「愛してるよゲームというものを知っているか公子殿」
急にジャブで横っ腹を殴られる感覚と言うかなんと言うか
「何て言ったの先生?」
一言一句聞こえていたけど一言一句聞き逃した体で聞き返した。
「あの詩人がな、巷ではそのようなものが流行りであるから凡人になるためにはやっておいた方が良いのではと言うものでな」
「うーん…」
凡人でありたいが為に騙されやすくなっているこの男を心配している自分と、
そんな騙されやすい男に騙されてやってこのまま楽しもうと思う自分と
比べるまでもなく後者が勝った。
「愛してるよ、先生」
「愛している」
まだ無表情。
「先生が戦ってる姿なんてゾクゾクするくらい愛してる」
無表情。徐々に近付いてきている気がする。
「あと寝起きが弱い所も愛してる…ってちょっ…!?」
近い。
「何々!? 愛してるゲームしたいって言ったのそっちだよね!? 近い近い!!」
「綺麗だ」
「はい?」
鼻がくっついてしまいそうな距離で唐突にそんな言葉を言われて危うく赤面してしまうところだった。
「その、瑠璃色の瞳。こんなに綺麗だったなんてな。なぜ今まで気付かなかったのか」
この男は無表情のままなんと言うことを言うのか。
「へっいやあの…えーっと…あ、ありがとう?」
へらへらと笑いながらどうにか気をそらそうとするがどうにも距離を離してくれない。
「とりあえず離れよっか先生。ゲームになんないよね?」
そしてやっと離れたその顔は少し残念そうで、
「ふむ、やはり俺にはこのような遊楽は苦手だ」
「そういう問題?」
悩むように口許に手を持っていくが、
「…少し趣向を変えよう」
「楽しんでるよね?」
隠れた口許は少し笑っているように見えた。
「もう少し簡易な言い方をしてみてくれ」
キラキラと、好奇心しかないような顔に気圧されつつも、乗り掛かった舟でありある種の義務感が生まれていた。
頭を掻きつつ下を向きながら
「…好きだよ先生…とか?」
と言って顔をあげてみるとそこには背中があった。
「あれ」
「ん、よしありがとう公子殿、それではお開きにしようか」
「ちょっとちょっと待ってよそっちからふってきてそれはなくない?」
そそくさと出ていこうとするこの男を逃すまいとドアノブに伸ばされた手を上から包み込む。
「ねぇ、好き。先生の事が大好きなんだ…先生は?」
耳元でそう告げると腕の中にいる愛おしい人が少し小さくなる。
勝敗なんてもうどうでもよくて、
「ん…その、好いてはいるが、なんと言うか…もうやめにしないか」
今、この時間を愉しみたかった。
「イヤだね、先生が降参って言うまで続けてやる」
「意地悪だな、公子殿…」
今更わかったの? と、イタズラに笑ながら、その男の唇を奪った。
結局、降参と言われなかったので朝までしっかりと楽しんだのだかそれはまた別の話。