煙草(先生、いつもこんなことしてるのかな)
なにか頼み事をして、その代わりに身体を差し出すようなことを。
裸の肩がひやりとする。乾きかけた汗が体温を奪っている。空調の音が急に耳障りに感じて、僕は床に落ちていたズボンのポケットから煙草とライターを取り出した。窓の外から入るネオンの光が、その人の肌を青白く照らしていた。眠っているように見える。少し乱暴に、してしまったかもしれない。ため息とともに吐き出される白煙は暗い部屋に溶けて消えた。
「明日そっち行くから」と唐突に連絡をよこしてきたその人を迎えに行き、ホテルに向かう途中にした話を僕は思い出していた。「自分の身になにかあったら、同級生や後輩のことを頼む」というものだった。拍子抜けしたというのが正直なところだ。言われなくても、学校の皆はいつでも守りたいと思っているし、電話で済む話だと思ったし、それ以外の用事だったとしても、先生の言いつけなら僕は何だって……。
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