ふわりと甘い香りがする。何かにまとわりつかれる感覚にしばらく体が硬直した。何が起こったのかやっと理解できたのは数秒後であった。
そっと視線を下に動かす。すると黒から毛先に向かって青に変わる物珍しい髪の毛がゆらゆらと揺れている。この髪を自分は知っていたし何度も触れていたものだった。ぐっとまた抱きつかれる感覚にまた瞬きをした。
白石が自分の膝の上に乗り抱きついている。ということを自覚するのに数秒を要したのは、あまりこの女がスキンシップを冬弥に対して進んでやらぬ女であったから他ならない。
今日の彼女はなんだか変だった。
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彼女と付き合いを始めたのほんの数ヶ月前のことである。
告白は冬弥から杏に告げられたものであった。
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