閑話「…そりゃ鉄が悪ぃだろ、高峯が本当に浮気するなんて思ったのか？」
「別に、その人と翠くんが付き合ってるって考えたわけじゃないッス」
　ただ、と歯切れが悪そうに鉄虎が呟いた。
「そういう未来があるんだなって改めて思って…普通に女の人と結婚して、子供が出来て俺はそれを見てるみたいな。俺といるよりたぶんそっちの方が翠くんも幸せなんじゃないかって思うッス」
「だからそれが…！」
「落ち着け高峯」
　翠が声を荒げそうになるのを慌てて千秋が制止する。これ以上騒ぎになるのはまずい。
　確かに鉄虎は世間の少し古いとも言っていいような常識に縛られる節があるし、翠はそういったものを苦手としている。制止しながらもそれは喧嘩になるよなと千秋は納得した。そしてようやく素直じゃない可愛い後輩の本音を垣間見えたような気がして少し嬉しかった。
「まあ高峯には悪いが南雲の言いたいこともわからないでもないぞ。自分よりも好きな人には幸せになってほしいもんなぁ」
　またこいつは…と翠と紅郎が心の中で唱えた。忘れていそうになっていたが守沢千秋とはこういう人間だった。みんなの幸せの中に自分を勘定しないような人間。どうやらこの方面で鉄虎を説得するのは難しそうだ。
「だかな南雲、高峯は他ならないお前が好きだと言ってるんだぞ。それを信頼してやらないでどうする！」
「うぐ……」