残心 暗灰色の雲が空を覆う。見上げた暗雲からは大粒の雨が降りしきる。泥濘んだ地面はけたたましく雨を跳ねさせ、被った頭巾に雨音を鈍く打ち鳴らす。
視線を戻し前を見れば、よく見知った顔と海を彷彿とさせる深い青を湛えた双眸が俺を捉えていた。
「海。……あぁ、なんだか懐かしいな」
随分前か、少し前か……この名前を親しげに呼ぶのは、久しぶりな気がして。けれど、親しみを込めて呼ぶには俺と彼は、変わってしまった。
いや、変わったのはきっと、俺だけ。
だから、対峙した俺達の間に流れる空気はひどく張り詰めていた。
「……春、本気でやるのか?」
「仕方ないでしょう? 俺と君は敵なんだから。敵同士は切り合わないと、ね?」
鞘から刀を引き抜き、鞘を投げ捨てた。しかし、海は依然として刀を引き抜くことをしない。
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