景儀が暴れた日「この花園をハゲ頭にしてやる!悔しい悔しい」
ヒマワリを引っこ抜き、ぶんぶんと振り回している姿の藍景儀を藍忘機は薄いその瞳で静かに眺めていた。広大な花園で邪祟を見つけるには二手に分かれる必要があった。唸るような声を耳にし、やってきたのである。ぽんと肩に手を置かれた。魏無羨だ。
「よ、藍湛」
「どうなっている?」
6人の弟子を連れ、夜狩に来ていた。花園に人を惑わす化け物が出るため、退治してほしいと依頼が来たのだ。
「見ての通り、取り憑かれてこの有様だ。人を殺してどうのこうのってわけじゃないようだから、景儀のカラダに入った霊の欲求を調べて穏便に浄化させてやるところ。お前らよく観察しろ。霊が一体何をしたいのか、見極めるんだ」
魏無羨の指示に、姑蘇藍氏の弟子たちは真剣に暴れまわる藍景儀を見つめる。
「魏先輩、あの霊が何がしたいのかまったくわかりません」
藍思追が助けを求めるように魏無羨を見る。
「さっきも言ったろ?よく見てればわかるって。含光君はもう気づいたみたいだぞ」
頷く藍忘機の様子に、弟子たちは驚く。目を皿のようにし、じっくりと藍景儀を見た。
「同じところをぐるぐる回ってるだろ?あそこには何があると思う?」
本当だ!と弟子がそれぞれ声を出し、動き出す。
「誰かが景儀を抑え込んで、地面を剣で掘るんだ」
「はい!」
全員が真面目に指示された通りに動いている。
やれやれと魏無羨が首をふった。
「おまえんとこの弟子はまだまだだな。あんなに背はデカいのに、まるでお遊戯だ」
「君が指導を続ければ、より成長する」
「いいだろう。しかし報酬は高いぞ?そうだなぁ。お前からの口づけ100回が妥当だな」
「安い」
「そうか?じゃぁ120回にしとこうか」
魏無羨は藍忘機の肩に頭をコテンと乗せて甘える。
「魏先輩!死体です。縄で縛られています」
「よく見つけた。それをしっかり供養してやれ。そうすれば霊もおだやかになるはずだ。思追、景儀の中に入った霊を追い出してやれ」
「わかりました」
「俺と含光君は急ぎの用事ができた。あとは任せるぞ」
気持ちのいい返事をする弟子たちは処理をしながら、それぞれ感づいていた。これから二人だけの時間を楽しむのだろうと。藍思追が術を唱え、二本の指を藍景儀の額に当てる。
目が中心に寄り、おかしな顔になっていた藍景儀が通常に戻った。
「はぁ。もっと早く気づけよ」
「意識はあったんだ?」
「あったよ。ヒマワリを振り回すあたりからずっと。霊から体を取り戻せなくてむかついてた」
手をつなぎ、仲良く同じ剣に乗って空を飛ぶ二人を見上げ、藍景儀がつぶやく。
「あの二人、夜狩中なのによくもあんなにイチャイチャできるな」
「仕方ないよ。最近また藍先生が新しい家訓を増やしたから」
藍思追は先ほど藍景儀が引き抜いたヒマワリを地面に植えなおしながら言った。
「また、増えたのか?」
藍景儀が鳥肌を立て、口をへの文字にする。
「雲深不知処では手をつなぐべからず‥‥て、二回も藍先生が座学で言ってたよ。また居眠りしてた?」
「俺決めたよ。将来藍先生の次に偉い人になって、雲深不知処の家訓を減らす」
「はは、がんばって」
FIN.