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    ロトス

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    空ベドとベドベドの漫画、絵、小説を溜めていくところ。pixivに出さないやつもあります。

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    ロトス

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    アルベドくんとクレーちゃんのお話まとめ

    1. 兄

    子供は苦手だ。
    最近特にそう感じるようになった。

    アルベドが師匠の推薦状からモンドにきてしばらく経った。
    アリスはアルベド、騎士団にクレーを預けて旅に出てしまった。
    アリスがいた頃のクレーは、たまに甘えてくる程度で特に悪い印象はなかった。
    自分より小さな女の子って存在が少し珍しくも感じたくらいだ。

    しかし、アリスがいなくなってからのクレーはアルベドにとっては悩みの種でしかなかった。
    「あうべどおにいちゃ、遊んで!」
    アルベドが研究室に籠っていると、毎日必ず彼女がやってくる。
    アルベドの行っている実験は時と場合により小さな子供が近づいたら有毒にもなりえる。「勝手に入ってきちゃ駄目じゃないか。」
    アルベドはそう叱咤して毎回彼女を部屋から追い出す。
    「あとで遊んであげるから、今は外で遊んでいてくれ。ボクの実験室は遊び場じゃないんだ。いいね?」

    扉を閉めると、必ず扉の奥から泣き声が聞こえる。
    でも所詮子供の我儘だ。こんなの、甘やかせない方がいい。アリスさんだって、厳しくするところはちゃんとしていただろうから。



    そんな日が続いて、しかしクレーは何度繰り返しても凝りずにアルベドの実験室に入りこむのだった。

    毎日だとさすがのアルベドもうんざりしてしまう。
    「悪いけれど、ボクは実験で忙しいから邪魔しないでくれるかな?今日でこの実験を終わらせたらググプラムを集めて他の実験をしなくちゃいけない。とにかくキミに構ってる暇はないよ。」
    アルベドはそういってクレーに背中を向けた。
    クレーはうう…と泣きそうな声をあげるがアルベドにとってはそんなもの関係ない。今は小さな女の子の相手をすることよりも実験の方が大事だ。師匠の課題をクリアすることが一番なんだ。

    気付けばクレーもその場からいなくなった。きっと、外へ遊びに行ったのだろう。これでいい。ボクが相手しなくてもクレーの遊び場は外にたくさんあるのだから。騎士団の手の空いている者やモンドの人が何とかしてくれているだろう。




    クレーがいない。いつものことだ。
    彼女は落ち着きがなく少し目を離すとすぐどこかへ行ってしまう。
    しかし、今回はそれだけで済む問題ではなかった。
    夕方になっても帰ってこないのだ。
    いつもならこの時間はお腹すいたー!なんて言いながらキッチンに駆けてくるのだから。
    「はあ……」
    アルベドは深い溜息をつくと、家を飛び出す。
    近隣の人に話を聞くと、クレーは奔狼領へと向かったのだという情報を入手できた。


    「クレーどこだい?全く、ここまで人に迷惑かけて……」

    奔狼領を歩き回るがそれらしき姿は見えない。
    ただでさえここは狼が多いのだ。小さな女の子一人が歩き回れる場所ではない。

    アルベドは疑似陽花を設置して高いところから探すと、ある木陰の下に座っているクレーを発見した。

    「クレー!」
    アルベドは慌てて彼女の元に駆け寄る。
    恐らく交戦はあったのだろう。彼女の体は傷だらけで、地面もあちこち焼けた痕がある。落ちている残骸を見るに、戦ったのはヒルチャールのようだった。
    「クレー、いきなりこんなところに一人で行ったら危ないじゃないか!しかもそんなに怪我をして。遊ぶのはキミの自由だけれどこうやって人に心配かけて…ってあれ?」
    アルベドは彼女の持っているものを見て目を丸くする。


    「あうべどおにいちゃ、探してたぐぐぷらむ…取ってきたよ…」
    クレーは擦り傷だらけの体を引きずって、ググプラムをアルベドへ手渡した。
    「これは……、ググプラム?でもクレーどうして?」
    「あうべどおにいちゃ、忙しいって言ってた。だからクレー、おにいちゃ手伝いたい。」「だからってそんなボロボロになるまで…」

    理解できない。本当に子どもは苦手だ。
    ボクはこの子に優しくしたことなんて一度もない。
    むしろ鬱陶しい、邪魔だと何ど怒鳴ったことだろう。
    ボクはこの子に嫌われたっていいくらいのことをたくさんしているんだ。それなのに、どうして彼女はここまでしてボクのためにしてくれるんだろう?

    「どうして………」


    「だって、大切なお兄ちゃんだものね。」
    どこからか、アリスの声がした気がした。


    初めてクレーと会った時もアリスさんはボクを兄と呼ぶようクレーに教えていた。
    所詮兄なんて、ただの世話係でしかないのだろう。それ以外に意味があるなんて考えたことなかった。
    つまりクレーは、ボクが自分の兄だから。それだけの理由で身を挺してこんな危険なことをしたというのか。


    「あれ、あうべどおにいちゃ、泣いてるの?」
    「泣いてる?ボクが?」
    泣く、っていうのがどういうものかは知っている。悲しい時、人は泣くのだと知ってい
    確かに目頭が熱い、指で目をぬぐうと確かに涙が出ているのがわかる。

    「じゃあ、ボクは今悲しくて泣いているのかな?」
    と涙をぬぐいながらクレーに尋ねる。
    「ううん、それは違うよ。」クレーは首をふるふると振る。
    そして、アルベドを見あげる彼女はなんだか一回り成長したような、そんな錯覚がした

    「だって、今のアルベドお兄ちゃん顔が笑ってるよ!」
    思わずクレーの顔を見る。彼女は満面の笑みを浮かべていた。
    「ママが言ってた。悲しい時に流す涙と嬉しい時に流す涙があるんだって。それでね、嬉しい時に流す涙が一番綺麗なんだって。だから、今のアルベドお兄ちゃんはすごくキラキラしてるの!」

    そう言ってクレーはぎゅうっと抱き着いてきた。
    アルベドは彼女を抱き返し、頭を撫でながらこの子にはもう敵わないなと実感した。

    ボクはこの子に会ってから振り回されすぎている。笑うことも怒ることもなかったこのボクがこんなにすぐ感情を覚えたのだから。
    血の繋がりこそないけれど、師匠のようにはなれないけれどこの子はきっとボクに与えられた宝物なのだろう。



    「アルベドお兄ちゃーん!探してたググプラムの実持って来たよー!」
    ドラゴンスパインの一角、アルベドの拠点をクレーが駆けてくる。

    「クレー!?まさか朝ボクが言ってたことを覚えてたのかい?確かにググプラムを採取して実験に使うってことは言ったけれどクレーに頼んだわけでは……」
    「クレー、モンドの特産品は全部覚えてるもん!それにレザーも手伝ってくれたし。クレーがアルベドお兄ちゃんのお手伝いをしたらその間はずっとアルベドお兄ちゃんの傍にいられるでしょ?だからクレー、アルベドお兄ちゃんと一緒にいたい!」

    クレーは籠にいっぱいのググプラムをアルベドに渡す。
    アルベドはそれを見、真剣な顔のクレーを見つめるとクスッと吹き出してしまう。

    「なるほど、確かにそうだね。それじゃあ、この実験が終わったら残ってる材料でお菓子でも作って一緒に食べようか。せっかくクレーが来てくれたんだからね。」

    アルベドがクレーの頭を撫でると、クレーはやったぁ!と抱き着いてきた。


    2.プロポーズ

    それは先月、金リンゴ群島へ赴いた時の事だっただろうか。


    金リンゴ群島はこれまで見たことがない景色、生物がありアルベドにとってスケッチしてもし足りないくらいだった。

    共にトワリンに乗って来たディルック・ガイアを置いてけぼりにしてまで。さらに言えば群島の謎を解こうとしていた旅人たちと別行動を取ってまでアルベドにとってスケッチし甲斐のある未知に溢れた場所だった。

    故に、今日も一人でスケッチに出掛けている。

    「ええと、あれは昨日描いたから……そうだな、あれとかどうだろうか。」
    アルベドは海辺にあるウミレイシの前にかがみこむ。
    モンドでは見たことがない不思議な石。どうやら稲妻にはあるようだが、鎖国令が出ている今、稲妻へ出掛けることは叶わないのでとても珍しいのだ。

    アルベドはウミレイシの前にキャンパスを組み立て、スケッチブックの白いページを開く。
    絵の具とパレットを取りだして準備は完了。
    それではいざ描こうか、というところで。



    「アルベドお兄ちゃん!」

    思わぬ邪魔が入ってしまった。
    声の主は聞き間違えようもない、義理の妹のクレーである。
    こういう時、てっきりジン達と共にいるものと思っていたが。

    「クレー、どうしたんだい?魚を取りに行くって言っていたよね。」
    アルベドは駆け寄ってきた妹の顔を覗き込む。

    「お魚もたくさん取ったよ!今晩の夕食にしようねってジン団長が言ってた!」
    彼女は満面の笑みを浮かべ、少し照れくさそうに。

    「それでね、クレーせっかく久々にアルベドお兄ちゃんに会えたのに全然お話できてなかったから会いに来ちゃった……。もしかしてアルベドお兄ちゃん今忙しいのかな?」
    クレーは少し心配そうな表情を浮かべる。

    ……はあ。
    もはや溜め息をつくしかない。
    こんなことを言われて追い返せる者がいるだろうか。

    アルベドはクレーの頭をぽんぽんと撫でてやる。
    「忙しくはないよ。ちょっとスケッチをしようとしていただけだ。」
    アルベドはもはやこの時点でスケッチは諦めていたが。まあ、ウミレイシは明日でもスケッチはできろうだろうし。

    クレーは良かった!と安心しきった表情を浮かべてアルベドのキャンパスをのぞき込む。
    クレーもたまに絵を描くことがあるので、スケッチブックの用途はもちろん知っている。
    「これに絵を描くの?」
    「うん、そうだよ。」
    そう言ってアルベドは自分が持っているパレットと筆を彼女に渡す。

    「クレー、何か描いてみるかい?キャンパスを使うのは初めてだったよね。例えば目の前にあるウミレイシとかどうかな?」
    ちょうど描くつもりで目の前に置いたのだから、題材としてはこれ以外あるまい。

    「お絵描き?クレーうまく描けるかな?」
    「最初から上手く描けなくていい。ボクも最初は全然描けなかったんだ。上手に描くことより、楽しく描くことを考えて。ほら。」

    アルベドはキャンパスの高さをクレーに合うよう調整する。さすがに腕を伸ばしながら描くのは難しいだろうし。

    「ここに絵の具を出して、水で溶いて、筆につけたらスケッチブックに描くんだ。」
    アルベドが使い方を教えている間クレーは真剣に話を聞いていた。

    最初はうーんと唸りながらスケッチブックをびしょびしょにしたり、無残なものになっていたが次第に慣れてきたのか、楽しそうに筆を動かしている。
    アルベドはそんな妹を後ろから地面に腰をつけて眺めていた。

    (ちょっと説明しただけでこれか、飲み込みの早さは一流だね。これはもしかしたらすごく上手になるかもしれない)

    アルベドはキャンパスの前で格闘する妹を見、微笑む。



    「ううん……いったん休憩。」
    クレーは筆をキャンパスを置くと、その場に座り込んだ。

    「アルベドお兄ちゃん何時間もここに立って描いてるの?すごいね……クレー疲れてきちゃった。」
    アルベドはくすくす笑う。
    「集中してると時間を忘れてしまうものなんだけどね。でもクレーもなかなか良い絵を描けているじゃないか。」
    彼女の芸術作品はお世辞にも絵とは言い難いものだったが初めてにしては上出来だろう。
    「本当?やったー!」クレーは腰を下ろしたまま両手をあげて喜ぶ。

    「アルベドお兄ちゃんに遊んでもらうの、久々だからクレーすごい嬉しい。ガイアお兄ちゃんやレザーも遊んでくれるけど、アルベドお兄ちゃんと遊ぶのもクレー楽しいな。」

    そんなこと言われると、兄冥利に尽きるものである。
    確かに最近はドラゴンスパインに籠ってクレーは騎士団に任せっきりな生活だったからそう言われてしまうのも無理はないのだけれど。



    「あっそうだ、アルベドお兄ちゃん。」
    クレーはアルベドの隣に座り直し、尋ねる。
    騎士団の仕事をする上で何か気になるものでもあっただろうか。
    「なんだい、言ってごらん。」


    「あのね、家の近くにいるお姉さんがけっこん?っていうのをするんだって。」
    「へえ、それはおめでたいことだね。」淡々と返事をする。
    「うん、騎士団の皆もおめでたいねって言ってた。それで、その……、けっこんって何なのかな?クレーどうして皆おめでとうって言うのかわからないの……」
    おや、騎士団の人に意味を尋ねなかったのか?それとも、説明が分からなかったのだろうか。
    もし後者なら言い方を考えなくてはなるまい。


    「そうだね、男性と女性が一緒に助け合って生きようって約束をすることだよ。その人も相手を見つけて約束をしたってことだね。これはその人にとって幸せになるための一歩なんだ。その一歩を踏み出したことを皆でお祝いするんだよ。」

    クレーはうーんと考えこむ。
    「けっこんする相手ってパパやママとは違うの?」
    「子供は大人になると一人前となって親元を離れるんだ。そのとき、一緒に助け合うパートナーを探すんだよ。それが結婚する相手だね。」
    「クレーもいつかその人を探さないといけないの?」
    「そうだね、クレーも大人になったら相手を探すこともあるだろう。」

    クレーの質問は立て続けに続く。

    「そのパートナーとはずっと一緒にいられるの?パパやママみたいに遠くに行っちゃったりしないの?」
    少し心の痛む話だ。

    「クレーが相手にそれを望むならそれに応えてくれる人を選べばいい。アリスさんみたいな冒険家の人は難しいかもしれないけどね。」
    「クレーと一緒にいてくれる人……、誰がいいのかなあ……。」
    クレーは空を見上げて呟く。

    「ガイアお兄ちゃんは優しいし、レザーやベネットはたまに遊んでくれるし、旅人のお兄ちゃんもいるし……ガイアお兄ちゃんと一緒にいた人も一緒に魚取りにくれくれたし。クレーの周り、優しい人がたくさん。   でもクレー、一緒にいられるならアルベドお兄ちゃんがいいな。」
    アルベドは驚いてクレーの顔を見る。
    「それはどうしてかな?」
    「アルベドお兄ちゃんはママが認めたお兄ちゃんだから。クレーがアルベドお兄ちゃんと一緒にいたらママが喜ぶでしょ。それにクレーも、パパとママが遠くに行っちゃった時、アルベドお兄ちゃんがいたから今もこうやって笑っていられるんだよ。アルベドお兄ちゃんがいなかったらクレー、寂しくて泣いてたと思う。」

    アルベドはふと、アリスさんたちが出掛けてしまったときのクレーの悲しそうな顔を思い出した。
    あの日は確か仕事を休んでクレーと一緒にいたんだったか。夜クレーが眠れるまで本を読んであげていたことも鮮明に覚えている。

    「アルベドお兄ちゃんは、クレーと結婚してくれる?」
    クレーは縋るような表情を浮かべる。

    「そうだな……まずはクレーがもう少し大人にならないとね。」
    アルベドは正面を見据えながら淡々と返答する。決して興味がないわけではない。こういう時どのような顔をすれば良いか分からないだけだ。

    「クレーが大人……クレー、大人になれるのかな?」

    「なれるよ。クレーが大人になったらアリスさんみたいな綺麗な女性になっているだろうね。」
    本当?とクレーの表情がぱあっと明るくなる。

    「だったら、クレー頑張って大人になる!それでアルベドお兄ちゃんと結婚して、クレーがアルベドお兄ちゃんを守るの!」

    守る、ときたか。これはまた随分と頼もしいプロポーズだね。
    「あはは……それは楽しみだね。クレーが大人になるのを期待して待っているよ。」
    アルベドはくすっと笑う。

    そんな話をしていると空が赤く染まって来る。
    話しこむと時間なんてあっという間に過ぎてしまうものだ。

    「ほら、クレー。もう夕方だ。スケッチの続きは明日にして今日は皆のところに戻ろう。暗くなったら移動しづらくなってしまうからね。」

    アルベドはそう言って立ち上がる。
    クレーも空を見あげると、はっと驚いて立ち上がる。

    「もう空が赤くなってる!さっきまで明るかったのに……。」

    「本当にあっという間だね。クレー、ボクはキャンパスを片づけてくるから先に戻っててくれるかい?すぐに追いかけるよ。」

    アルベドがそういうと、クレーはこくりと頷いた。

    「うん、分かった!先に行ってるね!」
    クレーは島の中央へとかけ出す。


    アルベドはキャンパスからスケッチブックを取って、クレーの芸術作品を見る。
    そして、大きな溜め息をついてその場にしゃがみ込む。





    「クレー、それはちょっと笑えない冗談だよ……」

    アルベドは顔を伏せ、左手で目を覆う。髪の隙間から除く耳が完全に真っ赤になっていた。


    3.たくさんの好きについて

    「アルベドお兄ちゃん、だーいすき!」

    クレーが満面の笑みで抱き着いてきた。
    今日の夕食は、クレーの好きな料理を選んで作ってあげたからそれが嬉しくて抱き着いてきたんだろう。
    彼女がこうして甘えてくるのもお馴染の光景だ。これが嬉しくてつい甘やかせてしまうこともある。
    甘やかせすぎたらいけない、ってジンにも言われたんだけどね。
    例え馴染の日常風景だとしても、これはボクにとってとても貴重で大切なものだ。そもそも、日常だといってもいつ壊れるかもわからない日常なのだし。

    ボクがこの日常にこだわっている理由。
    それはいつも初めて言われた時のことを思い出すからだ。



    「アルベドお兄ちゃん、だーいすき!」
    それは道に迷ったクレーを探しに行った日のことだっただろうか。事実彼女は本当に困って致し、ボクが来なかったらモンドへ帰れなかった可能性が高い。
    ボクとしては保護者としてアリスさんに任されていることだったから少なくとも心配だったから探しに行ったわけではない。立場としてそうしなければいけなかったからだ。
    そんな時唐突に彼女にそう言われて、ボクは困ってしまった。


    「クレー、好きってどういった感情なんだろうね。」
    ボクは彼女にそう質問を投げかけた。
    もちろん、好きに種類があることとだとか、たとえ話のようなものは知っている。ただ、ボクの中ではまるで他人事のようで自分の中にそういった感情があるのか分からなかった。
    クレーはボクに対して好きだといった。それじゃあボクは?クレーに対して好きという感情は果たしてあるのだろうか。

    「えーっとね、一緒にいて楽しいとか、その人のために何かしてあげたいって感じる人のことだってママが言ってたよ。クレー、アルベドお兄ちゃんと一緒だと嬉しいしお手伝いしたいって思うの。だからクレーはアルベドお兄ちゃんのことが好きだよ。」

    理由は分からないけれど、クレーはボクのことを大事に考えてくれている。それはとても光栄なことだ。

    「アルベドお兄ちゃんはクレーとお話するのって楽しい?一緒にいたいって思ってくれてる?」


    クレーに言われて考えてみた。なるほど。
    ボクはこの感情について難しく考えていたのかもしれない。それなら考えるまでもない。


    「そうだね、その道理でいくのなら、ボクもクレーのことが好きだよ。」
    クレーはやったぁと笑顔を浮かべてボクの腕に絡みついてきた。

    ボクはクレーと過ごして、新しく知ることが多い。
    好きという感情もだ。師匠と過ごした間には一切不要な感情だったから知らなかったし意識したことがなかった。
    そして、そういった感情を知ることでどうしても気になってしまうことだってある。



    「師匠はボクのことを好きでいてくれたのかな……」

    ふと、口をついて出てしまった。いけない、こんなことクレーに言っても仕方がないと言うのに。
    。兄として示しをつけなければいけないと心得ているはずなのになぜかこうして弱みを見せてしまうことがある。

    いっそのこと聞かなかったことのように無視をしてくれても構わない。そうは思うけれど、彼女はこうしてボクが行き詰った時に手を差し伸べてくれる子だということもボクは知っている。クレー自身はきっと無意識だろうけれど、彼女の何気ない一言はボクにとって大きな変化をもたらすことがある。だからこそボクはクレーに今自分が欲しい何かをくれるんじゃないかって期待を持ってしまうのかもしれない。

    そして、この時も確かに答えてくれたのだ。


    「クレー、アルベドお兄ちゃんのおししょーさんのこと分からない。ママもあまりお話はしてくれたことがないから」
    うん、クレーのその回答は正しい。ボクも師匠の話はあまり彼女にはしていない。

    「でもね、アルベドお兄ちゃんがその人の事好きなんだっていうのはクレー分かるよ。アルベドお兄ちゃん寂しそうだから。」

    「寂しそうだと好きってことになるのかい?」

    「うん、そうだよ。好きだから寂しくなるの。クレーもアルベドお兄ちゃんと一緒にいたいから帰ってこない日はすごく寂しいからわかるの。」

    「ご、ごめん……。」
    つい研究に没頭すると確かに帰らない日もある。そういう日はジンに任せてしまうわけだけれど。
    先ほどの不安を抱いた自分を恥ずかしいように感じた。彼女に寂しい思いをさせているボクだって好きを伝えられてはいないじゃないかと。

    「ううん。我儘言ってごめんなさい。アルベドお兄ちゃんがそのおししょーさんのために頑張ってることもクレー知ってるから。お兄ちゃんの邪魔もしたくない。だから我慢するんだ。」
    クレーはそう言ってすり寄ってきた。

    「それにね、今こうしてクレーのこと想ってくれたのが嬉しいんだ。アルベドお兄ちゃんからの好きって気持ちをたくさん感じられてクレーのここ、すごく温かい。」

    クレーは自分の胸に手を当てる。

    ボクはなんとなく、クレーが言う好きという感情が理解できたような気がする。
    そして、師匠が自分にそんな感情を向けてくれていたのかと考えると胸がぎゅっと締めつけられてしまう。
    もし、違うと言われてしまったら。そう考えてしまうのが怖い。


    「決めた!クレーがおししょーさんの分もいっぱい!アルベドお兄ちゃんに好きって言うようにする!」

    クレーは名案と言わんばかりに手をぐっと握って見せた。

    「アルベドお兄ちゃんが寂しくならないようにクレーがいっぱいアルベドお兄ちゃんにいっぱいいっぱい好きを伝えるんだ!おししょーさんのことは分からないけど、アルベドお兄ちゃんが好きって気持ちならクレー負けないよ!」

    そう言ってぎゅうっと抱き着いてきた。
    この小さな体からは想像もつかないほどの、深いぬくもりを感じた。
    うん、考えるのはよそう。ボクのことを想ってくれている妹がいるということはものすごく幸福なことなのだから。

    「ありがとう、クレー。ボクはキミのような妹を持ててすごく幸せだよ。」
    彼女の頭を撫でるとふふ、と笑みを見せる。

    「クレー、いつかアルベドお兄ちゃんのお手伝いももっとできるようになれたらいいな。れんきんじゅつのこと、全然分からないから今は難しいけど……。」

    そんなことはないよ。ボクはこんな小さな女の子からたくさんのことを教わった。それは師匠から教えてもらわなかったものばかりだ。これはボクにとっても大事なもので、初めて知る感情で。クレーからはすでに数えきれないくらい助けられている。

    そう彼女に返したかったのだが、ボクは何も返すことができずただ抱きしめているだけだった。

    目が熱い。なぜだか呼吸が荒い。

    そう、その時ボクはその時ずっと泣いていたのだから、返事ができなかったのは当然かもしれない。



    それ以来、クレーの大好きが聞きたくてボクは甘やかせる日が相も変わらず続いている。
    例えば、今日はクレーの欲しいものを買ってきた。
    クレーは大好きと言って今日も抱き付いてきてくれた。
    ボクにとってのかけがえのない日常だ。

    ボクは手の中にいる小さな少女を見つめる。
    うん。ボクもクレーのことが大好きみたいだ。


    4.2号


    それはとある少女の誕生日がきっかけだった。

    「お誕生日おめでとう、クレー」
    モンドの騎士団にある某所にて、クレーの誕生日が祝われていた。そこには彼女の友人達が集い、たくさんの料理やスイーツを堪能している。
    誕生日はエンジェルズシェアを貸し切るというのが日常的ではあるが、主役であるクレーのことを考えて今回は騎士団に会場を設けたといった形である。
    アルベドも彼女の兄として、今日という日をお祝いしていた。
    クレーはアルベドやベネット、レザー。ジンにガイア、バーバラ。モンドに住む多くの友人や仲間からもらった誕生日プレゼントをぎゅっと抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
    「クレー、皆がお祝いしてくれて嬉しい! 」
    アルベドもそんな彼女の笑顔を見て、顔を綻ばせる。

    しかし、その直後に彼女に発せられた一言で状況が変わる。
    「アルベドお兄ちゃんの誕生日も絶対にお祝いするね!」
    「……」
    そこでアルベドは少しバツの悪い表情を浮かべる。別に悪い思い出があるとかではないし、迷惑というわけでもない。ただ……。
    「すまない、クレー。実はボク、自分の誕生日がわからないんだ」
    誕生日を生まれた日とするなら、アルベドは造られた日となるだろうか。レインドットの錬金術ノートあたりには記録されていそうだが、彼女はここにいないし500年も前が誕生日だなんて知ったらさすがにこのエルフも驚くことだろう。
    師匠と一緒にいた時は研究一筋で誕生日をお祝いするという習慣がなかった。だからこそ、初めてモンドで誕生日という話を聞いたときは驚いたものだ。こんなに、温かくて素敵な記念日があったのだと。
    しかし、ホムンクルスたる自分はきっと同じような記念日はきっと与えられないだろうとアルベドは考えていた。そもそも造られた日が分からないのだから。
    しかし、クレーはそれで諦めることはなかった。
    「じゃあ、クレーがアルベドお兄ちゃんの誕生日を決めてあげるね!」




    「とは言ったものの……」
    クレーは騎士団の入り口で途方に暮れていた。
    そう、反省室帰りである。
    ここで何をしているのかと言うと、起こした事件の後処理でもなく人を待っているわけでもなく。アルベドの誕生日に何をすれば良いか分からない、と言う普通の少女らしい悩みだった。
    「クレー、いつもはプレゼントを用意して一緒にケーキを食べてるけどアルベドお兄ちゃんは特別だし、騎士団でパーティしてくれるってガイアお兄ちゃんが言ってたし……」ガイアのことだから、きっと彼に任せておけばしっかり手配はしておいてもらえるに違いない。しかし、クレーは言い出しっぺとしてただ待っているだけというのはどうにも耐えられないようだった。

    「クレーどうしたの?」
    そんな時に助け船が現れた。テイワットを旅する旅人である。
    彼……彼女はアルベドにとっての友人の一人だ。
    クレーにとっても頼れる存在である。

    「あのね。アルベドお兄ちゃんのお誕生日パーティを開くんだけど、クレー何かできないかなって考えてたの」
    「誕生日? アルベドって誕生日が近いのか?」
    横から声をかけてきたのは旅人のガイド役たるパイモンである。
    パーティか? ご馳走か? と期待を馳せる彼女にクレーはこくりと頷く。
    「ガイアお兄ちゃんがほとんど準備してくれるから、大丈夫だと思うんだけどせっかくのお祝だし……」

    クレーは旅人とパイモンにいきさつを説明した。
    「うーん……」
    そして騎士団で頭を抱える人物に旅人とパイモンが加わる。


    「もしパーティをするなら、まずは人を集めるところからじゃないかな? 誘っている間に誰か良い案を出してくれるかも。」
    旅人がそう言うと、パイモンも深く頷く。
    「あ、そうだ! ならアルベドのことを知ってるやつに会いに行って話を聞いてみようぜ! 何か協力してくれるかもしれない!」
    パイモンはそう言うと、手始めにと言わんばかりにアカツキワイナリーを指さす。


    「アルベドの誕生日?」
    場所はアカツキワイナリー。そこにはオーナーのディルックがちょうと訪れていた。
    「なるほど、そういうことか。エンジェルズシェアを1日貸し切りになんてガイアが言ってたが。なら僕に良い考えがある」
    ディルックはそう言って部屋の奥へと消える。何だ?レドデコスでもするのか?といった期待こそあれ彼が別段何かを持ちだすこともなく。
    「特別価格のぶどうジュースを多く手配するよう準備しておいた。まあ、どちらにせよガイアが手配していたとは思うが」
    「ありがとう!」クレーはディルックに微笑みかける。
    彼は不器用ながらにも微笑み返した、気がした。



    「なに!アルベドの誕生日だって?」
    璃月にて。行秋を訪ねる。
    彼はアルベドから名前を聞いて以来白亜先生ではなくアルベドと呼ぶようになったのである。
    「わかった。 後でモンドまでお祝いをしに行くよ。連れもいて良いのだろう?重雲もモンドは興味あると思うんだ。とりあえずどうしようか、小説を書いてみても良いかもしれないな」
    そう言って行秋は手元に合った紙にメモを書き始めた。
    こっそりとのぞき込むが、相変わらず文字が読みづらい。きっと執筆で忙しくなるだろうからと一行は行秋に別れを告げる。
    万葉にも声をかけて、あとは稲妻だろうか。


    「なんやクレーちゃんやないの! わざわざ稲妻までどうしたん?」
    花火師、宵宮の元へ訪れる。彼女はアルベドとも面識があるし、きっとクレーの力になってくれると旅人が薦めたのだ。

    「へえ、白亜先生誕生日なんか?ならお祝いせなあかんな! 任せとき、ウチが花火をぎょーさん打ち上げたる! 」
    そう言って彼女は家の中に入ったかと思うとしばらくして戻ってくる。
    「ところで旅人、ワープポイントは使わせてもらえるんやろ?」
    唐突にメタいことを言うのであった。
    アルベドのことを知っている人たち、もちろん神子や心海にも声をかけてお土産を買うと一行はモンドへの帰り道をたどる。


    「すごーい、これなら当日はたくさんの人が増えて賑やかになるかも!」
    クレーは嬉しそうに飛び跳ねる。
    「オイラもわくわくしてきたぞ!エンジェルズシェアも人でいっぱいになるかもしれないな!」
    パイモンも調子づいてきたようだ。

    そのままワープポイントを使おうとして、旅人は冒険者協会の依頼を終えていない事に気付く。
    「どうしよう、クレーを付き合わせるのは申し訳ないし……。最寄りまで送ってからの方が良いかな。」
    旅人とパイモンはモンド城近くのワープポイントへクレーを連れていくと、そのまま別れを告げた。
    いつもならこの距離は敵が現れることもなく平和な道である。
    しかし、タイミングと言うのはどうしても悪いもので、宝盗団がちょうど移動中なのだった。
    「こんなところに子供か?」
    旅人が立ち去った後、クレーを男性の集団が囲み始める。
    「ちょうど新しい武器を試したかったところだ。もし命だけでも助けてほしいなら身ぐるみ置いて去りな」
    小さな少女にすら容赦がないようだった。
    「っ!!」
    クレーはとっさに爆弾を握りしめる。
    「駄目!今日もらったものはアルベドお兄ちゃんに渡す大切なものだもん!絶対に渡さないよ!」
    クレーは爆弾をたくさん抱えて彼らを睨み付ける。
    少女とはいえ、花火騎士の異名を残す実力の持ち主だ。そう簡単には負けることもないだろう。
    襲いかかる宝盗団もすぐに追い払ってしまうのだった。
    「わっ……!」
    しかし、そんな彼女も囲まれてしまうと太刀打ちもできず。
    背後を狙ってきた男性につい驚いて爆弾を取り落としてしまう。
    「わわわわ!」
    クレーは慌てて受け身の姿勢を取る。きっと男性の強力な一発が取んでくるだろうから。クレーの小さな体ではひとたまりもないだろう。

    ガッッ

    「う……あ、あ、あれ?」
    しかし、彼女に傷は一つつかずその男性は目の前で倒れたのだった。
    正面を見ると、何か黒い影が一瞬にして消え去る痕が見えた。
    「誰か助けてくれたのかな……?」
    クレーは不思議に思いながらも、モンド城へと帰るのだった。





    「アルベドお兄ちゃん、早く早く!」
    「待ってくれ、クレー!」
    クレーはアルベドの腕を引っ張ってモンド城内を走っていた。
    クレーがエンジェルズシェアの扉を開けると、そこは長テーブルにご馳走が並んでいた。
    「えっと……これは?」
    アルベドは驚きを隠せずにクレーと、傍にいる旅人に視線を向ける。
    「アルベドお兄ちゃんのお誕生日だよ。」
    「誕生日?前にも言ったけれど、ボクに誕生日は……。」
    と言いかけたアルベドをクレーが遮る。

    「今日はアルベドお兄ちゃんが初めてモンドに来てくれた日なんだよ!アルベドお兄ちゃんのお師匠さんのことも、本当のお誕生日も分からないけれど……でもモンドにいるアルベドお兄ちゃんの誕生日は今日になるってママが言ってたの。今日お誕生日のお祝いをするの!」

    「そう言ってるんだ、当然付きあってくれるよな、アルベド!」
    エンジェルズシェアの入り口で出迎えてくれたのは旅人にパイモンだった。
    旅人もようこそ、とアルベドに手を差し伸べる。

    「ありがとう、クレー。それに皆。すごく嬉しいよ。」
    アルベドも相も変わらず落ち着いた様子だが、表情や声色から嬉しい気持ちがにじみ出ていた。
    酒場のメンバーも主役の登場に盛り上がりを見せて板。きっと、これからアルベドの誕生日パーティが始まり、良い1日を過ごすこととなるのだろう。




    「なるほど、自分の用事はもう済んだと。そういうわけかい?」
    背後から声がする。アルベドだ。
    エンジェルズシェアの外、モンドの街中でのことである。
    主役である彼が会場を離れるだなんて。せっかくのパーティが台無しにはならないだろうか。

    「それはボクだけに言えた話じゃないと思うけれどな。今日の主役が"アルベド"だと言うなら当然キミも参加しなければパーティにならないんじゃないのかい。」
    彼はさらに歩を進め近づいてくる。こうして彼が歩いてくる様子はまるで悪いことをした誰かを叱るようで、つい体が強張ってしまうものだ。

    「旅人から、ボクの誕生日パーティ開催までクレーを監視している者がいると聞いたよ。その人はクレーのことが心配で自分の仕事すら放棄して尾行していたのだと。確かに、ボクならそうする可能性があったと思ったからだよね?」

    彼の手がボクの腕を握る。同じ太さ。同じ色、同じ形。何もかもが同じ体だ。強いていうのなら、ボクたちを見分ける方法なんてほぼないに等しい。

    全く。ボクは語り部として部外者になるつもりだったというのに。まさかここで引きずり出されるだなんて想像もしなかった。
    そもそもアルベドが2人いるだなんてクレーや皆が知ったら驚くだろう。
    ボクはせいぜい余った食べ物を持って帰ってもらえるくらいで構わないのだ。

    「元々アルベドはボク一人を指す意味だった。でも、今ではキミもアルベドだよね。だからこそ、キミにも参加する権利はある。もちろん、擬態の彼も。」

    擬態?もしかして彼もここのパーティに?

    「もう、アルベドお兄ちゃんおそーい!早く早く!」
    クレーが酒場の扉を開けて駆けてくる。

    「席についてるの3号のお兄ちゃんだけだよ!二人が来ないとパーティ始められなくなっちゃう……。」
    「ああ、すまないねクレー。2号がなかなか言うことを聞かなくて。そういうわけだから、来るだろう?」

    アルベド1号はボクの手を引き、エンジェルズシェアの中へと連れていく。

    中はアルベドの知り合いがたくさん集まっていた。恐らくボクも会った事がない人まで
    …やはりここにボクがいるのは場違いなのではないだろうか。ボクはこのような人たちと触れ合った事がない以上祝われる資格なんてないのだから。

    「ようやく来たでござるか。」
    ボクの席のちょうど向かいにいる少年が声をかけてくる。稲妻の浪人、万葉という名前だっただろうか。北斗船長の同伴でモンドへ訪れていたようだ。その船長はすでに酔っぱらっているようだが。彼とは初対面のはずなのに、そんな素振りを見せることなく微笑みかけてきた。

    「皆にキミのことは話してある。」
    「うん!アルベドお兄ちゃんから聞いたんだ。今日は特別なお誕生日だからお兄ちゃんが三人なんだって!だからケーキも3つ用意してもらったんだよ!}
    何だよそれ。とつい笑ってしまった。この言い訳は一体誰が考えたというのか。
    「何はともあれ、せっかく大事な妹が用意してくれた場なのだから楽しまないと悲しませてしまうよ」

    1号はそう言うと、ディルックの手伝いをしているガイアからブドウジュースを受け取るのだった。
    「2号のお兄ちゃん、クレーが悪い人達に襲われた時に助けてくれたんだよね。」
    クレーはぎゅうっとボクに抱き着くとそのまま見あげてくる。
    確かにボクはあの時その場に残りクレーが宝盗団に襲われている様子を目撃している。しかし、助けるところなんて見せていないはずなのに。どうして気づかれてしまったのだろうか。

    「だって、クレーあの時にアルベドお兄ちゃんがいるって感じたから。でも他のお兄ちゃんとも違う、今クレーの目の前にいるお兄ちゃんだって分かったの。クレーのこと助けてありがとう!」
    そのまま甘えるように抱きしめられるとこっぱずかしいものがある。ボクはまだ兄妹という関係を良く知らないから。しかし、兄を演じ切らなければいけないという意識もあった。
    「あ、兄として当然のことをしただけだよ」


    「アルベド」
    そこでグラスを片手に持った旅人が歩いてくる。旅人の視線は1号に向けてだけではなく、ボクにも。そしてすでに席について物珍しそうにお肉を見つめている3号にも向けられていた。

    「今日はたくさん、楽しんで。」

    渡されたグラスにそのままカチンと旅人のそれがぶつかる。
    窓の外にはモンドでは珍しく大きな花火が打ちあがる。それはアルベドの首にある菱形のマークであったり、ドドコやパレット等アルベドにまつわる様々な花火だった。

    これが今日の主役であるアルベドに与えられた席。与えられた祝福だ。
    ボクが錬金術の失敗作でもなく、土の塊でもなく。一人のアルベドとして生誕を生まれて初めて祝われた正にその瞬間であった。

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