そうしてつま先は同じ方向を向くラケットバックを担ぎ手塚は青春学園テニス部の部室を後にした。卒業式後であってもこの場所で感傷に浸る程の未練などなかった。全てをやり終えた自分にとって、この場所は良い思い出となって記憶として残り続けるのだろう。
感傷に浸る時間も惜しいと足早になっていたのには理由がある。
時を同じくして卒業式を迎えたあの男──跡部へ日本を発つ前に話がしたかった。越前との試合は有意義なものではあったものの完全に想定外であった。
携帯電話を開いて時間を確認してみればもう昼を過ぎている。
跡部とは会う約束をしていた訳では無いが会えるつもりでいた。
登録された名前を見つけ発信する。鼓膜に入り込む無機質なコール音は焦りとは裏腹に直ぐに鳴り止んだ。
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