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    aocrワンドロ【相席】【独身最後の夜】

    ##アオチリ
    ##ワンドロ

    気安く話をウッウ飲みするな! すんません。突然で申し訳ないんっスけど、隣いいですか? ……ありがとうございまーす!
     いやあ、ビックリしましたよお。実は僕、ここ来たのは初めて来たんですけど、めちゃくちゃ人気店なんっスね! 一応、休み前だからってのもありそうですけど……え、今日は特別? そーなんっスか? なんかイベントでもあるんです? まあ、って……え、内容はシークレットな感じっスか? ……そうですね、かあー! うわあ、めちゃ気になるー! ま、でも、秘密ならこれ以上追求しても意味ないっスよね。ネタばらしがあるまで、ここに居座ろっかな。

     ……ところで、此処で会ったのも何かの縁ってことで、ちょっと話聞いてもらってもいいっスか? そんなに長くはならないと思うんで。

     僕、この前の異動からここのリーグで働いてるんですけど、まだジムリーダーに会ったことないんっスよね。なんでもめっちゃ忙しい人なんだとか。ま、そーいうことなら、今は宝探しの繁忙期シーズンでもないし、まだ来て数ヶ月程度の僕が直接会えないのはしゃーないかって思ったんですけど……そのあとが衝撃的で。僕、そのこと教えてくれたセンパイに訊いてみたんですよ。「どんな人なんっスかー?」って。そしたら「感情が希薄?で食事が大好きらしい?人」って返ってきたんですけど……なんかめちゃくちゃ自信なさげだったんスよねー。で、僕、それが妙に気になったんで、なんでか訊ねたんっスよ。そしたら、衝撃的なこと言われて。なんだと思います? 「実は俺も直接会ったことなくて、よくわからんのだわ」って、そう言ったんっス! もちろん、僕より全然長くここに居る大センパイっスよ? しかも「たぶん大半がそうじゃないかな」とかも言っちゃうから、僕、もう空いた口が塞がらなくなっちゃいまして。いやだって、有り得なくないっスか? 僕、パルデアじゃない所で育ったんですけど、田舎だとジムリーダーって町の顔って感じだったんで。だから、目立ったことはしてなくても勝手に有名になるイメージがあったんですけど……そんなことあるんだなあって。まあ確かにパルデアのジムリって兼業してる人ばかりだから、そっちの方が有名になることもあるかもなーとは思うんっスけど……うーん、でも、そっちで名前を聞いたこともないらしいんっスよ。マジで謎……ま、いいや。とまあこんな感で、僕の人生で一番驚いた話だったと思います。そんなに長く生きてないっスけど。

     あ、でも、そんなジムリに更に信じらんない噂があるんっスよね。

     まず確認なんっスけど、おじさんってポケモンリーグ四天王の『チリさん』って知ってます? って、ちょ!? 大丈夫っスか?! お、お茶! お茶飲んでください!! ……落ち着きました? よかったー。てか、その反応だと知ってるみたいっスね。なら続けますけど……チリさんって、常にあのオモダカトップの近くにいるからか、世間では知る人ぞ知るくらいの認識じゃないですか? でも、リーグ内では超絶有名な人気者なんですよね。そりゃそーっスよ。黙っていればオモダカさんに負けないくらいめっちゃ美人。じゃあ、喋ると残念なのかって言われたら、全然そんなこともなくて。むしろ、あの独特な喋り方と本人の在り方がめっちゃマッチしてて、うわっカッコえー!って心から思えちゃうんっスよねえ。しかも、バトルはすんげー強い!! 少なくとも僕は彼女が負けるとこは見たことないっスよ。
     それと、おじさんが口硬そうなんで話すんですけど……実は僕、リーグ本部に行った時に一度だけ声をかけられたことあって。そのときは仕事関係でトラブルがあってちょーっと落ち込んでたんっスよ。そしたら、たまたまチリさんが僕の前を通って。で、そのときにチリさん、会ったこともない僕に「なんや兄ちゃん顔暗いけど、大丈夫か? 無理せんようになー」って明るく声かけてくれて! マジでめっちゃいい人過ぎません?! ま、とにかくそんな素敵な人なんで、リーグ本部内で魅力を感じていない人はいないんじゃないかなってくらい人気者なんっス。
     で、噂に戻るんですけど……なんと、そんなにも魅力的なチリさんに、ここのジムリーダーだけは唯一絶対靡かなかったそうなんです! ……て、おじさん大丈夫? なんか急に動かなくなりましたけど……え、気にしないでください、っスか? はあ、じゃあ続けますけど……さっきも話した通り、ここのジムリが謎に包まれていることも相まってか、どうもめちゃくちゃ人付き合いが苦手っつー別の噂もあるんです。で、それを知った心優しいチリさんは、仕事しづらくならないようにって、その人と仲良くなるために何度も話しかけたことがあるらしいんっスよ。でも、何度話しかけてもゴーストタイプにたいあたりって感じで、効果はなかったようなんですよね。けど、チリさんはめげずにジムリに会う度必ず話しかけていたみたいなんですけど、やっぱり進展はなかったそうで。いやあ、チリさんから何度も話しかけられるとか、正直羨まけしから……いや、何でもないっス。とにかく、もうずっとそんな感じだったらしいんで、いつの間にかここのジムリに『絶世の美人に絶対好感度を上げなかった人』として密かにレジェンド扱いされているんっス。
     ……ん? それで、って? いや、話はこれで終わりっスよ? 『万人に愛されるチリさんに唯一絶対振り向かない人』って話なんで……ああそうですか、って。え、あの、おじさん、どうしました、口抑えて……? あと、肩も震えてますけど。もしかしてなんか調子悪いっスか? 店員さん呼びます? え、そうじゃない? じゃあ、なんなんっスか?! ちょっと、おじさん? おじさーん?

    「兄ちゃん。その人、『おじさん』やなくて『アオキさん』な?」

     突然背後から声をかけられ、青年の肩はビクッと跳ねる。聞き覚えのあるアルト。気のせいでなければ、まさに目の前の壮年の男性に話した内容に出てきた人物のものだ。いや、でも、まさかここに居るはずが——。青年は、ギ、ギ、ギ、と油を刺し忘れたギアルのように振り返る。
    「どないした?」
    「う、うわあっ!?」
     やっぱりチリさんだ!!——そう脳が同時に叫んだ瞬間、青年は勢いよく席から飛び退いた。
    「アッハッハ! 自分、バネブーみたいやな!」
     手を叩きながら大口を開けて笑うチリ。そんな愉快で豪快な姿には、やはり可憐さや繊細さは一切感じられない。にも関わらず、浮かべられている笑顔は絵画のように整って美しく、思わずグッと惹きつけられてしまう。バクン、バクン。先程から心臓がゴリランダーが太鼓を叩くがごとく煩い。当然、収まる気配はない。
    (ええっと、その、こ、この後はどうすれば……い、いや、それよりも、そもそも何故チリがこんな平社員の自分の目の前に——?)
    「あ、あの! え、えぇと、その……し、失礼ですが、どうしてこちらに?」
    「ん? あれ、自分もしかして何も聞いとらんの?」
    「聞いてない、とは……?」
     青年は控えめに首を傾げる。と、チリは今度はしなやかな手を額に当てて、はああ、と息を吐く。
    「アオキさーん、ちゃあんと事前に説明しとく言うてましたやん? どういうことー?」
    「そんな目を向けんでください。宣言通りきちんと説明はしてありましたよ。お店には」
    「……もしかして、お客さんには何も言うとらんのです?」
    「お世話になっている方や常連さんには伝えてあります」
    「あーあーそういうことですか! チリちゃん賢いんでぜーんぶまるっと理解しました! もーせやから貸切にしましょ言いましたやん!」
    「これは流石に想定外過ぎますよ」
    「あ、あの!」
    「はい?」「ん?」
    「重ねて訊いて申し訳ないんですが、その……お二人は知り合い……なんですか?」
     勝手に話を進める二人を、青年は浮かんだ疑問で止める。と、チリが、にんまり、と笑みを浮かべた。見たことのない顔だ。
    「兄ちゃん、最近ここに来た人やな?」
    「は、はい。そうです、けど」
    「なら、聞いて驚くなはれ」
    「はい……?」
    「この人、ここのジムリーダー」
    「……はい?!」
     青年は何度も瞬きをする。が、視界が開ければ、やっぱりチリの指は相席していたおじさんを指し示している。
    「……マジ?」
    「マジやで」
    「申し遅れました。わたくし、アオキと申します。僭越ながら、チャンプルジムのジムリーダーをやらせていただいております」
    「おーおー営業の人らしいなあ」
    「営業の人なんですけど」
    「え、まさかリーグの営業もやってるんですか……?」
    「まあ」
    「成績悪いけどな」
    「お黙りいただいても?」
    「あと、四天王もやっとるよ」
    「し、て……はああっ?!」
    「お、ネタバレ叫ばんかったな。偉いでー」
     パチパチと軽く手を叩くチリと「チリさんが伝えなければよかったのでは?」と眉を顰めるアオキ。否定がないということは、本当にそうなのだろう。ジムリーダーに営業に四天王……そんな三足の草鞋を履けるなんて、一体何者なのだろうか。いや、それより今気になるのはチリの方だ。気のせいでなければ何故かチリが自慢げにしている。理由が全く見当つかないのだが。
    「つーわけで、単なる知り合いどころか一蓮托生の深〜い関係のある仲間って感じなんやわ。ま、明日からはそれだけやなくなるんやけど!」
    「と、言うのは?」
    「この人とチリちゃん、夫婦になりまーす♡」
     チリ青年が先ほどまでいた席に座ったかと思えば、サッとアオキと肩を組み、グッと引き寄せる。続けて、パチン、と片目を閉じ、青年に顔を向けて真っ赤なハートを一つ投げた。もちろん比喩だが。
     え、流石にこれは嘘だろ……? いや、でも、仮にこれが本当だとしたら、さっきまでのチリの態度の辻褄が合う。青年はアオキを見る。彼は否定するどころか、チリのスキンシップに満更でもなさそうにしていた。
     よって、青年は理解する。これは真である、と。
    「……もう叫ぶ気力もないっスわ」
    「ナハハ!」
    「いや、笑い事でもないんっスけど……ま、いいや。それで、アオキさんとチリさんは独身最後のデートでここに二人で食事に来たと」
    「いんや、ちゃうよ?」
    「え?」
    「いえ、その……実は、今日は独身最後ということなので、ここ宝食堂の方々が自分を祝いたいと言い出しまして」
    「まさか人が多かった理由って……」
    「まあ、そういうことです」
    「何で貸切にしなかったんですかあっ?!」
    「そうやそうや! もっと言うてやって!」
    「その、通常営業の邪魔はしたくなかったと言いますか。貸切にすることで店の利益が減ったら嫌だったと言いますか。まあ、まさか自分のためにここまで人が集まるとは思ってなかったとも言えますが」
    「ド阿呆ぅ! アオキさんがこの町にどんだけ愛されとるか知らんのか!」
    「それに、自分は自分の気に入った店をこのような理由で独り占めしたくはなかったです」
    「はーそういうとこ! そういう『意外と自分の好きなものは共有したい派』なとこ、ごっつ好きやで!」
    「それと、まさか自分と初対面の方がこんなにも熱心に話してくれるとは思っとらんかったです」
    「それは、すみません……僕、そんなに長く話すつもりなかったんですけど、おじ……アオキさん、話聞くのがめっちゃ上手だったんで、つい」
    「そうなんよなー! アオキさん、意外と話しやすいんよなー」
    「で、あとは……」
     続け様につらつらと理由を話していくアオキ。それをチリと二人で聞いていく。にしても、先ほどからチリが横から何度も言葉を挟んでいるが、どう捉えても全て惚気ばかり。何なんだ。アオキもアオキだ。こういったことに慣れているのか、ずっとチリのツッコミを平然と受け流し続けている。何なのだ。
    「最後に、滅多に店を閉じない宝食堂を貸切にしたことで、この町に関わる変な噂が流れてしまうのを防ぎたかったんです」
    「それは余程大丈夫やと思うけど……ま、アオキさん、この町のこと大好きやもんな」
     うんうんとチリが首を縦に振る。噂、なあ。確かに好きなものに想定外の噂がつくのは嫌である。うん。

     ——ん? 噂?

    「あ!! そうだ、噂!! 大っ変失礼いたしましたっ!!!!」
     勢いよくアオキに頭を下げる青年。すぐさま、ああ、という渋いテノールが頭上から聞こえた。
    「いえ、そんな気にせんでも」
    「いや、ダメっス! 正直めっちゃ失礼なこと言ってましたし!」
    「なんや、失礼なことって?」
     チリの声の音程が僅かに下がる。結構怖い。
    「ええーと、その……『ここのジムリはチリさんの猛アタックにも一切靡かなかったレンジェンド』と」
    「だそうです」
    「……プハッ! なんやそれ! レジェンドって! ごっつおもろ過ぎるやろ!!」
     表情も動作も全く変わらないアオキと、大袈裟なほど腹を抱えて涙を流し笑うチリ。そんな正反対な二人を青年はおろおろと交互に見る。
    「それに、あながち間違いじゃなかったですし」
    「んふっ、せやね」
    「……へ?」
     青年は動きを止め、アオキとチリとを見つめる。二人は互いに見つめ合うと、ふ、と同時に目元を和らげた。
    「何度もアタックされたのは本当です」
    「アオキさん、マジで全然チリちゃんのこと相手にしてくれへんのやもん。気さくで美人さんでそれなりに人気者やのに」
    「あのときの貴女はリーグ内の評価にかなり調子乗っていたのもあって、自分からしてみたらお近づきは真平ごめんだったんですよ」
    「しゃーないやないですか。マジでちょっと話せば誰とでも仲良くなれたんやから。アオキさんが初めてやったんです。わかりやすく面倒なんで話しかけないでくださいって態度を出した人」
    「なので、気遣いではなく興味本位でたくさん話しかけられましたね」
    「そしたら、アオキさんのいいとこ気付いちゃったチリちゃんがマジになっちゃってなあ」
    「で、更に攻撃はヒートアップと」
    「でも全然効かへんかった」
    「……実は効いてたから、今に至るのですが」
    「ふふ、せやね。でも側から見たら、アオキさんのうっすい変化なんてわかりまへんって」
    「そうですかね?」
    「そうですよー」
     心地の良いテンポでにこやかに話す二人。きっと当時を思い出しているのだろう。とても和やかで優しくあたたかな眼差しで互いを見ている。
    「とにかく、ひのこがないところには煙はたちませんから。ある意味間違とらん話でしたので、自分は全く気にしとらんですし、貴方も気にせんでください」
     そう告げてアオキはこの話を終わらせようとした。が、
    「いえ、むしろ改めてきちんと謝らせてください。だって本当は『しっかりチリさんに向き合って、幸せを与えた』んですから」
     すみませんでした、と青年は先程よりも幾分か穏やかに低頭する。と、チリが「おおきにな」と呟くのが聞こえた。それは、とびきり甘く、嬉しそうに。今まで聞いたことのない声。けれど、今までのどんな時よりも心があたたまる彼女の幸福な声だった。
    「さて、そろそろ切り上げて本来の目的を果たしましょうか」
    「せやな!」
    「あの、僕はまだここにいていいんっスか?」
    「もちろん」
    「おん。むしろ、兄ちゃんさえ良けりゃあリーグ代表としておったってやー」
    「そんな身に余る思いですけど、お二人がいいなら是非!」
    「よっしゃ! ほな……おばちゃん、お待たせ! あと、今日集まってくれた皆んな、一旦注目!!」
     よく通る声に加えてチリが、パンパン!、と二度大きく手を鳴らすと、ザワザワとしていた店の中が徐々に静まっていき、言われた通り皆がチリを見る。ついに始まるという期待をみせたり、なんだなんだとよくわかっていなかったりと、様々な眼差しを携えて。
    「耳をダイオウドウにして聞きぃや! チリちゃんの隣に座っとるこの人、アオキって言うんやけど、この度めでたく結婚が決まりました! 相手は……なんと、このチリちゃんやでー! 驚いた? せやろ? いやー、まさにその反応を求めとってん。嬉しいわー! ……やなくて、とにかく知り合いも初めましての人も、せっかくの縁や! アオキさんの独身最後の日、よかったら盛大に祝ったってなー!!」
     チリが高らかに告げると、おめでとう!!、という大きな歓声とともに大拍手がおこった。
     しばらくして、少し様子が落ち着くといろいろな人がアオキや時々チリの席に来て祝っていく。それを二人は心から嬉しいという気持ちを込めた最高の笑みを浮かべて受け止めていた。


    (いいなぁ)
    (正直、最初はなんでこのおっさんって思ったけど、)
    (……うん、めっちゃくちゃお似合いじゃないっスか)
    (今日、ここに来てホントよかった)

     めでたし、めでた

    (……あ、でも流石にもうこんな出来事はこりごりっス)
     ならば、心に書き留めておくことは、唯ひとつ。

     気安く話をウッウ飲みするな!
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