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    merut_em

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    気分いいので付き合ってすったもんだする冬杏の没いきなり終わりますほんと。誤字脱字のっと推敲注意

    #冬杏
    winterApricot

     ふわりと甘い香りがする。何かにまとわりつかれる感覚にしばらく体が硬直した。何が起こったのかやっと理解できたのは数秒後であった。
    そっと視線を下に動かす。すると黒から毛先に向かって青に変わる物珍しい髪の毛がゆらゆらと揺れている。この髪を自分は知っていたし何度も触れていたものだった。ぐっとまた抱きつかれる感覚にまた瞬きをした。
    白石が自分の膝の上に乗り抱きついている。ということを自覚するのに数秒を要したのは、あまりこの女がスキンシップを冬弥に対して進んでやらぬ女であったから他ならない。
    今日の彼女はなんだか変だった。






     彼女と付き合いを始めたのほんの数ヶ月前のことである。
    告白は冬弥から杏に告げられたものであった。
    好きという感情はもちろん知っていたがそれを自分が抱くことはなかったため告白するまでの過程はそりゃ長かった。知らん感情をしかも恋というものをおいそれとそうかと頷いていいものではないと冬弥は考えていた。
    この結論に辿り着くまでに彰人に何度頭を叩かれたかは数知れずである。なんせ、クラシックの知識は馬鹿みてえに叩き込まれたくせにして他の普通に生きてれば得れる知識はさっぱりだったからだ。
    「心で考えろ。」「こう、感覚だよ。わかるだろ?」と何度か言われたから何度も「わからない」と突き返したのももはや可愛らしい記憶として保存してあった。(彰人は未だに根に持っていることは目を逸らそう)
    一度認めてしまえば早いもので彼女を自然と目を追うことも彼女の歌声を聞いてほんの少し安心するのも心地の良いものとなった。
    しかし恋の感情が戸惑いから安らぎ、そして次に滲んでしまいそうになるほんの少しの独占欲が生まれてくる。物凄く戸惑った。彼女が他の男と話すたびに何か嫌なものを見た気分になる。間に入り引き剥がしたくなる気持ちになる。
    そう自覚途端にこの感情を捨てるか、受け入れるかされないと無理だと思った。白石と彰人と小豆沢、彼らと一緒に目標を達成する上で彼女への気持ちは必ずしも障害になり彼女を縛り、そしてお荷物となることが予想できる。彰人に関してもチーム内恋愛に関しては寛容ではなかったはずだけれど懐の広い男だ「惚れちまったもんは仕方ねえわな」と困り顔で父親みたいなことを言われた。しかしそんなものに甘えていたくなかった。
    この暴走しかける恋慕が、刃となる前に彼女にこの想いを曝け出さなきゃ話ならない。


    「お前が好きだ白石。もちろんこれは恋愛感情としてだ。お前を愛らしいと思う。他のものに取られたくないとも考える。…でもそれはお前の本意ではないこともわかっている。お前に一度拒絶されなければ折り合いがつかない。」

     話そうと思った日は前々から特に決めていなかった。ある日彰人と小豆沢が少し遅れるという連絡が来た直後、個室のカフェで彼女に静かに告げた。

    放課後だったからカフェの窓から彼女の瞳と同じ色の夕焼けの光が差し込んでいた。彼女の星屑のアクセサリーも煌びやかに輝いている。
    サロンイエローの瞳が震える。やはり驚かせたなと思ってるうちに彼女ら少し考え込みながらうーんうーんと声を漏らしていた。自分は首を傾げた。思っている反応と違った。何か言おうと思ったが声を遮られるように言われた一言。
    彼女の第一声が「……ドッキリ?」だった。
    目をパチリとする。
    彼女も同じように目をパチリとしてどうだ!と謎に得意げな顔でこちらを見ていた。「彰人に変なこと吹き込まれたの?」「私相手じゃなかったら本気にしてたよ?」とかあははと笑いながら彼女が離している。
    我ながら予想外すぎて呆れるというか怒りというか、何というか、ほんの少し笑ってしまった。
    なんだか心地の良い反応で気分は悪くなかった。

    「いいや本気だ。俺は冗談が下手くそだからな」

    笑いを堪えながらそっとそう告げた。可愛らしく目をパチリとしたと思えば次は石みたいに固まった後に「はぁぁ!?!?!?」とどでかい声で叫ばれた。それはそれは綺麗なハイトーンボイスが伸びやかに個室に響いた。ちょうど自分達の飲み物を持ってきた店員さんに二人仲良く注意されてしまい、彼女の顔は戸惑いと困惑でそして真っ赤な顔をしていた。トマトが嫌いなくせしてその顔はトマトのようだなと思った。言ったら多分怒られそうだから言わなかったけれど。
    はっきりとした二人の思い出はこの告白だっただろうと思う。
    彼女と自分は距離感があった。だからこそ彼女は真底驚いたのだろう。

    「お前がそうゆう対象として見ていないならそれでいいし、それを理由に断ってくれても構わない」

    彼女の本意ではないことはしたくなかった俺としてはそれでも構わないと思っていた。しかし彼女の答えはまあ意外である。
    俺の言葉を聞くなり考え込むのだからまたそわついてしまうのだ。しかしそうかと独り言のような呟き彼女は口を開く。

    「………………付き合おうよ」

     二度見した。コーヒーのカップを思わず落としてバリーンと音を立てた。そりゃそうだ。あの白石杏が。音楽と相棒ばかり追いかけていた彼女がそう告げるものだから、びっくりしちまったのだ。
    その様子を見た白石はぷっと吹き出した。その後に「店員さーーーんっ」と元気のいい返事をしていたのにハッとしてぼんやりと机に置いてあるティッシュで軽くコーヒーを拭くしかなかった。
    店員さんにも布巾をもらい二人で頭を下げながら、申し訳ないが新しいコーヒーを注文する。彼女はまだ笑っていてほんの少し不満気にむ、としてしまった。
    彼女はゆっくり口を動かす。

    「びっくりはしたし正直冬弥はそうゆう目で見てなかったよ?」
    「それは、わかっている」
    「でもあの冬弥がそう言ってくれたってことはいろいろ考えて私のために言わなくちゃならないような状況やら考えが生まれたんでしょ」
    「……」
    「………誠実な冬弥が言わないように隠しそうなことをこうして吐き出されたなら、なんかこう。私もちょっとはそうゆう風に冬弥を見て見たいというかさ。」
    「…無理はしなくていいんだぞ」
    「じゃあ断ることが私の無理ってことでどう?」

    ふ、とハンサムな笑みを浮かべる彼女を見て息を呑む。これには敵わなくて大きなため息と共に額に手を当てた。

    「まるでお前から告白したみたいだな。」










     かくして俺たちは付き合うことになったのだが、恋人らしいことをしようだとかそうゆうことは彼女に無理強いはしてない。しかし「俺からたまにお前に触れてもいいか?」聞いて彼女からの了承を得てから触れることはある。そのため彼女の髪に触れ、頬に触れるなどはしていた。その際に毎度の如く触れていいかと尋ねていたし彼女になるべく負担をえらないように努めた。
    彼女自体男と仲はいい方なのでスキンシップも多い方だしそれに何も思わないかと思えばそんなこともない。
    でもやはり何か差をつけたい。俺がお前のことを好きだということを自覚してもらいたいという柄でもないことを思ってしまう。

    「白石の髪は綺麗だな」
    「あはは、ありがと」
    「意外と手は小さいんだな」
    「んー?そう?そんなことないよー。」
    「そっちは危ないからこっちに来い」
    「……あ、ありがとう」
    「しらいしは愛らしいな」
    「……」

     あふれる想いを溢すたびに彼女はいつも通りに笑っていた。でもしばらくそれを続けていると押し黙って俺の腕をひと殴りする。可愛らしいぽかんと音がなりそうな暴力を受けるようになった。
    ほんの少し耳を赤くしてこっちを見るなというようになった。
    機嫌を損ねたか?と問われると否だと言われる。

     恋は難しいなと思った。好きな女の気持ちなら尚更である。
    彼女は自分の気持ちに付き合っているに過ぎないと思っていたからこそ、その気持ちをどうにかもっと異性として意識してほしいと思ってしまう故の行動。
    愚かな男心である。一度手にしていいと言われると手放しがたく愛が溢れてしまった。ぐっとぐっと胸の奥に秘めておこうとしたのにポンポンと出てくるものだから戸惑ってしまう。
     だからその反応が嬉しくもなく自分にとってはあまりにもかわゆく映った。より一層甘やかしてやるように優しく優しく努めてやった。その度に恥ずかしそうに叱咤を述べてくるから笑ってしまった。

     そして勝気で負けず嫌いの彼女を刺激するには十分すぎる要素だったらしい。




     今日は白石の様子がおかしかった。遊びに誘ってきたのは白石からで別にここまではいつも通りである。
    まず格好。
    いつもストリート系の服装をしている彼女が珍しくほんの少しフリルがあしらわれている甘ったるそうな服だった。
    どちらかと言えば小豆沢が着ていそうな服装である。

    「今日はいつもと服装が違うな」
    「ま、まあ。うん。……どう?」
    「ん?」
    「だからその」
    「嗚呼、びっくりした」
    「そうじゃなくてさ」
    「そうか」
    「……」
    白石は何故だかほんの少し拗ねたように自分の手をほんの少し弄る。そっと瞬きをした後になんだか愛らしくて笑ってしまう。
    「よく似合っている。可愛らしくて驚いただけだ」
    「!」
    「行こう。今日は歩きづらそうな靴をしている」

    さらりと彼女の手を取りスタスタと歩き出した。後ろの方で「ちょ、とうや!」と狼狽えたの声が聞こえるがしばらくしてしおらしくなったように手を握り直されるので思わずホッとした。
    ーーーしかし俺の違和感は拭えぬままただ白石が可愛いなという感情だけいつもよりもむくむくと膨れ上がるのである。


    歩いてる途中に不意に腕に抱きついてきて、じっと上目で見つめてくるわ、いつもよりも頑張って甘えようと腕の間に体を入れてみたりされたりとか…。
    しかし彼女も恥ずかしいのだろう。しばらくした後に「なんちゃってー!」と赤い顔のまま狼狽えるのでキャパオーバーしてしまいそうになるのである。りんごのように真っ赤にしてもなお甘えよう甘えようと必死に何かを頑張る姿はいささか俺の心を刺激するには十分である。
    どうしたんだ。そんな可愛らしくて。とたくさんのかわいい白石の仕草にほんの少し頭がパンクしそうであった。いつも恥ずかしがってなにもしないのだから。ずっとクラシック漬けの日々で女に惚れてことなどもないので感情が持て余しているせいである。
    真顔で「そうか」としかいえずいつもより話が盛り上がらないまま事が進むという最悪状況であった。



    いつもと違ってよそよそしい二人での時間に互いに(何故白石も疲れているのかはわからないが)疲れたような顔して二人で息を吐く。個室のあるこのカフェは、あの告白をしたカフェである。
    適当な飲み物を頼み、沈黙がただ流れていく。告白をしたあの日はもっと穏やかにいろんな話をしていたのに…。嗚呼、告白する前の方がずっと穏やかだった気さえする。ちらりと白石を見ると俯いてなにも言わんので流石に心配になってきた。…もしかして今日様子がおかしかったのは俺のせいかもしれない。告白をして彼女にいいと言われたとはいえやはり無理をしていて今日ガタが来てしまったりだとか、嫌な想像ばかりして息を呑む。
    ……やはり言わなければよかった。押し殺して、何事もなかったかのようにしておけばどれほど良か

    「……冬弥」
    「!……嗚呼…」
    「ごめん……」
    「!?」

    顔をあげた彼女はどこか悲しそうな顔をしていた。それを見た戸途端にさーっと頭の先から爪先まで自分の体温が奪われたんじゃないかと錯覚した。数秒前は言わなきゃ良かったなんて言ったくせにいざ関係に終止符を打たれると思えばこの様である。何か言わなければならない。気にしなくていいと彼女を安心させねばならない。しかし口は動かんので彼女の言葉を待つような形になるのがみっともなくて嫌である。
    じくりじくりと溢れる汗と先ほど口にしたコーヒーの苦味など吹き飛んでいくようだ。わなわなと震えそうなほど情けない自分に嫌気がさしてしまいそうになった時彼女の口が開いた

    「今日の私……変だったでしょ…?」

    そして思わぬ回答。ぽかんとしてしまった。唐突になんだ。たしかにいつもと様子は変であったが…と思いながらこちらとしては予想もできなかった言葉への対応の術を知らない。

    「……別れ話ではないのか」
    「…はあ!?」
    「先ほど深刻そうな顔をしていた」
    「そ、そりゃ柄じゃないことしたし」
    「俺との交際も白石の気持ちを考えずに事を進ませてしまったことだ。…だからてっきり」
    「なんでそうなんの!?!」

    しょもしょもと眉を垂れ下げて肩を落としてしまう俺を見るなり白石は大きなため息を吐き捨てた。どうしたものか言うべきだろうが、言いたくないしとぽそぽそと独り言を言うのでじっと見つめ返す。

    「私負けず嫌いでしょ?」
    「…自分で言うのか」
    「冬弥にまどろっこしいこと言う方が愚かじゃない」
    「言い得て妙だな……」
    いいえて…?なんてよくわからなそうな顔をするのでそれでと一応促した。こほんと白石が咳払いをする。
    「…冬弥と一応付き合うようになってさ、冬弥はガツガツスキンシップしてくるし、好きだーだとか言うし。で、私はそれに全然返せなくて1人で顔を赤くすることしかできないわけ」
    「まあ、確かに。白石からはあまりアクションは起こしていないな。しかしこの関係は俺の我儘から始まったものだ。お前がそんなことを気にする必要は一切ないと思うが…」
    「違う違う!」

    何が違うんだ。なんて眉を垂れ下げる。モゴモゴと口を動かす白石は何が言いたげだが何度もそれを飲み込む。言いづらいのなら言わなくてよろしいと思うが彼女の気がすまないのか言い淀んでいた。

    「……く、悔しいの」
    「悔しい」
    「冬弥に……」
    「俺に」
    「ドキドキされっぱなしなのが」
    「どきどきされっぱなし」
    「…そう。だから仕返しにドキドキするかなって思っていつもと違うことしてみた」
    「………すまない。なんて言ったんだ?」
    「ちょ、復唱してたくせに!?」

    違う意味は理解できる。しかし、そんな、そんな可愛らしい理由で?悔しいから?俺に愛でられて顔を赤くする他ないがなくて反論ができないのが?
    真っ赤な顔して唸る彼女を見つめていれば自分の心は晴れやかでポカポカしていた。くすくすと声を押し殺して笑い口を抑える。彼女はその様子にやはりご不満の様子で「とーやが可愛いとか言うから!」「そんな可愛いを安売りするのが悪い!」「笑うな!馬鹿野郎!」と子供みたいな怒りん坊をされてはまたくは、と笑ってしまった。
    この生き物はどこまでも可愛くないと死んでしまうのだろうか。そんなことを思えばやっと笑いがおさまってきた。

    「……笑いすぎじゃない?」
    「すまない…ふふ…」
    「…まだ笑ってるし」





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