬驚いた顔をした署長は、すぐに普段の表情に戻った。見間違いだったのかと思ってしまいそうになるくらい、ほんの僅かな時間だった。
けれど今までとは確実に違う。距離が近くなったというか。もっとあからさまに言ってしまえば──まあ俺の偏見かもしれないけれど──セックスした後の恋人同士のように肉体的な触れ合いに遠慮がなくなった、というか、とにかくそんな感じだった。
その日の日記は、自分でもよくわからないくらい興奮しながら書いた。忘れられない出来事のひとつだ。
そんなことがあって、さらにもっと詳細な分析が必要だと思っていた矢先に仮眠室事件である。
たぶん、他の奴らは気づいていない。直接見てはいないから確実にそうだと決まったわけではない。が、これはかなり濃厚なクロとみて良いだろう。
「署長とネロさんは付き合ってる……!」
それを裏付ける決定的な事件が起こったのは、それからさらに数週間後だった。
【☓☓月 ☓☓日 09:50】
我がフォルモーントシティポリスでは市民の安全を第一に、何よりも迅速な対応をモットーにしている。そのため、緊急通報システムを利用した通信は署内の全職員に共有されるのだが、この時はまさかそんなことになるとは誰も思いもしなかった──署長のパンツ事情が暴露されることになるだなんて。
最初にその通信を受けたのはネロさんだ。
「はい。こちらフォルモーントシティポリスで」
『ッ、ハァハァ……』
まさに今、犯罪に巻き込まれている最中なのだろうか。相手の荒い息からも緊張感が伝わってきた。もしかしたら命が危険な状況かもしれない。すぐに出動できるように足を踏み出そうとしたところで、相手の言葉に全員の動きが固まった。
『お、お兄さん……今……何色のパンツ……履いてるの……?』
あっ、これ変態野郎の迷惑電話だ!
全員一致でそう思ったに違いない。
たまにいるんだよな、こういう奴。暇なのか知らないけれど、よく警察にいたずら電話する気になるよな。怖いもの知らずというか、なんというか。
相手にするだけ時間の無駄だ。
ネロさんもさっさと通信を切るだろうと思っていたら、おもむろにネロさんの手が署長のズボンを引っ張った。服の隙間からズボンの中を覗き込んでいる。
そんなことをされるとは思っていなかったのだろう、署長も呆気にとられてぽかんとした表情で固まっていた。あんな署長、初めて見た。
「──色情報解析完了。#460e44です」
『し、紫紺⁉ ハア! ハアハアハアッハアアア!』
「おい俺のやつ答えんな。しかもなんで通じてんだよ」
署長のツッコミに深く頷きそうになった。まさかネロさんがそんな変態の質問に答えるなんて思ってもみなかったし、しかもそれが署長のパンツの色だなんて。
それに、なんでコード番号で答えたんだ? その方が正確といえばそうではあるが、普通は通じないだろう。まぁ良いのか悪いのか、今回は相手の男が瞬時に理解してしまったわけだけれど。
ネロさんの答えに相手の男はさらに調子に乗ったようで、荒い息がどんどんうるさくなってきた。
『ハアハアッ! パッ、パンツ! パパパパンツのタイプは⁉ ボクサー? ブリーフ? あっジョックストラップとか⁉』
「ん? パンツのタイプ? えーと…………」
ネロさんが再び署長のパンツを拝もうとする前に、署長がネロさんの頭をつかんでインカムに顔を近づけた。
ぎょっとしたのは見ていた周りの方だ。あと数センチでキスできる距離だというのに、ネロさんは慌てるでもなく署長にされるがままじっとしている。俺から見た二人はキスする五秒前状態だ。なんだこれ。どちらかが少しでも首を傾げれば確実にキスしてしまう。何を見せられているのだろうか。別の意味で緊迫感がすごい。
「イタズラでの通報は迷惑なので二度としないように。今度やったらとっ捕まえて豚箱にブチ込んでやるからな」
『えっあっ!』
署長のドスのきいた低い声が聞こえたかと思うと、ぶつり、と通信が途切れた。署長が通信を切ったのだ。すっ、と体を離した署長がネロさんの頭を小突く。
「ネロてめえ今から部屋に来い」
「………………わかりました」
怒っている署長と、小突かれた頭を自分で撫でているネロさんが署長室に入っていって、張りつめていた緊張の糸がようやく緩んだ。
ざわついていた周囲も当事者たちが不在になったことで、ぎこちないながらもそれぞれの持ち場に戻っていった。
容量オーバーの思考回路が少し落ち着いてきて、今度は疑問でいっぱいになる。
いやいやいや、署長が部下のインカムそんな至近距離で使う?
署長にもインカムついてるのに?
別にインカム壊れたとかじゃなかったよな?
てか、そもそもネロさんもなんで正直に変態の質問に答えてんだよ。しかも署長のパンツだぞ? なんで?
考えたところで何一つ答えが出るはずもなかった。ただの上司と部下の距離感じゃない、絶対に。付き合ってる相手でもなければあんなこと無理だ。いや、付き合ってる相手でも人前ではちょっと……というか。
(………今日の署長のパンツ、紫紺色なんだ)
まさか署長のパンツが紫紺色だなんて、一生知ることがなかっただろう情報を入手してしまった。他にどんな色を持ってるんだろ。黒とか、赤も似合いそうだな……って、何考えてんだ俺は。
ん? そういえば、ネロさんはなんで自分のじゃなく署長のパンツを────と、そこでひとつの結論に思い至って、はっとした。
「……まさか、自分が履いてないから、署長の……とか………ないない! それはない! はははは……はは……」
ネロさん自身がパンツを履いていなかったから隣にいた署長のパンツを見て答えたのか、と思ったけれど、まさかネロさんがパンツを履いていないはずがない。
(妄想たくましすぎるだろ、俺)
けれど万が一、もしかしたら……そう思ったところで、ネロさん本人に直接「パンツ履いてないんですか」なんて聞くわけにもいかない。
署長室の扉をちらりと見る。当然ながら話し声は何も聞こえない。さすがにネロさんも署長にしこたま怒られているだろう。
本気で怒っているときの署長は静かに淡々とキレる。一言の反論も許されない正論でこてんぱんにされるのだ。いっそ怒鳴りつけられた方がマシなくらいだ。そのときのことを思い出しただけで股間のブツが縮こまった。
(この件に関してはまた今度、じっくり考察するとして、ひとまず客観的事実を残しておかないと……)
忘れないうちにメモをしようとしたところで、今度こそ緊急通報が入る。どうやら銀行強盗らしい。
「てめえら行くぞ!」
「はい!」
部屋から飛び出してきた署長とネロさんと共に走り出した。
エアバイクに飛び乗ろうとするネロさんの腰のあたりで、ひらりと白い布がめくれているのが視界に入って慌てて声をかけた。
「あ、ネロさん! 腰のとこ、シャツ出てます!」
「へ、あ、あぁ、わりぃ……」
シャツの裾がはみ出ていることを指摘すると、ネロさんの顔がさっと赤くなった。慌ててズボンの中に押し込んでいる。
さっきまで服装の乱れひとつなく、制服をきっちり着ていたはずなのに、なぜそんなところからシャツがはみ出ているのだろう。トイレに行ったわけでもないのに。
もしかして署長室で何かあったのだろうか。シャツの裾が出てしまうような、何か……。
「おい! ぼけっとしてんじゃねえぞ!」
「はい! 今出ます!」
あらぬ妄想をしそうになったところで、署長に一喝されて意識を切り替えた。今は目の前の事件に集中しなければ。
フォルモーントシティポリスは今日も大忙しの一日になりそうだ。