「ねぇ、これ何どうやって着る訳ただの布じゃない」
そう文句を垂れるタルタリヤはまだ上半身が裸の状態で
「袖を通す所くらいはわかるだろう」
しゅっしゅっと布が擦れる音をたてながら手慣れた手付きで自分の着付けを済ませていく鍾離。
「オレのとこの文化ではこんな薄着ないのもー浴衣着たいって言ったのは先生なんだからちゃんと教えてくれないと困るよ」
なんとか袖を通してみても、前をどう合わせるのかがわからない。
そんな狼狽える姿を見て、微笑む姿がなんとも綺麗で、
「では、次は公子殿の番だな。」
と近付いてくる事に戸惑いを感じる。
目の前に立ち、するりと布を合わせていく鍾離の睫に気をとられていると、ふと、普段は隠れている鎖骨が目に入る。
それがなんだかいけないことのような気がして慌てて視線を反らしても
「こら、公子殿。動いたら着れないだろう。」
と怒られてしまった。
「下を脱いでくれるか」
「はぁ」
唐突な露骨な言葉に驚きを隠せないが、すぐに浴衣を着るためだからと思い出し平静を装う。
「ほら、見ないから。」
と視線を反らされ逆にこちらとしては良くない方に考えそうになるのを必死にこらえて言う通りにした。
「ん。では次は帯だな。ここを持っていてくれ」
ここまでは良かった。
「…ねぇ、先生」
かれこれ何分経ったろうか。未だ先程と同じ姿勢をとらされ続けており流石に腕が疲れてきた。
ふむ、と一度体から離れて考えているが結論としては『人に着せたことがないから』だった。
「よし、後ろにまわろう。」
「え」
それはもしかすると、と思った直後にふわ、と鍾離の顔が肩に乗る。
正直、これはちょっとヤバい。
そう思い浮かんではこれから出掛けるのにとか、せっかく着たのにとか、色々と言い訳を必死に考えてなんとか心を無にする。
「よし、出来たぞ公子殿」
ふふん、とまるで自慢をするような、嬉しそうな声を出してやっと離れてくれた事に安堵する。
「ん、似合うな。」
と、ふわりとした笑みに、何度でも見とれてしまう。
「ね、ねぇ。先生。ちょっと、さ。同じことしてみても良い」
意図がわからず小首をかしげるが否定もされないのでおずおずと背後にまわり、抱き締める。
「こ、公子殿…」
薄い。普段着ている物よりも格段と身体に近い。
腰が細い。改めて感じる。
「ねぇ、同じ気持ちになった」
少し、意地悪な質問をしてみた。
「何がだ」
そう答えた声には明らかに熱が籠っており、見えないのを良いことにほくそ笑む。
するり、とせっかく結ばれている帯に手を伸ばすと「こら」と止められてしまった。
「いつなら良いこんな脱がせやすい服着られてさ、オレ堪えられないんだけど。」
「ん、…一緒に」
真っ赤な耳が見える。
「…花火を見たいんだ。公子殿と。だから、それまでは…」
心臓がきゅっと絞められる感覚。
はぁとため息をついて強く抱き締める。
「煽らないでくれるかな…頼むから…」
「そんなつもりは無い。」
ぴしり、と否定されるがそんなことを言われても認められないから困る。
可愛いなぁ、と危なく声に出そうになるのを何とか堪えて、
「じゃ行こっか。せーんせ」
この後の熱い夜を楽しみに、今は鍾離の希望を叶えてやることにした。