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    kino_ui

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    鍾タルワンライ・第一回目【はじめて】
    所要時間:1h+30min

    (!)注意
    ・魔神第1章3幕までのネタバレ
    ・付き合っていないが肉体関係のある2人
    ・事後
    ・先生の尻を狙うタル
    ・先生が非処女

    睦言と卑怯者(鍾タル)「俺だけがはじめてなんて、不公平じゃない?」
     つう、と一本美しく通った背骨の筋を指先でなぞる。こんな事後の、寝床の上。どんな男でも少しは気が抜けてしまう場面でも、この男の背は一本鉄骨が入っているかのようにすらりと伸びている。隙ひとつない背中。どれだけ己が爪を立てても傷ひとつ残らない背中だ。正確に言うなら、ついたとしてもすぐに治ってしまうらしい。キスマークもどれだけ強く吸いついてみても同じだった。凡人らしくないよと笑ったのは記憶に新しい。
     鍾離先生はさんざん脱ぎ散らかした服を畳んでいた手を止めて、ちらりと顔をこちらに向けた。限りなく真顔に近い。でもすこしだけ間が抜けてみえるような、理解不能って顔。悪くない。愉快な気分になってきた。なんでも知っているってすまし顔が僅かにあどけなく崩れる瞬間が俺は結構好きだった。
    「不公平?」
    「だって、俺は男に抱かれるのははじめてなんだよ。いわばバージンを失っている。でも鍾離先生は童貞ってわけじゃないだろ」
     まだ下腹の奥に違和感がくすぶっている。あれだけの剛直を受け入れていたのだから当然だが。それを無視して身体を起こした。一晩のセックスで根をあげるほど生半可な身体はしていないつもりだ。たとえそれが人並み外れた絶倫かつ遅漏、手際が最高に良い相手だったとしても。
    「それを望んだのは公子殿だろう」
    「じゃあ俺が鍾離先生に抱かせてって言ったら抱かせてくれたの?」
    「……」
     ふいと視線が逸らされて、まるで口実みたいに床に落ちた衣服を拾い上げてまた畳みはじめた。
     そういうことだよ、と肩をすくめた。どれだけ昂っていても邪眼や魔王武装を使うような事態でもない限り、必要なところで頭は回せるようにしている。思考を回すことも闘いには重要だからだ。
     はじめて鍾離先生と夜を共にした日。あの夜も馬鹿な論を振り回して迫った自覚はあったけれど、鍾離先生ならば抱かれるよりも抱くほうがすんなり受けてくれそうだということぐらいは計算していた。どうしてかと問われればなんとなくとしか説明できないから、計算と呼ぶにはあまりに杜撰だが。
    「む。……しかし俺を抱いたところで、その公子殿の言う不公平が解消されることはないぞ」
    「え?」
    「もう随分と昔のことだが、女の姿を取って町に降りていたときに経験はある」
     なるほど、その手があったか。男として知っている相手の女の姿、と言われてもいまひとつピンとこない。とはいえ、かの岩王帝君ならばどんなことがあっても今更驚かない。性転換ぐらいお手のものだろう。
     鍾離先生の背中に頬をつけるように凭れかかってみる。この皮膚の内側では血液が俺達人間と同じように巡らされているはずだ。同じように体温を上げ、汗をかき、欲情する。でもその温度は、きっとこの男が望みさえすれば容易く消え失せてしまうのだろう。心臓の鼓動を止めてみせてくれと言ったらきっと問題なくそうできてしまうに違いない。
    「それなら逆に、俺に抱かれても変わらないんじゃないかな」
    「なるほど。公平性の話は口実だったと」
    「嫌な言い方するなあ」
    「話題を逸らしたのは公子殿のほうだろう」
    「まあね。ていうかやっぱり抱かれる気はないんだ?」
    「……」
    「まあいいんだけどさ。鍾離先生とするの、気持ちいいから」
     ベッドの上の言葉の真偽に拘泥するのは無粋なことだ。凡人一年目でもそのぐらいの情緒は持ち合わせていてほしいものだけれど、果たして鍾離先生はこの言葉をどう受け取ったのだろうか。わからない。でもそのぐらいがちょうどいいと思う。
    「もしはじめてとやらに拘りたいのならひとつ、心あたりがある」
     背中を向けたままの鍾離先生がぽつりと呟いた。
    「へえ?」
    「性交でどちらの役割をするかということについて、俺個人が意思を持った相手は公子殿がはじめてだ」
    「なにそれ」
     短くそれだけ言って肩を揺らしてちょっとだけ笑ってみた。なんて返せばいいかわからなかったし、きっと鍾離先生も大した意味のある言葉を返しはしないと思ったから。
     だってこんなの、まるで愛の告白のようじゃないか。
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