Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    alshiki

    シキです

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    alshiki

    ☆quiet follow

    どんな冒険が待ち受けてるかも知らず、黄金の旅の始まりにどきどきわくわくする、そんなカーシキ(うちよそ)です。
    7.3黄金完結のタイミングで振り返ってみたら、なんだか可愛らしいなって。

    昨年、あくやくさんの誕生日に書いたもの。

    #カーシキ

    【カーシキ】よくばりごはん まだ見ぬ土地に足を運ぼうという時、自然と胸が高鳴る。その気持ちをいつまでも忘れず、感動は新鮮でいて、好奇心のままに未知を切り拓く。彼の歩むその先に待ち受ける様々な出来事は、彼にとってのたくさんの楽しみだ。

    「カーティス、荷物入んない!」

     そんな彼は、冒険が楽しみすぎるあまり出発前からトラブルに見舞われていた。溢れんばかりのナップサックから──いや、既にぼろぼろと中身が溢れている。明らかに入る量を越えた中身が周囲に散らばり、閉じるには到底届かない留め具をぐいぐいと引っ張りながら荷物を押し込もうとしているが、量にも限界があった。

    「減らそう。余計なものが無いか確認するよ」

     荷物パンパン、通称「にもパン」冒険者と同じ顔、同じ声をした男がさっとナップサックを掴み中身を確認しようと引き寄せる。が、引き寄せようとしたその手をにもパン冒険者は掴み引き止めた。

    「まってカーティス」
    「待たないよ」
    「いや、頑張れば入るかもしれないし全部必要なの」
    「シキ、とりあえず必要かどうかを確認しよう」
    「まってぇ~!」

     にもパン冒険者ことシキの制止も虚しく終わる。先程からカーティスと呼ばれている男は、頑張って閉じようとした形跡のあるナップサックを手元に引き寄せ、まじまじと見つめた。

    「……このはみ出てる葉っぱは?」
    「納品で使うやつ」
    「この瓶は?」
    「それも納品で使うやつ……ぜ、全部必要だから!」

     ひとつひとつを指差しで確認しながら、はみ出しているものから順に聞き取りを行う。しょげた顔をしながら応答をするシキとナップサックを交互に見ながら、カーティスは困惑した。

    「薬品も葉っぱも現地のマーケットボードで買えると思うから、もう1回いるものと要らないもの確認しよう」
    「えぇ~?ほんとに?後でも用意できる?途中で必要になって困ることない?」

     まだ聞き取りは見えいてる表層だけに過ぎないが、既にカーティスの中では「明らかに不要なもの」が邪魔になっている認識となった。それらを退けて荷物を減らしていこうと伸ばす手を、再びシキが掴む。

    「途中で必要になったら、やじゃん」
    「困ることはあるかもしれないけど、流石にその量を持ち歩くのは大変だよ」
    「でもぉ」
    「下手したら裂けるかも」
    「裂けたりしないよ?たぶん」

     閉じかけのファスナーを開こうとカーティスが手を伸ばせば、押しのけられ、それを閉じようと引っ張り上げるシキ。

    「そこまで詰め込んだりしてないも゙……」

     どう見てもそれは詰め込みすぎだ。そうツッコミを入れようとしたカーティスが異変に気づく。足掻いていたシキの動きが止まっている。何かを続けようとした口も、あんぐりと開いたままフリーズしていた。その視線の先には、微動だにしないファスナー。原因はコイツだ。動かなくなった割に、メキョメキョと聞いたことのない音を出している。
     バツン!
     手元からの衝撃に瞬間的に両手を上げひっくり返るシキと、弾けたチャックに呆然とするカーティス。呆然としたのも束の間、怪我はないかとシキに視線をやれば、すぐさま起き上がり中身が溢れ出したナップサックに覆い被さっていた。

    「ナンモオキテナイヨ」
    「…………」

     無理のある証拠隠滅を横目に、相手の体をひっくり返してチャックの壊れたナップサックを引き寄せる。壊れた箇所を見てみると、修理でどうにかなりそうな壊れ方はしていた。だが、修理できたととしても……シキのことだ。

    『カーティス~!また荷物パンパンになっちゃった』
     バツン!

     繰り返しチャックを爆発させるだろう。容易に想像がついた。ここは新しいナップサックを用意して、今ある壊れたナップサックから新品に移す過程で、断捨離を進めさせる方が賢いと気付いた。

    「予備を出してくるから、一緒に詰め直そうか」
    「とってきてぇ……」
    「分かった」

     幸いにも、ナップサックには予備があった。日頃から使うものは壊れやすいからと、気を利かせてストックを作っておいたのは他ならないシキ本人だ。新品のナップサックを手渡しつつ、備品のストックが万全であることの感謝を込めて、シキの頭をぽんぽんと撫でた。
     だが、備品のストックが万全であることと、荷物がパンパンになるほどの状態で冒険をするのは訳が違う。旅先で備品のストックが万全である必要はない。困ったときにはギルで解決できるくらい、懐にも余裕はあるはずだ。

    「ん、ありがと」
    「どういたしまして。それじゃ、詰め直そう」
    「しゃーねえ……やるか」

     のそりと起き上がったシキは、手渡された新品を横に広げ、頭をぽりぽりと掻きながら深く息を吐いた。がさごそと壊れた荷物を漁るように手を突っ込み、中身をひとつずつ共有してゆく。

    「ダークマターと、保存の効く道中で食うメシ」
    「うん」
    「ギサールの野菜、ハイコーディアルと錬精薬。あ、使いそびれてた知力の幻薬と……」
    「ストップ」
    「ん゙」
    「使いそびれの幻薬は置いていっても良いかもしれないよ。現地で買えるし、何より新しいものがきっと入手できる」
    「うーん、薬いらないかぁ?いやでも何かの時に使うかもしれない……」

     カーティスは知っている。このにもパン冒険者とはそれなりに一緒の時を過ごしてきたからこそ、知っている。この場合の何かの時は、結局『勿体ないから』という理由で薬を使わないという事を。

    「そういって君、勿体なくて使えないとかなんとか」
    「い゙……や、そんなことないよお」

     心当たりがあるのか、軽々しく答えた割に、黙々と小瓶に入った薬品を荷物の外に出してゆく。口頭はそうでなくとも、行動には素直さが滲む。思わず、口角が緩んだ。

    「ふふ……」
    「ンだよ」
    「なんでもないよ、続けて」
    「? まあいいけど」

     続けて荷物の中身を訪ねれば、先程挙げていた筈のご飯が再び出現した。

    「あれえ?作り置きしてたメシまだ出てきた」
    「ご飯は少しで足りるよ、半分かそれ以下にしよう」
    「でもこれカーティスが作ってくれたやつだし……だめ?」

     作り置きと言っても、ここまでたくさんの量をこの旅で食べ切れるのか。それに、行き先が行き先なだけに、傷まないかどうかも心配になる。しかし、僕が作ってあげたご飯を食べきりたいという、シキの気持ちも無下にはしたくないし、と提案をする。

    「トラルに行く船の中で食べよう」
    「あったまいい!そうしよ。移動中おなかぺこぺこなるし」
    「船の中で食べ切れる量だけ入れるんだよ」
    「じゃあカーティスの作ってくれたメシだけにする」
    「! 分かった」

     数あるご飯の中からでも『カーティスのメシがいちばん美味いから!』とベイクドダークエッグプラントを選んで、詰めていく姿はとても健気で、可愛らしい。口角が緩みっぱなしだ。とはいえ、また荷物が膨らみかけている。僕の作ったご飯をそのまま全部入れようとしているのだ。

    「……もう少し減らした方が」
    「さっきよりかは減ったよ、これでいいじゃん」

     よくはない。食べきれない量を持っていっても腐らせて捨ててしまうだけだし、そうなるくらいなら荷物は軽くしておいたほうが良い。大事にしてくれる気持ちは嬉しいけれど、ここは未来の自分たちのためにと、口を開こうとした瞬間、言葉を被せられた。

    「二人で食べきれなかったら、一緒に行くみんなにお裾分けするの。カーティスの手作りメシだよって、美味しいんだぜ!って」
    「……!」

     量が多めなのを分かっていて、それでいてこの発言。あくどい顔をして「いいでしょ~?」と笑う。この状態で、ダメとは言えそうにない。眉を下げ困っていたが、ニヤニヤと此方を見てくるものだから、つられて笑ってしまう。

    「いいよね?じゃあ決まり!」

     断る術もないまま、勝手に決められてしまうも、不思議と反対する気持ちは湧いてこない。船の中、みんなで楽しむ食事に思いを馳せる。きっと、ご飯を作って良かったと思うのだろう。それもきっと、直ぐに訪れる──。
    そう、直ぐに。はっとして時計を取り出すと、約束していた船の出発時刻まであと少しと、針は急かしてきた。

    「シキ、船の時間がそろそろ……」
    「えっヤバ!」
    「少し減らせたから大丈夫、背負ってごらん」

     ナップサックを閉じて背負わせようとすると、上部の布はくたりとしていて、荷物に余裕があることを伺わせていた。荷物がパンパンでくたびれるということは、なさそうだ。

    「よゆーよゆー」
    「じゃあ出発しよう。カトラリーは僕が持ってるから大丈夫」

     ご飯を詰め込むのに精一杯で、肝心のカトラリーを入れ忘れているのを見逃さず、自分の荷物の隙間に差し込む。そのまま相手の目の前に、立ち上がれるよう手を差し出す。

    「ふはっ、カトラリーなかったじゃん。手づかみで食うとこだった……サンキュ!」

     感謝とともに握られた手。それを頼りに立ち上がる彼は、これから行く新たな土地に期待を膨らませ、目を輝かせていた。待ち受けるは、全く新しい冒険だ。

    「行こ!新しいとこ……トラル大陸!」

     歳にしては無邪気にはしゃぐ、いや……これこそがシキアルシアンなのだと思わせる。こうでなくては。君がそうなら、僕だって。楽しみなんだ。
     一体、どんな土地があって、文化があって。食べ物はどんな味なのか、植生はどうなっているのか。出会いや別れも、あるだろう。一緒に旅をしながら考えることも沢山あるだろう。
     そのすべてが、君と旅するすべてが……楽しみだ。

    「行こう、シキ」


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭❤👏❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    alshiki

    PASTどんな冒険が待ち受けてるかも知らず、黄金の旅の始まりにどきどきわくわくする、そんなカーシキ(うちよそ)です。
    7.3黄金完結のタイミングで振り返ってみたら、なんだか可愛らしいなって。

    昨年、あくやくさんの誕生日に書いたもの。
    【カーシキ】よくばりごはん まだ見ぬ土地に足を運ぼうという時、自然と胸が高鳴る。その気持ちをいつまでも忘れず、感動は新鮮でいて、好奇心のままに未知を切り拓く。彼の歩むその先に待ち受ける様々な出来事は、彼にとってのたくさんの楽しみだ。

    「カーティス、荷物入んない!」

     そんな彼は、冒険が楽しみすぎるあまり出発前からトラブルに見舞われていた。溢れんばかりのナップサックから──いや、既にぼろぼろと中身が溢れている。明らかに入る量を越えた中身が周囲に散らばり、閉じるには到底届かない留め具をぐいぐいと引っ張りながら荷物を押し込もうとしているが、量にも限界があった。

    「減らそう。余計なものが無いか確認するよ」

     荷物パンパン、通称「にもパン」冒険者と同じ顔、同じ声をした男がさっとナップサックを掴み中身を確認しようと引き寄せる。が、引き寄せようとしたその手をにもパン冒険者は掴み引き止めた。
    3930

    related works

    alshiki

    PASTどんな冒険が待ち受けてるかも知らず、黄金の旅の始まりにどきどきわくわくする、そんなカーシキ(うちよそ)です。
    7.3黄金完結のタイミングで振り返ってみたら、なんだか可愛らしいなって。

    昨年、あくやくさんの誕生日に書いたもの。
    【カーシキ】よくばりごはん まだ見ぬ土地に足を運ぼうという時、自然と胸が高鳴る。その気持ちをいつまでも忘れず、感動は新鮮でいて、好奇心のままに未知を切り拓く。彼の歩むその先に待ち受ける様々な出来事は、彼にとってのたくさんの楽しみだ。

    「カーティス、荷物入んない!」

     そんな彼は、冒険が楽しみすぎるあまり出発前からトラブルに見舞われていた。溢れんばかりのナップサックから──いや、既にぼろぼろと中身が溢れている。明らかに入る量を越えた中身が周囲に散らばり、閉じるには到底届かない留め具をぐいぐいと引っ張りながら荷物を押し込もうとしているが、量にも限界があった。

    「減らそう。余計なものが無いか確認するよ」

     荷物パンパン、通称「にもパン」冒険者と同じ顔、同じ声をした男がさっとナップサックを掴み中身を確認しようと引き寄せる。が、引き寄せようとしたその手をにもパン冒険者は掴み引き止めた。
    3930

    recommended works