仁重殿に置かれたる繰り人形(以下略)二その数日後のこと、広徳殿に訪問者の姿があった。
「台輔、お呼びでしょうか?」
跪拝して礼をとっているのは瑞州師中将軍の友尚だ。訪問者、とは言ったが 実態としては呼ばれて参上しただけなので、むしろ本人の表情には若干の戸惑いがある。
「忙しい所を済みません。急なことで困惑しているでしょうけれど、どうしても出立前に話をしておきたくて……」
楽にするよう伝える台輔は、青白い顔をしていた。そば近くには大僕の耶利と項梁が控え、まださほど寒くもないが傍らに褞袍を用意している。体調を崩しているのかもしれない。
「いいえ、ご用があればいつでもお呼び立ていただいて構いません。ただ連絡の者から聞いた様子では余りにお急ぎのようでしたので少々驚いているだけです」
4722