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    JitoOkami

    @JitoOkami

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    基本的に成人向け。
    最近はパッチのすけべばかり。
    又は小説や漫画になる前のネタ墓場。
    過去にはエロくないアンダーテールと喪黒さんが少々。

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    POIPOI 94

    JitoOkami

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    ラーヤの旅 続いてます

    ①→
    https://poipiku.com/31276/8499878.html

    背筋を伸ばして② カーレさんと別れた後、私はリエーニエに飛んだ。
     リムグレイブの少し湿った温暖な気候は嫌いじゃないからもっと色々回ってみたかったけれど、先に少し寄りたいところがあったからだ。

     ……それがここ。学院の門前町にある廃墟。
     ここには私が罪を自覚した最初の印がある。
    「『ホスローは血潮で物語る』……か」
     火山館の人間が背負うべきものとして覚悟はしているが、この石畳の残骸に未だ薄らと残る血の跡が発する無念と怨みに、私は今後少しずつ蝕まれながら生きていくのだろう。
     ディアロス・ホスロー。いいえ…ディアロスさん。そしてその従士の方。名前は確か、ラニアさん。
     私は……火山館は、彼らの人生をただ無意味に狂わせてしまった。
     ラニアさんを直接下したのは勿論私ではないし、最終的に自分の道を決めたのはディアロスさん本人だ。だから私の背負う荷はない。少なくともタニス様ならそう仰るだろう。
     けれど私は、ディアロスさんをユーノ・ホスロー打倒の駒とするための謀に一枚噛んでいる。
     ユーノ・ホスロー唯一の愛弟を手に入れるための手始めとしてその従士を殺害するようにと、タニス様が褪せ人様(確か彼は元囚人だったと思う)に命じられているところを私は見聞きしたし、その『仕事ぶり』も、私とパッチさんとで確認したからよく覚えている。
     不意打ちを喰らい、沢山の血を流して絶命していたラニアさんは、まだ若い女性だった。幼馴染だったと言うあのディアロスさんの様子から見て、もしかしたらもっと特別な人だったかもしれない。
     そんな彼女を手にかけた褪せ人様は偉大なる王に謁見された後、二度と姿を見せなくなった。
     今が好機だと、タニス様は仰った。
     私はその言葉に従い、失意のディアロスさんの前に何食わぬ顔で現れ、復讐の機会を与えると甘言を弄してタニス様のところまで導き、そのタニス様もまた復讐に燃える男の心の隙を擽りながら言葉巧みに宥め、懐に迎え入れた。
     私もタニス様も、心には大義があった。
     けれど側から見れば、それは本当にいやらしい有様だっただろうと思う。正に雌の蛇が寄ってたかって愚鈍な雄の蛙をたらし込み、自らの毒巣に招くような仕草だ。
     そうまでして手に入れたユーノ・ホスローの愛弟はと言えば期待外れで、人としても戦士としても弱かったばかりにすぐに逃げ出してしまい駒としては使い物にならず、結局私たちの本命は彼より鬼神の如く強い英雄様が討ち取った。
     何の策もなく、武人らしい彼女の真正面からの力技で。
     過ぎたことも言っても仕方がないし、覚悟の上で行ってきた私達の所業を今更間違っていたとは、たとえ本当にそうだったとしても口が裂けても言えない。
     けれどこんな結果になるなら…ディアロスさんは、そっとしておいてあげてもよかったのではと思わずにはいられなかった。
     尊敬はできない人だったけど、少なくとも悪い人じゃなかったし、私達の野望に邪魔になるような人でもなかった。
     ただホスローに生まれただけで、彼の愛する弟として生まれただけで、何故そんな目に──。
    「いいえ、きっと思うべきことはそうじゃない」
     本当はどんな事情であろうと、他人の人生を狂わせていい理由なんて何処にもない。
     神にも、王にも、母にも、私にも…誰にもそんな権利なんかないんだ。
     ましてや生まれなどで。自分ではどうすることもできないものなんかで、そんな仕打ちは。
     そんなの……辛すぎるじゃない。
    「ごめんなさい……」
     軽薄な謝罪の言葉と共に供えた野花は、すぐさま吹いた風に乗って飛んでいってしまった。
     ……こうして改めて振り返ってみると、私達は大義を錦の御旗にして、随分と簡単に他人の命を貪り、人生を狂わせてきたものだ。
     そういう浅ましさの点で言えば、黄金樹も火山館もさほど変わりはないのかもしれない。
     真の正しさなんてものはなく、ただ互いに互いなりの正義があり、ぶつかり合う。だから勝った方が正しくなってしまいがち。
     だから、私達は──
    「……いいや、よそう。タニス様は…火山館はまだ、負けたと決まったわけではない」
     我ながら心許ないことを呟いて、踵を返して陽が傾きかけた空を仰ぎ見ながら歩き出す。
     今日は黄金樹が笑っているのか、金色の葉がちらりと降り始めた。
     あの樹は私にとって忌むべきもの。でもそれはそれとして、この青く清涼な景色の中で輝く黄金は素直に綺麗だと思う。
     相変わらず少し肌寒いのは苦手だけど、昼も夜も目の醒めるような美しさを湛えるここが、私は嫌いじゃない。
     そういえば英雄様にも、確かこの辺りで初めて出会ったんだっけ。
     少し先のあの東屋。パッチさんが見晴らし島で見ていてくれて、英雄様はカメオを。
     母様の、カメオを……。
    「……英雄様は今どうしているだろう」
     服の下にしまったままの胸のカメオに触れそうになって、辛うじて思考を切り替えた。
     思えば『招き手』を担うようになってから、火山館しか知らなかった私の世界が僅かながらでも既に広がりつつあった。良くも悪くもゲルミア火山から遠く離れた各地にこれだけ人の縁があったのだから。

     出会って、集まって、そしてみんな散り散りになって……、一番の思い出の場所には誰もいなくなってしまった。
     私も含めて。

    ***

     見晴らし島でパッチさんが残していった焚き火に当たりながら眠った私は、起床後の食事を終えてすぐにアルター高原に向かった。
     リエーニエの美しい星空を眺めて少し夜更かしをしすぎてしまったせいで、寝て起きたら真っ昼間になってしまっていたけど、広くて根気の要りそうな敵地に赴くんだから、まぁ…よく寝たとして良しとしよう。

     王都ローデイル。
     足を踏み入れるのはこれが初めてだけど、いつか必ず訪れることになると思っていた。
     何故ならここは火山館にとって破砕戦争の頃からの因縁の地だから。もう庇護される子供ではなくなった私にとって、避けては通れない場所だ。
     永遠の女王の閨、エルデの玉座が据えられた神が鎮座していた都というだけあって、ここは半ば荒廃しているにも関わらず未だ美しさと威厳が保たれている。
     この黄金に輝く強烈な魅力を目の前にすると、あのストームヴィル城を根城にしていたゴドリックがここを追われて尚永く焦がれたのもわかる気がする。
     こんな強国を相手に勝負を分けたのだとしたら、凄惨な結果とは言え偉大なる王が作った火山館の勢力も並のものではなかったのだろうと改めて妙な感動を覚えた。

     ──しかし。やはりと言うべきか、当然そればかりなわけではない。
     隆盛極まる場所であればあるほど、清廉さを嘯く存在であればあるほど、その足元は暗く穢れている。
     これは昔タニス様から教わったこの世の理だけれど、その言葉は真実で、言葉以上に闇が深かったのだと実感した。
     ……ここまでのものとは流石に思っていなかったけれど。

    「とんでもないところまできてしまった…」
     蛇の肌で感じた濃い淀みの内の光るものを辿って、私は下へ下へと降りていった。
     よくもまあナメクジだらけのあんなところを行く気になったと我ながら感心する。
     でもそれをするだけの価値はあったと思う。
     降りた先で寂れ壊れた聖堂に突き当たり、その光るもの…切なくも澄み切った素敵な亡者の弦の音色に辿り着いた。それは時折見かける放浪商人の人達が弾いている美しい楽器の音色に似ていた。
     恐らくはこれが伝え聞いていた大商隊への虐殺の跡なのだろう。カーレさん達が持つ特有の雰囲気の遺体が幾つも折り重なっていた。
    (狂い火で焼け蕩けた膿の匂いがする……)
     漂う酷い瘴気に思わず顔を顰めてしまった。
     火山館にも腥い場所はあるが、ここは本当に悍ましい歴史が埋もれている。
     しかしこれだけのものがあって尚まだ先があるらしいことに、底なしの人の業というものには戦慄する。恐怖と言ってもいい。
     けれどそんな大事な本能より敵方の暗部を知り得る好奇心が勝ってしまい、更に下へと降りてしまったら、これ以上ない程暗く気持ちの悪いところまで来てしまった。
     美しい音楽も届かない地下深くに隠された焼け爛れたような禍々しい扉、そして上にあった夥しい商人達の遺体達とは明らかに違う、恐らく女性のものであるらしい真新しい焼死体。正直脚がすくんだ。
    (ここ、怖い……)
     少しずつ呼吸が浅くなっていくのがわかる。ここですぐにテレポートすればいいものを、私は半ばパニックになり、逃れたいあまりに本能的に走り出してしまった。
     壁の奥に空の宝箱がポツンと置かれた、その更に奥。明らかに隠し通路だったであろうそこは当然出口ではなく、澱みが極まって音も光も殆ど無いに等しい、枯れ死んだような蔦のような物が蔓延った死の匂いに満ちている空間に出た。
    「本当になんなの王都って。こんなところと通じているなんて……」
     あぁ……くらくらする。気を失ってしまいたい。いっそ死の誘惑に乗ってしまいたい。
    「……でもそれはまだだ。動け、私の脚。ここまで来たんだからしっかり目に焼き付けて、タニス様のお役に立てる情報を掴んでみなさいよ、ゾラーヤス……!」
     こんなにも悍ましい世界があったとは。あの腐敗したケイリッドにすらここまで怖気は走らなかった。
     ひょっとしてこれが、タニス様が以前仰っていた黄金樹の根なんだろうか。教えて下さったあの方自身も半信半疑の話だったけれど、そうだとしたらやはり黄金樹(アレ)は本当に碌なものではないのだろう。私はきっとこれを突き止めるためにここまで来たんだ。うん。そうに違いない。火山館は、タニス様はやはり正しかった。だから早く帰ろう。帰……ろ…

    ヴヴヴヴヴ

    「何あの……蟻?」
     ゾッとする音の方向に目を向けると、遠目とは言え過去短い人生で三本の指に入る最凶に気持ちの悪いもの見てしまって発狂しかけた。
     赤くて毛だらけで顎が強そうで変な縞々のある翅のある…ああああ叫び出さなかった私を褒めたい。肌に這い上る気配が一つや二つじゃない。感覚を遮断しないと気が狂いそうだ。最悪野垂れ死んだってそれはそれでいいやとは思っているけど、いくらなんでもここで死ぬのは絶対に嫌だ。休憩も取らず深入りしすぎてお腹も空いたし、流石にこれは来た道を戻った方がいい。
    「あぁ…でも、腰が抜けちゃった……」
     情けないことに蛇でも腰は抜けるらしく、あの蟻の姿が決定打になってその場にへたり込んでしまった。こんな変なところでもう一歩も動けない。
     落ち着け。こんな精神状態じゃテレポートもできやしない。落ち着け。落ち着け。…でも怖い。怖いよ…母さ──

    「ああああああ!!」

     !?
     あれ? 今私叫んだ? …いや、叫んでない。何??
     ……そう思ったら何やら徐々に騒々しくなってきた。地鳴り? いいえ、誰か走って来ている?
     あのスキンヘッド…の、男性…見覚えあるような。
     え、アレまさか……
    「あぁ!? えぇ!? ラーヤぁ!? そこにいんのラーヤかお前!?」
     やっぱり! パッチさんだ! 蟻達にすごい追いかけながらこっちに向かって来てる! 何してるのこんなところで! こんな足場の悪い場所をあんなに器用に…何ですか今のジャンプどうやったの!? いやあああこっち来ないで!! 蟻達も一緒に来るじゃないですか!!
    「おおおいラーヤ!! 俺連れてワープしろワープ!!」
     何!? ワープ!? テレポートのこと!?
    「ええええええどどど何処に!?」
    「何処でもいい!! 今すぐぅぅぅ!!」
    「はいいいい!!」
     その迫力に気押されて抜けた腰が再び嵌り、私も(この時私は足元を気にしていなかった!)パッチさんの方へ走り出して、彼が差し出したその手を掴んで、なし崩し的に『ワープ』した。
     どこでも良いから遠くへと。

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