「なぁ、最近の悩みっちゃ悩みなんだけどよ……お、すげー長いミミズ」
「悩みなら聞くぞ?……そいつはここの畑の王ミミズだ。返してやってくれ」
「あー、うん……ミミズ王じゃないか?王ミミズだとミミズの種類みたいだぞ」
オロルンとイファは、炎天下の中、畑の雑草を2人で抜きながら器用に2個の会話をしていた。
「ミミズは畑を耕してくれるからな。王様だ。王ミミズだ。よしそろそろ休憩しよう」
オロルンが後半のたいして内容の無い会話を選んで答えたあと、立ち上がり首に巻いていたタオルで汗を拭う。
「…納得いかねぇ」
イファは会話の内容になのか、ミミズに王をつける場所の事なのか、そう呟いてオロルンの後ろをついて行った。
「あぢー水くれ水」
「今汲んでくるから適当に座って待っててくれ」
そう言ってオロルンは部屋の奥へと消えた。残されたイファは手を洗い、床においてある大きめのクッションへともたれ掛かった。近くにあった手ごろな大きさの丸いクッションを抱いて。
「ふふ、そのクッションカクークに似てるだろ」
「概念過ぎるだろ。ただのピンクのクッションじゃないか?」
摘んでくるくると回してみせる。
「はい水。…で?悩みってなんだ?」
「んー…カクークの事なんだけどよ」
そのカクーク色のクッションに顎を乗せて口をとがらせる。
「最近妙に突進してくるんだ」
「突進?それは…あれか、ライノに影響を受けてしまったのだろうか」
「いやそれは無い…だろ…」
少し自信がないイファの語尾が小さくなる。
当のカクークはこの炎天下では辛いだろうとムアラニ達が水遊びに連れ出してくれていた。
「どんな時に突進してくるんだ?」
オロルンはぐび、と一口水を飲んであぐらをかいて座る。
「…暇さえあれば。急に鳩尾にぶつかられると痛いからやめてくれって言っても聞かないんだよ」
クッションにもたれ体育座りで眉毛を寄せる。
「うん…そうだな、今迎えに行く時にカクークから直接話を聞いてみようか。イファがいない方が良いのかもしれないし。」
「あー、悪い。」
「いいよ。じゃ行ってくる」
ドアを開けて出ていくオロルンに行ってらっしゃいの意味を込めて手を振った。
◆
何分経ったか。いつの間にかそのまま眠ってしまっていたようだ。
ドアを開ける音で顔を上げると、そこにはオロルンとカクークがいた。
「ただいま、イファ。」
「イファ!ただいま!」
「ほら、カクーク、さっき言った通りにやってみるんだ」
俺は座ったまま事の成り行きを見守っていた。
カクークはキリっと、人間で言えば眉のあたりを上げてふん、と息を鳴らしゆっくりふわふわとこちらへ飛んできた。
そしてそのまま。
ぽふり。
「…カクーク?」
胸元に顔を埋めたカクークをどうすればよいのか分からずオロルンをみるとうんうんと頷いている。そして腕を広げて包むように閉じた。
「…あ、そういうことか」
ゆっくり、胸に埋まっているカクークを両腕で包み込む。
するとカクークの足が一瞬ピンと伸びて、ぷるぷると体を震わせた。
くるんと見上げてきた顔は喜びに満ちていて幸せそうに微笑んでいる。
「イファ!イファ大好き!」
「おま…カクーク…はぁーなんだよそれー可愛いなーおいー」
すりすりと顔を寄せるとカクークもグイと身を寄せてきた。
そのまま幸せを堪能していたところにオロルンが教えてくれる。
「カチーナ、ムアラニ、僕、イファの名前が出てきたからもしかしてと思ったんだが正解だったようだ。よかった。」
「そ、それだけでわかったのかよ…」
グリグリと押し付けられるカクークの頭をこれでもかと撫でながら感嘆する。
「もちろんカクークにあっているか本当に抱きしめさせてもらった。でもよくカチーナとムアラニは抱きしめ合っているし、そう考えると僕もイファにはいつもしたいと思っているから」
「…よくもまぁ恥ずかしげもなく言えるなそんな事」
そんな会話をしていたら、ぷうぷうと小さな寝息が聞こえてきた。
「安心したんだろう。可愛いな」
「ほんとな。全く心配かけさせやがって」
うりうりと優しく頬を揉む。
すると目の端に何か見えた。
「…何してる?」
「いや、僕はほらいつもしたいから」
両手を広げて待っている。…待たれている。
「したきゃすればいいだろ」
「君から来てくれるのが良いんじゃないか」
それが恥ずかしいからいつも待ってるのに何を言い出すのか。
隣に座りこちらを向いてイクトミ竜のように両手を広げて。
「…はぁ」
半ば投げやりに、そのままカクークを抱っこしたままオロルンの胸元目指して横に倒れた
「満足か…わ、苦しっ」
「大満足だ」
笑顔で、両手で包まれて。
「ん、お前…なんだよ早くなってんじゃねぇか」
「君と触れ合うときはいつもそうだよ」
「…恥ずかしいやつ」
そんなイファの早い鼓動を子守唄にカクークはさらに深い眠りに落ちた。