ネイル 瓶に入っているときは闇のような黒色に見えていたが、実際に塗ってみれば乳白色を含む灰色のようだった。
瓶の中、小さな刷毛にたっぷりと乗せた液体をフチでしごき、余ったものを爪へとのせる。
根本から先端へ。
親指が終われば人差し指へと、順番に。
それは丁寧に、丁寧に、成されていく作業だ。
「動かしちゃだめだよ」
「わかってます。でもどうしたんです? ネイルなんて」
「ん? これ? これね、硝子にもらったんだ」
「……家入先生ですか」
自分でも硬い声が出たことがわかった。
先生のこととなると僕は狭量だ。好きな人が楽しそうにしているのだからそれでいいはずなのに、自分のいない話をされるとどうにも面白くなくて、それを隠すこともできないでいる。
2332