明知不可而為之(一.五) 暦の上で夏が終わろうとしていたとき、山深い雲深不知処へ秋はとっくに訪れていた。
月は叢雲に隠れた暗闇で鈴虫が涼やかに鳴いている。それがより一層この人里離れた仙境の静寂を引き立てていた。
宿坊の一室でろうそくに火を灯して少年たち三人は膝を突き合わせていた。就寝時間である亥の刻はとうに過ぎていた。
「お前たち、外叔父上と沢蕪君の続報を知りたいか?」
得意そうな金凌を前に、小双璧はごくりと喉を鳴らした。静粛とした仙境に似つかわしくない下世話な話を彼らは始めようとしていた。
姑蘇藍氏の領地で合同の夜狩りを終えた金宗主は、客坊へはいかずに座学のときのように彼らの部屋に滞在するのがここ最近の彼の習慣だ。金凌にとって時折夜狩りは目的というよりも雲深不知処へ泊まる口実になっている。仙子は雲深不知処にいる犬嫌いの住人のために今宵は金麟台でお留守番だ。
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