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    まみたに園

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    まみたに園

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    フーナラ🍓🍊SS(全年齢)
    夏の終わりにフーゴが無意識の寂寥感からナランチャの膝から離れなくなるほのぼの話。
    ナランチャ目線です。
    ※スマホやロボット掃除機が登場します。なんでも許せる方向けです。

    9月 / フーナラ ここ数日長雨が続き、今朝は特に冷えた。
     朝の空気はカラッとした夏の暑さを忘れてしまったかのようにしっとりと肌にまとわりつく感じがした。
     フーゴが膝から離れない。
     構ってほしいとか縋りつかれるとかでもなく、ソファに腰を下ろすと何も言わずに隣に座って俺の膝や太ももを手のひらで撫でる。
     しばらくすると頭の収まりの良い場所を探して枕にする。そして、本を読み始めたりぼんやりとテレビを見たりする。言葉を交わすことはほとんどない。
     頭の重さも身動きの取れない時間も嫌じゃないから好きにさせておく。これが真夏だったらお互いの体温で行き場がなくなり煩わしくなる熱も、肌寒さが手伝って心地良い。
     頬や額を撫でると気持ちよさそうにするけど、髪の生え際をしつこく触ると不機嫌そうになる。
     時々目が合って、「何?」と目で訊くと「そっちこそなんだよ」という鋭い視線が返ってくる。
     膝を提供しているのは俺なんですけど。
     季節の変わり目はいつもこうだ。
    「自分でも何でかわからないけど、子供の頃はよく夏の終わりを感じると泣きたくなった」
     いつかそんな話をみんなの前でフーゴがポロっと零したのを思い出す。
    「意外に可愛いところあるじゃん、パニーちゃん」
     ミスタにからかわれて、問答無用で肩にパンチを喰らわせて仕返しをしていた。
     夏の暑さのピークが過ぎて、フーゴは心の準備みたいなものを無意識にし始めたのかもしれない。

    「フーゴ、それ何?」
    「インスタ」
    「へぇ。フーゴもそういうのするんだ」
     部屋着のポケットから取り出したスマホで写真・動画投稿用のSNSアプリをぼんやり眺めている。
    「見る?」
    「うん、いいの?」
    「うん」
     手渡されてフーゴのホームを見てみると、ロボット掃除機の写真がずらっと並んでいた。画角は様々で、大体寝室の床かリビングの床と一緒に写っている。
     動画もロボット掃除機で、耳を済ませるとフーゴの声が聴こえる。
     毛足の長いラグを巻き込んで停止したロボット掃除機に「大丈夫?」と声をかけて終わっていた。
    「違うんだ」
    「何が?」
    「僕は別に、ロボット掃除機愛好家って訳じゃあないんだ」
    「うん?」
    「最初は君んちで一緒に飼ってた猫を載せてたんだけど……」
     フーゴが言うには、貰い手がつくまで俺の部屋で一緒に世話をしていた仔猫たちの写真を載せるために始めたらしい。フォローしているのも猫や動物を載せているアカウントばかりだ。
     そういえば、よく写真を撮ってブチャラティに見せていた気がする。
     消してしまったのは、見るたびに居なくなったことを思い出して辛くなったからと、前の晩に食べたメニューを告げるかのように大して辛くなさそうな口調で言った。
     次にフーゴは部屋の観葉植物を撮って載せた。そしてハダニにやられたタイミングで駆除しきる前に仕事が忙しくなり、うっかり枯らしてしまった。
     元気に青々とした葉を広げていたころを思い出すと忍びなくなって、消したのだそうだ。
     そういえば、と花屋に同行させられた時のことを思い出した。
     枯らしたのは自分なくせに少し落ち込んで、もう買わないなんて言いながら、やっぱり緑が欲しいと言い出して花屋に連れていかれて一緒にいくつか選んだ。
     見かねて世話をし始めたら、いつの間にかフーゴの部屋の観葉植物の管理は俺ということになってしまった。
     思えば、土が乾くころを見計らってフーゴの部屋に通うようになってから、お互いの部屋に行き来するのが当たり前になってしまった気がする。
     そういえば庭師の息子だったな、俺。などと要らないことを思い出して少し気が滅入った。
    「僕、SNSって向いてないかもしれないって思ったんだけど」
     何も無くなった自分のホーム画面を眺めて、自分で消したもののそれはそれで寂しく、居なくならない、死なない、変化が少なくて愛着の湧きやすいものをと考えて何となく掃除機の写真を撮り始めたら意外に続いたらしい。
     SNSを続けるために写真を撮るのって本末転倒ってヤツじゃあないのかと思ったけど、俺はそういうのをまったくやらないから黙っていた。
    「帰ってくると床がピカピカなのが気持ち良くて」
    「うん」
    「でもそんなに高機能でもないからたまに止まっちゃったりもするんだけど、そういうのが可愛かったりして……壊れたら辛くなるのかな」
     何となくフーゴが恐れていることの全体像が掴めた気がした。そう簡単に代わりが利かないんだ。誰だってそうだけど。
     俺が傍にいないとダメかもしれないと思った。俺じゃなくても、フーゴの心に無意識に空いた孔を見つめて一緒にいてくれる誰か。
    「その時は話を聞くよ」
    「話を聞くだけ?」
    「人の膝を枕にしといてよく言う」
     俺の言葉をどう受け取ったのか、フーゴはすっと立ち上がってリビングを出て、しばらくすると寝室からクッションと肌がけのシーツを抱えて戻ってきた。不機嫌でもなさそうだけど、ちょっと口を尖らせている。
    「寝る」
     俺を退かすのかと思いきや、クッションは俺の背中とソファの背もたれの間に挟み、シーツにぬくぬくとくるまって俺の膝に頭を乗せて横になった。
     寝息を立て始めたのを眺めていたらあくびが出て、フーゴの体温でポカポカして瞼が重くなった。気がついたらそのまま1時間くらい寝ていたみたいだ。
     フーゴの少し陽に焼けた鼻の頭をくすぐったらすごく鬱陶しそうに手で払われてしまって、なんだか腹の底から可笑しくなって笑った。
     夏の終わり。秋の祭りがそこかしこで始まる少し前。
     フーゴのわがままにつきあって部屋で過ごすこんな休日も、たまには悪くないと思った。
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