Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    mitsu_ame

    @mitsu_ame

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💟 🌸 🔆 🐣
    POIPOI 66

    mitsu_ame

    ☆quiet follow

    ジョーチェリと忠愛のD/sユニバース。
    南城と愛抱夢がDom、薫さんと忠がsub。
    お互いがどう見えてるのか的解釈の短いのよっつ。

    D/sユニバースのジョーチェリ&忠愛.


    『桜屋敷から見た菊池』

    「どうぞ」
    差し出されたのはやわらかな乾いた布が一枚。
    自分が乗り回すのみが大前提、獣に蹂躙されるなど考えていなかった愛機(カーラ)をひとまずアルコール除菌シートで拭きあげていた時だ。
    「あぁ、どうも……」
    どうにも気の抜けた返事になったのは、普段通りの振舞いと社会人の皮を被った対応、どちらを取るべきか距離を測りかねたからだ。雇い主ならまだしも秘書自身の人となりなど全く知らない。ボードに乗る方の愚か者であるのさえつい最近知った。
    受け取った布で以て乾拭きする。終わったところでまた手が差し出され布は返却。流れるような手業はなるほど他者の振る舞いに合わすのに慣れている。礼を言う。会釈。
    「……」
    「…………」
    沈黙。
    追加の料理が出来たと告げるゴリラの鳴き声、子供たちのはしゃぐ声、ほどほどにしてくれと場所を提供した店主の言。他。それらがより、この半径1メートルの静寂を補強した。
    「……ヘリまで操縦するなんて、議員秘書ともなるとマルチですね」
    急ごしらえの外面で話しかける。にこやかに告げたのへ、謙遜の笑みも、傲慢な肯定さえ返らない。ただ、淡々とした言葉と表情だけが表に出る。
    「えぇ、まぁ、……必要かと」
    ――議員秘書に回転翼事業用操縦士及び航空特殊無線技士資格が必要で堪るか。求人内容見せてみろ。
    「それは……求められるハードルが高い」
    まぁいい。ひとまず喋らせておけ。短絡な結論付けで、普段使いの万能な社交で乗り切ろうとしたのがよくなかった。
    「あ、いえ……その、必要かと思って自分が勝手に揃えていただけです。……うまく使っていただけて幸いです」

    ――……心底。心底幸せそうに、頬など染めて見せるので。

    なんて危なっかしいsubなのか。カムアウトされたでもなくダイナミクスを決めてかかるのは品がない。が、これでsubでないなら余計に始末が悪い。
    表面上「なるほど」と微笑んで見せたのへ、菊池は気が緩んだのかあれやこれや資格技能をぽつぽつ並べた。「必要かと」で勝手に仕込んでおいて陽の目を浴びたものたち。そうでないものが恐らくごまんとある。
    きっとこの男はこんな風に、ありとあらゆるものを愛抱夢のためにと整え歪ませていくんだろう。独り勝手に知らぬ間に、奴の人生に馴染むように。
    こんな、自己中心的で依存体質のsubのコントロールをせねばならないDomなんて。
    あぁ、聞くんじゃなかった。後悔先に立たず。否。愛抱夢は承知の上で、こんなのを側に置いたのだろうか。しかしこれ以上藪をつついたらそれこそ大蛇に脅かされる。薫はそぅっと、厄介な気配に目を瞑った。



    『愛抱夢から見た南城』

    「チェリーがsubだとは思わなかったな」

    言葉は猛虎の縄張りを侵すに十分だった。今宵も盛況クレイジーロックの熱狂の間隙、愛抱夢がそよ風程度に送ったつもりのそれへ、虎次郎の反応は苛烈に弾けた。「あ?」と低く、小さく、尋ねてくるのに、ギィ……と唇の端を持ち上げてしまう。
    「おぉこわい。尻尾でも踏んだかな?」
    茶化す声にも毛を逆立てるような警戒を示す。余裕のないことで。
    「お前が突拍子もないこと言うからだろ」
    「そうかい? 僕達の貴重な共通の話題じゃないか」
    オォォ、会話を裂く喧騒の高波。目前の巨大スクリーンに映るcherry blossomが派手にトリックをメイクしたことによるものだ。効率重視の彼にしては珍しい。今夜のお相手はMIYAだから見て覚えてやってみろなんて具合か。そういう案外泥臭いところは変わっていない。
    「……昔はそんなこと話さなかった」
    「へぇ。発現していなかったわけじゃないのか」
    ぴくりと眉が動く。明確な動揺の証。そんなチャーミングな太い眉、目立つのだから自制すべきだね。
    「なんでそうなる?」
    「どうして分かったんだと思う?」
    またぴくり。質問に質問で返されると苛っとクる。分かるよ。

    事実、学生時代三人の間にダイナミクスの話題が上がることはなかった。それより優先されるトリックやスケーター、ボード用品――それらに伴う多くの楽しみがあったことも勿論大きい。しかしそも、チェリーにsubらしさが欠片もなかった。Domの性のにおいを隠す風もなかったジョーの隣に在ってそれは異質だ。
    単に発現の度合いが弱かったのか、こちらの見る目が変わったのか、それとも。いずれにせよ探られては痛い胎がジョーにはあるらしい。
    ばかだなと思う。それで他人のDom(ぼく)に牙剥くくらいなら、もっと他にやることがあるだろうに。
    そう。例えば名実共にチェリーを自分のものにするだとか。あのチェリーが自ら首輪に掛かりにいくワケもない。ウチの駄犬じゃあるまいし。



    『菊池から見た桜屋敷』

    県議会が協賛した芸術展の目玉作品を納めたのは、主人の既知の人物だった。地元出身のアーティストが多くを占めていた展覧会に挨拶回りは欠かせず、その役割の一端は忠の――否、神道愛之介議員秘書の担うところだった。
    通り一遍の挨拶を揃って余所行きの態度でこなし「どうぞ楽に」と促されたが、それはどちらかと言えば発言した側のための言葉だったろう。多少砕けた口調で桜屋敷は「そちらもご苦労なことで」と笑った。
    「中央の政治家といっても地元はないがしろにできないとは」
    「まぁ、県議会にはこちらも色々都合を付けてもらっている立場ですから」
    「地縁というのも厄介だな」
    それはそうだ。政治家にとってそれは強力な後ろ盾であるとともに、土地から離れえぬ楔になる。地元基盤が強靭な神道家筋ならば余計に。
    「私は愛之介様のご意向の沿うだけなので。……地縁と言うならばそちらも似たようなものでは?」
    なにせ地元ゆかりというために今回の展示オファーをこの守銭奴――やはり主人の既知の人物の言だ――が破格で請けている。
    「そうは言っても自由業だからな。どこでも、まぁどうとでもなる」
    貴方と、貴方の隣に在る人と。どちらを指しているのか。直前の己の思考に引っ張られて穿った見方をする。
    仕事中、カラーは外す決まりだ。自由なそこが薄ら寒く感じた。あちらも首元にはなんの装飾もない。
    今は、なのか。いつも、なのか。それを忠が知るはずもなく。
    自らの空っぽの首に触れる。心許ない。
    「……あんまり自由なのは不安ではありませんか」
    疑問は、思わず忠の口を衝いていた。
    ハッとする。仕草と問いはあからさまに同じ立場の者へ向けたたぐいだ。しかしお互いのダイナミクスの有り様を、察し合ってはいてもはっきりと表明したことはない。
    案の定、桜屋敷はきょとんとした顔をして忠の首元を見ている。
    「いえ、差し出がましい事を」
    「なるさ」
    存外あっさりと、桜屋敷は肯定した。
    「なるに決まってる」
    不安を口にしたとは到底思えないほど不遜かつあっけらかんとした態度とは裏腹に、口調は苦々しい。
    「あれ程フラフラしてたって、どうせアイツは俺のところに帰ってくるのに……そういう、絶対に自分のものにならないDomにこそ執着する性悪なのが居るからな」
    「…………」
    それは貴方もその『性悪』の一端なのでは? 忠は喉元まで迫り上がった言葉をなんとか腹に落とした。

    俺のところに帰るとは言っても、俺のものだとは言い切らない、貴方こそ、と。



    『南城からみた愛抱夢』

    カウンターを挟んであちらとこちら、同じものを飲み食いしているはずだが、今夜の愛抱夢は少々酔いが回るのが早く見える。疲れているのだろう。
    先程から話題はあちこちに飛ぶ。まぁ別に構わない。虎次郎は本来頭のいい人間が酒で支離滅裂な話をするのに慣れていた。
    「僕は別に、あいつに首輪を巻くつもりなんてなかったんだ」
    「んン?」
    ダイナミクスのことまで持ち出して。言葉に詰まる虎次郎を余所に、愛抱夢はアルコールの回ったボンヤリした口調で続けた。
    「いつでも出て行ける檻にいたくせにいつまでも居座って、それで僕に腹なんて見せるから。だから括って繋げてやったんだ」
    僕が望んだんじゃない。愛抱夢はついには下を向いてそう唸るように言った。
    なるほどね。どっか行くのも、繋がれてんのも、どっちも相手の方だと思っているのか。
    「逆じゃねぇ?」
    「は?」
    「犬って主人のニオイちゃんと憶えるだろ。お前がどっか行っても、あの人いつまでもどこまでも追っかけてくるんじゃねぇの」
    散歩用のリードを咥えて飼い主を追いかけまわす犬の動画を思い起こす。
    おさんぽ。ならば、かわいいもの。ただ、大の大人が、人生の行く末抱えて追い詰めてくるってのはあまりのどかでない。
    「……君はたまに賢そうなことを言う」
    「お前それ褒めてねぇからな」
    オーダーストップを考えていたワインをグラスに並々注いでやる。せいぜい酔いつぶれろ。それで犬に抱えられて檻でもどこでも帰るといい。


    .
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator