今はまだ、いつかの話。「拓海さん? 起きてください。あーさーでーす、よー?」
「んん……」
仕事で疲れ切った体で、泥に沈むように寝付いた翌朝。愛しい恋人の、甘くて柔らかい声がして、ついもったいなくて枕に顔をこすりつける。
うつ伏せになってまだ起きたくない、と休日を満喫するかのようなごね方をしたけれど、恋人はわかりきっている、とでもいうように吐息で笑って、「えいっ」と体を仰向けにさせた。
「ね、拓海さん。おはよう?」
窓から差し込む、少し高くなった日差しを受けながら、明宏がとろりと目を細めて笑いかける。朝ご飯を作っていたのだろう。エプロンをしっかりと身に着けて困ったように笑うその目にぐらりと腹の奥がとぐろを巻いたけれど、ぐっとこらえてようやくあくびを一つして誤魔化し、体を起こした。
「おはよう。明宏」
「おはようございます。疲れてるのはわかりますが、ちょっと寝すぎですよ?」
そう、ちょっとつまらなかった、とでも言うように眉を下げる明宏が愛おしくて、かわいくて。腕を伸ばして、するりと頬を引き寄せる。ひとつ、頬に吸い付くように口づけを落として、ぽかん、とした顔の恋人がみるみる赤くなって慌てるのを、満足げに見つめていた。
今はまだ、これだけで。いつかきっと、この子のすべてが欲しい。
そう笑って、伸びてくる手のひらに指を絡めた。